風の挑戦者1-3
「歌手になれたんだね」「ええ」別れ際、アーランはメイジウに一言だけ伝えた。「メイジウ、久しぶりに会ったけど、本当に変わったね。『娘盛り(むすめざかり)』っていうけど……すごく、綺麗になった」その言葉にメイジウは顔を真っ赤にし、逃げるように走り去っていった。その背中を見送りながら、アーランは自分の透けた手を見つめる。「……兄さんなら、こんな時どうするだろう。でも、もう考えている時間はない。たとえ死ぬことになっても、最後は思い切り戦い抜いてやる」約束の時間はすぐに訪れた。「よお、時間通りだな。どうやら本気で俺様とやり合うつもりらしい」「当然だ」「おや、お前の仲間たちも揃っているじゃないか」遠くで見守る一行が声を漏らす。「あれが鬼魂元素か……」「ああ、そうだ」同時に、風元素もまた、離れた場所からこの戦いを凝視していた。「この特等席から、お前の最期を拝ませてもらうぜ」「そうか。なら、どちらの最期になるかその目で確かめるがいい」アーランは聖剣を取り出した。「笑わせるな。お前の技は俺には当たらないと教えたはずだ。まだそれを使うつもりか?」「……いや。これ(聖剣)は使わない」アーランは聖剣を地面に突き刺すと、風の元素を練り上げ、両手に二振りの剣を形成した。「ほう。霊体のまま俺と戦うつもりか」「その通りだ」「いいだろう。なら俺も二本の剣を出してやろう」鬼魂元素はニヤリと笑い、続けた。「お前の仲間にその無様な姿が見えるようにしてやるよ……『霊光顕現』だ。これで皆にお前の存在が見える。幽霊同士の戦いでも、観客がいなきゃつまらないからな」「無駄口は叩くな。来い!」二つの霊体が激突し、激しい戦闘が幕を開けた。アーランは二本の剣で連続して突きを繰り出すが、鬼魂元素は霊体の武器を自在に変質させる特性を使い、双剣を長槍へと変化させた。間合いの利を活かしてアーランを突き戻し、休む間もなく猛攻を仕掛ける。アーランは防戦一方となり、必死に剣で凌ぐが、耐えきれず一本の剣がへし折れた。「風よ……!」アーランは風の元素を爆発させて数歩後退し、距離を取った。戦いの中で、彼はようやく霊体として戦うことの真の意味を理解し始めていた。アーランは鬼魂元素に向けて風の元素を放ち、その隙を逃さず追撃に移る。風で形作ったトライデントを召喚し、鬼魂元素と激しく火花を散らした。だが、鬼魂元素が何らかの術を弄すると、アーランの頭上に突如として数振りの武器が出現し、不意を突いて襲いかかる。その猛圧にアーランは地面へと押し潰されそうになった。傍らで見守っていた仲間たちが色めき立つ。「くそっ、なんて卑怯な真似を!」一同が鬼魂元素を包囲しようと動き出したその時、アーランの声が響いた。「来るな! これは僕とこいつの戦いだ……手を出すな!」その必死な姿を見て、アーグアンが呟く。「……お前は、本当に昔から強情な奴だな」「ええ、彼は少しも変わっていないわ」メイジウも、かつての面影を残すアーランの背中を見つめながら静かに言った。戦闘はさらに激化する。「食らえ、『鬼門関』!」「何っ!?」「これはお前の体を操る俺様の能力だ!」「くっ……体が……!」アーランの体は、自分の意志に反して勝手に動き始めた。だが、このままでは死を待つだけだと悟った彼は、咄嗟に二つの霊体手裏剣を召喚して鬼魂元素を強襲し、術を中断させた。さらに素早く手裏剣を弓矢へと変質させ、鬼魂元素の側面を射抜く。「な、何だと……!? 霊体をこれほど自在に操るとは!」驚愕する鬼魂元素は、すぐさま重い鈍器を複数召喚し、アーランを地面へと押し潰した。重圧の中で攻撃を受け続けながらも、アーランの脳裏にはあの男の言葉が響いていた。『倒せない相手などいない。お前が自分自身に打ち勝てるかどうかだ』「……ちっ、僕が強くなる姿を見せてやるよ!」その瞬間、アーランから凄まじい衝撃波が放たれた。彼は長槍を手に鬼魂元素へと跳躍し、着地と同時に召喚した双刃で斬りかかる。しかし、鬼魂元素は即座に長槍を操り、逆にアーランを突き返した。「ハハッ! 所詮はその程度か、風の忍者!」「まだだ……!」アーランはトライデントを鬼魂元素へ投げつけ、その隙に長槍で連続突きを繰り出す。トライデントを無視すれば突きが刺さり、槍を防げばトライデントに貫かれる。鬼魂元素はやむなく長槍を召喚してトライデントを弾き飛ばし、アーランと激しい長槍の打ち合いを展開した。「これでも食らえ!」鬼魂元素が渾身の一撃を放ち、アーランの長槍を弾き飛ばした。アーランはバク転で距離を取りつつ、追撃として放たれた無数の剣を、側面へ回避しながら手裏剣で迎撃する。さらに一瞬の隙を突いて弓矢へと持ち替え、鬼魂元素の左腕を射抜いた。「……チッ、本気で怒らせてくれたな」アーランは追撃の手を緩めない。地面に落ちていた剣を拾い上げると、四方八方から連続攻撃を叩き込む。「風の元素よ!!」突如として辺りの煙が消え去り、二人は最後の一撃を一本の剣に懸けた。アーランが鬼魂元素へ突っ込み、鬼魂元素もまたアーランへと突き進む。互いの剣が右へ、左へと交錯する――。静寂の中、鬼魂元素が突然高らかに笑い始めた。




