10-2.
冷めた目のアナベルは口を開く。
「それでわたくしに何を聞きにいらして?」
「あ、ああ・・・父も母も養子を取ることを拒否するんだ。二人の事をよく知る君ならどう説得すればいい分かると思って・・・。」
「お二人に嫌われてるわたくしに分かると思って?」
「それは・・・。」
何も言えなくなるエリック。
アナベルはふぅーっと息を吐いた。
「王太子になった後でエリック様が養子を取ればよいでのは?」
「それは・・・。」
「ふふ、嘘ですよ。でも、エリック様が王太子になってゆくゆくは王様になってこの国を治めて養子を取るのが1番確実ですわ。」
「責任ある立場になったら平民に戻れないじゃないか・・・王にまでなったら尚更。」
「冗談ですわ。わたくしが1番楽になる方法を教えただけ・・・わたくしには思いつかないのでご自分で考えてくださいませ。」
「・・・・・わかった。仕事の邪魔をしてすまなかった。」
アナベルは少し笑うと再び資料に目を落とした。
部屋を出ると執務室のドアの前でエリックはため息を吐いた。
「俺が、王太子に戻れば全て丸く収まる。だが・・・。」
エリックには待っている家族がいる。
「どうすれば・・・。」
ただ悩むしかエリックには出来なかった。
その夜。
エリックの部屋にたくさんのメイドが入ってきた。
「なんだ!?」
メイドは上質なジャケットとシャツと服を差し出す。
「お着替え下さい。」
「何故だ?」
「お着替え下さい。」
「だから何故だ?」
「お着替え下さい。」
「・・・・・・・。」
質問をしてもお着替え下さいとしかメイドが答えないので、メイド達からの圧もあり仕方なくエリックは着替えた。
ちなみにメイド達が泣き落としで着替えを手伝おうとするので、めんどくさいので仕方なく受け入れた。
「髭も剃りましょう!」
「断る!!」
髭だけは断固として守ったエリック。
髪も整えられ、どからどう見ても立派な貴族の男に見えるようになった。
メイド達に連れられて来た場所は王の玉座の扉の前。
扉が開かれるとたくさんの貴族が一斉にこっちを見た。
すぐさま部屋に戻ろうとした嫌がるエリックをメイドが4人がかりで玉座の間の中心まで押した。
「(まさか無理矢理!?)」
エリックのその予感は当たった。
「皆の者!第一王子エリックがこうして立派になって帰ってきた!」
王様の言葉に盛大な拍手が上がる。
「噂に聞いていると思うがエリックは王太子として戻った!我が国の王太子はエリックだ!」
拍手。
エリックの「はぁ?意義あり!」の言葉は拍手でかき消される。
「アナベル。」
「はい。」
アナベルは王様の隣に並び立つ。
「そしてエリックの婚約者は昔の婚約者だった、ここにいるアナベルと再び婚約させるものとする。」
シーンと静まり返り、徐々にざわつく。
そこらかしこからアナベルに対する批判があがる。
「皆の不満も分かる。だが、アナベルは王太子妃としてやってきた実績がある。我が二人の息子の事とは別にしてな・・・。」
アナベルは憎い相手ではあるが仕事ぶりは評価はしているようだ。
「勝手に決めないでください!」
声を張り上げるエリックに周囲にいた貴族達は目を丸くする。
王様は呆れたようにため息を吐いた。
「今は黙るんだエリック!いつか王太子に戻る予定だったのが早まっただけだ!結局は同じこと!エリック、お前は王太子に戻ったのだ!」
あまりの父の身勝手さにエリックは唖然とした。
「王太子になったエリックのお披露目はすんだ!もう用はない!エリックを部屋まで連れて行け!(これ以上余計な事を言われたら変な噂が経つ。)」
騎士達が現れてエリックを引きずっていく。
「話を!陛下っ!放せお前たち!!」
エリックが連れていかれ会場はざわついていた。
王様がパンパンッ!と手を叩く。
「さぁ!今日はエリックが王太子に戻った記念のパーティーだ!パーティーの続きを楽しむとしよう!」
王様の言葉に貴族達はパーティーの続きを始めるのだった。
しばらくして。
「エリック殿どちらへ行かれるのですか?」
「パーティーに戻られるならこちらですよ。」
部屋から出た所をカイとトーマスに呼び止められるエリック。
エリックは自分の持ってきた服に着替え、片手に自分の荷物が入った袋を持っていた。
どう見ても城から逃げようとしていた。
「いけませんよエリック殿。」
「そんな事をしたら王太子妃殿下に迷惑がかかります。」
「ろくな話し合いもせず勝手に王太子だと発表されたんだぞ!こんな所にいられるか!」
「落ち着いてくださいよエリック殿。強硬手段に出られて腹が立っているのはわかります。けれど王太子妃殿下の為だと思って耐えてください。」
「そうですよ王太子妃殿下が大変な目にあっているのはエリック殿が悪いんですからね!」
はっきりとエリックが悪いというトーマスに、困ったように眉間に皺を寄せるエリックは少し冷静になって荷物の袋を下に置いた。
「しばらく帰れないと手紙を書く。」
長期戦を覚悟した。




