10-3.
「誰だ!!」
深夜。
エリックがベッドで寝ていると、何者かが部屋に入ってくる気配を感じた。
「エリック王太子殿下ぁ~。」
甘ったるい媚を売った女の声だった。
月明かりでその姿は現れた。
胸元が下品に大きく開いたドレスを着た濃い化粧の女だった。
「殿下ぁ~お久しぶりですわぁ!」
「誰だ!俺に何の様だ!」
「覚えてないなんて悲しいですわぁ~!あんなに情熱的なキスをした仲ですのにぃ!」
「キス・・・・・?」
エリックは女の顔をよーく見た。
そして思い出した。
名前は思い出せなったが、目の前の女が学生時代の浮気相手の1人だと・・・。
「出て行ってくれ!」
「酷いですわ殿下ぁ!陛下から殿下を喜ばせるように名誉ある役目を仰せつかったのにぃ~!」
「あのじじぃ!」
王様の命令で過去の浮気相手が夜這いに来たという事に怒りで拳に力が入る。
「みんな言っていますのよぉ!あの線が細く美しかった殿下がまさかこんなに野性的で逞ましい男性になるなんてっ!夜の方もさぞ素晴らしいのでしょうねぇ!」
女はエリックとの夜に期待して舌舐めずりする。
ゾワリとエリックの背中が何かが走る。
その瞬間、エリックは部屋のドアをぶち破って全速力で逃げた。
「あぁ~ん殿下~!」
「エリック殿ー?どこに行くんですかー?戻ってくださーい!・・・楽しめばいいのにあの人ピュアだなぁ。」
今晩の見張りはフレディ。
エリックを夜這いに来た女を部屋に入れた人物である。
明日あたりエリックに凄く怒られるだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、何なんだ!何なんだいったい!?」
全速力で逃げた勢いで外に出てしまったエリック。
学生時代の時とは違い、今のエリックは真面目だ。
予想外な出来事に頭痛がしそうだった。
「あんな、あんな、娼婦みたいな格好で・・・・・・・娼婦。」
何かを思い出したエリック。
「うぅ!」
酷い吐き気がして口を押さえる。
「うっ・・・・ミリア。」
ミリア。
エリックが関わった事で娼婦になった女。
「・・・・・すまない。」
エリックは出来るだけミリアの事は考えないように生きてきた。
でないと罪悪感で押し潰されるからだ。
アナベルに対しても罪悪感があるが、ミリアに対してはさらに強く罪悪感を抱いていた。
そして今、娼婦のような格好をして夜這いに来た女の姿にミリアが重なり、ミリアの人生がめちゃくちゃになった事への罪悪感が湧き出てしまった。
「はぁ・・・・・。」
エリックがふらふら歩いて着いた場所は修練場だった。
修練場の壁を背にして座り込む。
「何で俺は生まれてきたんだ・・・。」
自分が最初からいなければアナベルもミリアの人生も幸せだったかもしれないと、エリックは自分を憎んだ。
「疲れた。」
そしてそのまま疲れ果て眠りについた。
朝。
「王太子殿下?」
「エリック殿って言わないと怒られるぞ。エリック殿ー?こんな所で寝てると風邪引きますよ?」
「エリック殿起きてくださーい!」
複数の騎士が寝ているエリックの周りに集まる。
エリックは薄っすらと目を開けるとゆっくりと起き上がった。
「すまない・・・ここで寝てしまった。」
「別にいいですが風邪ひきますよ?」
「そうですよエリック殿!夜這い相手から逃げてここで寝てしまっただなんて、そんな理由で風邪をひいたなんて知られたら恥もいい所ですよ~!」
「は?夜這い?」
いらん事を騎士達の前で暴露したフレディ。
「フレディお前っ!」
フレディにエリックの渾身のゲンコツが落ちた。
ザッザッザッ
小走りで何処かへ向かう騎士の集団がいた。
そこはエリックが住んでいた場所よりも王都から離れた国境の街。
国境の街は半分がスラムだった。
そのスラムの中心にはガラクタの山があった。
ガラクタの山の頂上に座るのは、ピンクの髪と水色の瞳の美少年だ。
ザッザッザッ
綺麗に整列されたながら移動する騎士達。
騎士達がガラクタの山の前で止まると、先頭の騎士が一歩前に出た。
「お迎えに上がりました。王子殿下。」
美少年は水色の瞳を見開くと次第に眉間に皺を寄せていった。
「は?」
美少年の不機嫌そうな声がスラムにやけに響いた。




