6.愛憎混じる昨今の複雑な王族事情
「恋人でもない者を抱きしめるなんて非常識で無礼です!エリック様でなければ重罪で処刑されてますわよ!」
泣き止む変わりにプンプンと怒るアナベル。
エリックはアナベルに張り手をされた頬を押さえながら素知らぬ顔をしている騎士2人を睨んだ。
「はぁ・・・兎に角、今のエリック様を知る事ができましたわ。わたくしに殺されてもいいなんて言っていましたが、殺される代わりに王太子に戻ってはくれないのでしょう?」
「それは・・・・・・すまない。」
「ふふ、そうでしょうね。」
アナベルは小さく笑うと椅子から立ち上がた。
「帰りますわ。陛下にはエリック様の今のお気持ちを伝えておきます。もう一生会う事はないでしょう・・・最後に一つだけエリック様に皮肉を言ってよろしいでしょうか?」
「ああ。」
アナベルはにっこりと笑うとエリックを真っ直ぐに見つめた。
「わたくしにした数々の無礼の罪悪感から殺されてもいいとおっしゃっていましたが、わたくは貴方の事など殺したいと思う程なんとも思っていませんでしたわ。」
「・・・・・・・・。」
「ふふ、それもレーゲン様がいなくなってからでしたが。」
「・・・・・・・・。」
「貴方に婚約破棄をされた代わりにレーゲン様にプロポーズされた結婚生活では、ふと貴方にされて数々の仕打ちを思い出しては時々憂鬱になったり腹が立ったりしていましたが、レーゲン様が不倫をしてわたくしから逃げ出してから貴方から受けた仕打ちなんてどうでもよくなったのです。」
「・・・。」
「わたくしとレーゲン様に関する噂は皆さんにはどの様に広まっているのかしら?」
「メイドとの間に子を作って一緒に逃げたとしか・・・。」
「ふふふ、あー良かった!真実はそれ以上に最低でしたのよ!アーハッハッハッホントに可笑しいっ!」
清々しく笑い声を上げるアナベル。
「レーゲン様がわたくしにした仕打ちに比べれば貴方からの罵倒も浮気も冷遇も些細な虫や道端の石ころでしたわ!ふふふ、やはり兄弟ですね、2人共《《お茶がとってもお上手で》》。」
悲しみの混じった笑い方をするアナベルに眉間に皺を寄せるエリック。
エリックはアナベルの側に行きアナベル両肩を掴んだ。
「レーゲンに何をされた。」
「肩が痛いですわエリック様。」
すっと冷めた表情になるアナベル。
「レーゲンに何をされたんだ!」
次の瞬間には可笑しな物を見た様にアナベルは笑い出した。
「ふふふ、アハハッ!わたくしずっと不妊で悩んでたの。悩んで自分を責めて責めて、せっかく貴方と婚約破棄になってレーゲン様と幸せな結婚生活を遅れるようになったのに・・・王子を1人廃嫡させた原因の女が不妊なんて格好がつかないでしょ?それがまさかね・・・ふふふ。」
「まさか、レーゲンが・・・茶に仕組んでいたと?」
先程のアナベルの言葉からレーゲンがアナベルにした仕打ちを推測したエリックだったが、その胸の内は予想が外れて欲しいと願った。
「正解ですわ。レーゲン様はとても巧妙でしたわよ、毎日同じ時間に笑顔で直接わたくしに茶を振る舞ってくださったの。子が出来にくくする茶を飲むわたくしを目の前で見ないと安心出来なかったみたいですわ。あの幸せな時間が全てハリボテでしたのよ、可笑しくて笑っちゃいますわよね?ふふふ、アーハッハッハッ!あー可笑しいっ!」
「レーゲンあいつッ!!」
エリックは実弟の最低な行いに対して怒りに震えた。
「ですから!ですからエリック様がわたくしにした仕打ちなんてどうでもよくなったのですよ?エリック様がわたくしに対して罪悪感を抱いてるとかわたくしに殺されてもいいとかわたくしどうでもいいのです!死にたいならお一人でどうぞっ!」
「分かった、分かったから、笑いながら泣くのは止めてくれ・・・!」
アナベルの両肩を掴んでいたエリックの腕は力無くダラリと落ちた。
エリックの言葉にピタリと動きが止まったアナベル自分の頬に伝う涙を触った。
「あら、わたくし涙なんか流してたのね。きっと疲れているんだわ。」
エリックは片手で頭を抱えた。
自分が思っていた以上にアナベルが辛い目に合っていた事に。
兄弟揃ってアナベルを不幸にさせた罪悪感で心臓がギュッと握られているように痛く感じた。
「俺が全て悪い・・・・・最初から君を婚約者して大切に愛していれば・・・。」
「そうかもしれませんわね。ですが全て過去の事。わたくしがここに訪れた目的はエリック様を王宮にお連れして王太子に戻す事。嫌がる貴方を連れて行った所でレーゲン様のように逃げ出すのは目に見えています。そして、貴方は平民で居たいとおっしゃりました。だからわたくしはその旨を陛下に伝えに戻りますわ。」
エリックは兄弟揃ってアナベルにした仕打ちを考えれば、責任を取ってアナベルの言う事を聞いて王太子に戻るのがこの場の正解だという事は頭では理解できているが、心はそれを拒否していた。




