裏切り者なのか1-2
稽古を終えた門下生たちが広間に集まったが、そこにアーグアン、師匠、そしてライトの姿はどこにもなかった。「おかしいな、みんな揃ってどこへ行ったんだ?」チーディが不審げに辺りを見回したその時、道場の重い門が乱暴に蹴破られた。「……信じがたい光景を見てしまったよ」現れたのは、見たこともない装束に身を包んだ忍法使いだった。「ライトが、師匠とアーグアンを殺した」「なっ……!? 貴様、何者だ!」アーガンが激昂して詰め寄る。「私は霞の忍者。この目で確かに見たのだ。ライトという男が、聖剣の力に魅了され、さらなる強さを求めて師匠と仲間を手に掛ける姿をな」「嘘よ! そんなの信じないわ!」チーランが叫び、メイジウも後に続いた。「そうよ、ライトが力を手に入れるために仲間を殺すなんて、絶対にありえない!」霞の忍者は冷笑を浮かべ、静かに言い放った。「信じないか……。ならば、その『真実』を脳裏に刻んでやるがいい」霞の忍者がパチンと指を鳴らした瞬間、門下生たちの脳内に、逃れようのない鮮明な映像が強制的に流れ込んできた。映像の中のアーグアンが、不審な動きをするライトに声をかける。「ライト、何をそんなに慌てているんだ?」「……いや、何でもないよ、アーグアン」ライトの背後には、いつの間にか持ち出されたはずの毒の聖剣と記憶の聖剣が、不気味な光を放ちながら鎮座していた。「……待て。なぜお前がその二つの聖剣を持っている? それは厳重に保管されているはずだろう」アーグアンが鋭く問い詰める。ライトは一瞬顔を歪ませたが、すぐに作り笑いを浮かべた。「……。単に、もっと安全な場所に置き直そうと思っただけだよ。急用を思い出した、僕はもう行く」「どこへ行くつもりだ?」「……街を少し、散歩してくるだけさ」ライトの様子が明らかにおかしい。アーグアンは不信感を募らせ、さらに言葉を重ねた。「……一人で行かせるわけにはいかないな。僕と師匠も同行しよう。ちょうど師匠も、たまには外の空気を吸いたいと仰っていたところだ。一緒に行こうじゃないか」「……っ。いや、一人でいいんだ……」「遠慮するな。さあ、師匠を呼んでくる」強引に同行を申し出るアーグアンに対し、映像の中のライトは、諦めたように力なく、しかし底知れない冷たさを瞳に宿して頷いた。「……。分かったよ。それじゃあ、一緒に行こうか」一行が街に到着した直後、ライトが不自然な様子で足を止める。「……アーグアン、悪いけど急用を思い出した。先に行かせてもらうよ」「おい、ライト! どこへ行くんだ?」遠ざかるライトの背中を見送りながら、アーグアンは拭いきれない違和感に襲われた。「……師匠、僕がライトを追います。少し様子が変です」「……うむ、頼んだぞ」アーグアンは路地裏へと消えたライトを必死に追った。街の薄暗い角を曲がったその時――。「……!? 何だ、この光は!」突如、目の前を眩い緑色の閃光が走り、アーグアンは衝撃で地面に叩きつけられた。「……くっ、誰だ!? 姿を現せ!」「……やれやれ、どうして君はそう、邪魔ばかりするんだい?」煙の中から現れたのは、冷酷な笑みを浮かべたライトだった。アーグアンは自分の目が信じられないといった様子で、震える声を絞り出した。「……ライト? お前、何を……何をしているんだ!」「僕は、真の強さを手に入れることに決めたんだよ。そのためには、全ての聖剣をこの手に集める必要がある」「何だと……? ならば、今まで守ってきた街の人々はどうなる!」「ああ、そうだ。いいものを見せてあげよう。今頃、師匠の周りには無数の爆弾が仕掛けられているはずだよ」アーグアンの顔から血の気が引いた。「まさか……師匠まで殺すつもりか! なぜだ、どうしてそんなことができる!」「師匠という足枷が消え、お前がその灰になる瞬間を見届けるのが、僕の門出に相応しいと思ってね」「やめろ……!! やめてくれーーー!!」――ドォォォォォン!!遠くで凄まじい爆発音が響き、夜空が赤く染まった。アーグアンは絶望し、目の前の「親友」を憎しみの目で見つめた。「……お前は……お前は悪魔だ……!!」「次は君の番だ、アーグアン」ライトが手にした聖剣を振り下ろす。鋭い刃がアーグアンの胸を深く貫いた。血を吐きながら倒れるアーグアンを見下ろし、ライトは平然と通信機を取り出した。「……ああ、僕だ。片付けを頼む。痕跡は一つも残すな」『了解いたしました、ライト様。すぐに処理班を向かわせます』映像を見終えた一行に、凍りつくような沈黙と、それを切り裂くような激しい怒りが広がった。「これが……真実だというのか」ビンチェンが声を震わせる。「……もう何も言わないで。あのクズはどこ!? どこにいるのよ!」チーランは怒りのあまり理性を失い、鋭い眼光で叫んだ。「師匠……。あんまりだ……」アーガンは師匠の最期を思い、深く項垂れる。「お兄ちゃん……。あいつ、絶対に殺してやる……!!」アーランもまた、復讐の炎を瞳に宿して吐き捨てた。そんな中、メイジウだけが激しい違和感に襲われていた。「……頭が……頭が割れるように痛い……。何かが、何かがおかしいの……」彼女は頭を抱え、絶望的な苦しみに悶えている。「……こうなれば、本人に直接問いただすしかないな」チーディが重々しく口を開いた。チーランが霞の忍者に向き直り、問い詰める。「……あんた、どうして私たちにこんなことを見せたの? 目的は何よ!」「決まっている。あいつは裏切り者だからだ。我ら聖剣を持つ者は正義の忍者。悪に染まった者は排除せねばならん。……さあ、奴がいる別の街へ案内しよう。転送門はあそこだ。あとの問い詰めは、お前たちに任せるよ」一方、ライトは依然としてわけのわからないまま、静まり返った街を後にした。「……ダメだ、一度道場に戻ろう」道場に辿り着いたライトは、重い門を開けた。「みんな、ただいま! ……あれ、誰もいないのか? おーい、みんな、僕の話が聞こえるか?」静まり返った広間の奥へ進むと、そこには一人の男が悠然と座っていた。昨夜、山頂で自分を襲ったあの忍者だ。「……お前か。昨夜、僕を不意打ちしたのは!」「ほう、よく覚えていたな」ライトは周囲に仲間の気配がないことに焦りを感じ、男を問い詰めた。「仲間たちはどこだ!? それに、僕の部屋から二つの聖剣を盗んだのもお前だな!」「そうだとしたらどうする? 証拠でもあるのか?」「くっ……仲間たちが戻れば、お前をタダじゃおかないぞ!」その言葉を聞いた瞬間、謎の忍者は冷酷に、そして愉悦に満ちた笑みを浮かべた。「……ククク。お前の仲間が、今もお前の『仲間』であると、本気で思っているのか?」「……何だと?」次の瞬間、ライトの足元に異様な光が走り、視界が激しく歪んだ。「っ!? なんだ、これ――」一瞬の暗転の後、ライトが目を開けると、そこは見知らぬ街の広場だった。そして彼の目の前には、見覚えのある六人の姿があった。アーガン、ビンチェン、チーディ、アーラン、チーラン、そして……苦悶の表情を浮かべるメイジウ。「えっ……みんな! こんなところにいたのか。一体どうし――」駆け寄ろうとしたライトは、足を止めた。仲間たちの瞳には、これまでに見たことのないような激しい憎悪と、冷たい殺意が宿っていたからだ。「……ねえ、みんな。どうしたんだよ、そんな顔して……?」ライトの困惑した声は、殺気立った広場の中に虚しく響いた。




