風の挑戦者1-2
数時間前、ウーミエの居城にて。「……どうした、粘潮」「いいえ。滅炎があまりにうるさいから、あなたが何をしているのか見に来ただけよ」ウーミエは淡々と答えた。「次の元素を探しているところだ」「見つかったの?」「ああ。……ところで、お前たち二十一の元素は皆バラバラに動いているが、なぜ団結しようとしないんだ?」「ふん。あいつらはそんなこと考えちゃいないわ。誰もが王になりたがっている……だから、元素同士が出くわせば殺し合いが始まることもある。けれど、彼らを吸収して、逆に支配されるとは思わないの?」粘潮の問いに、ウーミエはこう返した。「その心配はない。私の『虚無』は、奴らの反抗する能力を完全に奪う。だが、私は奴らの元素の力を使うことができる」「……けれど、虚無の元素も万能ではないはずでしょう?」「ああ。虚無が虚無に触れれば消滅する。あるいは……たった一つ、私の『無』をすべて『実体』に変えてしまう元素が存在する」粘潮が言葉を継ぐ。「『虚算』の元素……ね?」「そうだ。あいつこそが、おそらく私が唯一恐れる存在だ」突如として、ウーミエは聞き覚えのある気配を感じ取った。「粘潮、明日は外へ出ろ。客人が来る」「……分かったわ」粘潮が立ち去った後、ウーミエは空間に向かって言い放った。「もういい。隠れていないで出てきたらどうだ」すると、一人の男が姿を現した。「なぜ父上の言葉を忘れたのだ……兄弟姉妹、いかなる時も助け合えと」その言葉に、ウーミエは冷酷に応じる。「忘れてはいない。ただ、理解しただけだ。善があれば必ず悪が生まれる。平和を望めば望むほど、必ず戦争が起きる。階級があれば必ず比較が生まれる……世界は元から不公平なのだよ。今まで生きてきて、そんなことも分からなかったのか。……今の私にお前を構っている暇はない。私にはより偉大な計画がある。お前は今やただの一般人だ。元素の力も持っていないのだろう? ……『風元素』」「私は……私はお前が封印されていた場所をずっと守り続けていた。力の元素や父上が老いた時、私にここを死守しろと言ったのだ。お前がこんな風になるとは、誰も信じていなかった……。だが、私が弱すぎたせいで……」ウーミエは冷たく突き放した。「お前に用はない。早く行け。そのまま一般人として生きるか、あるいは……お前の元素の継承者でも見に行くがいい。かつてお前の体内にあった元素だ。存在くらいは感知できるだろう?」風元素はその場を立ち去った。誰もいない街の片隅で、アーランは深い溜息をついていた。「はぁ……なんてこった」そこへ、鬼魂元素が嘲笑うかのように通りかかる。「おいおい、情けない姿だな。これっぽっちも役に立たないじゃないか」「ふん……。僕の本当の実力をまだ見てないだろ」「ああ怖い怖い。お手並み拝見といこうか」「今日の深夜だ。必ずお前を倒してやる」「ほう、言うじゃないか。約束は守れよ? 待ってるぜ」そう言い残し、元素は再び姿を消した。その後、一人の男が歩み寄ってきた。アーランはただの通行人だと思い、関わりを避けるために遠くへ座り直したが、男は先に口を開いた。「……お前が、俺の元素の継承者か」その言葉にアーランは衝撃を受けた。「どうした? 先輩として、お前に失望したとでも言いたいのか?」「ああ、失望した。こんな無様な姿を晒して(さらして)……なぜ立ち上がって戦おうとせず、ここでコソコソしている」「僕が鬼になったのは知ってるだろ。もう後がないんだ」「小僧、お前は『風』だ。自由を象徴する強者のはずだろう」「……でも、僕に奴を倒せるかどうかなんて分からない」「倒せない相手などいない。お前が自分自身に打ち勝てるかどうかだ」男はそう告げた。「……やっぱり、僕はまだ弱すぎるんだ」「チッ、そうだな。お前は弱すぎる」男は吐き捨てるように去っていった。内心では(なぜ俺の後継者がこんな奴なんだ。……やれやれ)と毒づきながら。それから三十分ほど過ぎた頃、一人の少女が歩いてきた。アーランは先ほどと同じように物陰に(ものかげに)身を隠したが、その少女はベンチに座るなり、声を上げて泣き出してしまった。アーランはどうすればいいのか分からず、ただ戸惑うしかなかった。アーランはそっと手を伸ばし、少女を慰めようとした。しかし、その指先は虚しく彼女の体を通り抜けてしまう。アーランがその顔を覗き込むと、驚きに目を見開いた。「……メイジウ、君なのか?」その声を聞いた瞬間、メイジウは泣き止み、辺りを見回した。「アーラン? どこにいるの、アーラン!」「ずっとここにいたよ。……どうして僕がここにいるって分かったんだ?」「アーグアンを問い詰めたのよ」「……そうか。それで、僕に何か用?」「用なんて決まってるじゃない! どうしてこんな姿になっちゃったのよ!」アーランは静かに語り始めた。「道場に戻る途中、ある元素に出会ったんだ。最初は無視しようとした。でも、ある町を通った時、そいつが人々の魂を次々と吸い取っているのを見て……僕は、誰一人助けることができなかった。自分の無力さを思い知らされたよ。だから、あいつを追ってここまで来た。だけど……余所見をした隙に奴に触れられて、こんな幽霊になっちゃった。やっぱり、僕は弱すぎるんだ」「何を言ってるのよ! あなたは強いわ、知ってるでしょ!」メイジウは勢いよく立ち上がった。「慰めないでくれ。……僕はもうすぐ死ぬかもしれないんだ」メイジウの目から、再び涙が零れ落ちる。アーランはどうしていいか分からず、立ち尽くした。「死ぬなんて許さない! あなたは、私の憧れなんだから!」アーランは反論しようとしたが、彼女の勢いに押され、その言葉に従うことにした。今の彼には、この状況をどう切り抜ければいいのか分からなかったからだ。「必ず勝って、アーラン。約束よ」「……ああ、約束する」「……私、もう行くわ。ファンに見つかったら大変なことになるから」




