第十章: 風の挑戦者1-1
街の北側で激しい戦闘が繰り広げられていた。一人の忍者が元素と戦っているようだ。「ハハハハ! もっと斬れ、もっとだ! 鬼になりたくなかったら、必死に斬り続けろ!」「くっ……風斬撃!」「そんな技じゃあ俺様には当たらないぜ。俺は『鬼』なんだからな!」「風よ……!」「風で俺を吹き飛ばそうってのか? 無駄だ。……じゃあな、俺はもう行くぜ」「待て! 逃がさん……嵐鷹天! 疾風の鷹よ、行け!」しかし、召喚された鷹は鬼魂元素に触れることすらできなかった。忍者は元素と縺れ合う(もつれあう)ようにして街中までやって来る。その光景を目にした民衆は戸惑いの声を上げた。「おい、また忍者だ。……でも、あいつは一体誰と戦ってるんだ?」一般人の目には、ただ忍者が虚空に向かって闇雲に刀を振り回しているようにしか見えなかった。「もう諦めろ」鬼魂元素が嘲笑う。「断じて拒む……風斬撃!」「待ってくれ! あの忍者のせいで、俺たちの家が壊されちまうぞ!」道場にて、ライトと先輩たちは訓練の最中だった。「はあっ、僕の源力を見て! 」チーディが炎をライトへ放つが、チーランが即座に水流で火を蒸発させる。さらに反撃として、チーディの四方を囲むように水の鎖を生成し、彼を縛り上げた。「わあ、すごい! 」ライトが感嘆の声を上げると、チーランは誇らしげに言った。「ふん、当たり前でしょ」だが次の瞬間、その水はたちまち凍りついた。「えっ? 」「ビンチェン、あんたね! 」ビンチェンは「ふふっ」と短く答える。「チーディ、そろそろ本気を出したほうがいいぞ」「ああ、悪いな妹よ……火炎! 」チーランは水を三叉戟に変えて構えるが、ビンチェンが場全体を雪景色へと変えてしまう。「そんな、嘘でしょ!? 」チーランが不服そうに叫ぶが、氷塊となった三叉戟はチーディの炎によって綺麗に溶かされた。「源力オーブ! 」突然、ライトの放った源力球がチーディを襲う。チーディは即座に反応してそれを回避した。「チーディ、僕だって負けてないよ! 」そこへチーランが叫ぶ。「ライト、足元に気をつけて! 」「アーガン、いけ! 」アーガンが地面を強く叩き、二人の足場を崩して重心を奪った。今や優勢なのはチーディとビンチェンだ。「俺たちのコンボを見ろ、氷火融化流! 」三人が勝利を確信したその時――。「雷! 」アーグアンが突如攻撃を仕掛け、チーディとビンチェンの勢いを相殺した。「チーランを傷つけさせるわけにはいかないからな」ライトが呆れたように言う。「……あの、僕はついで(おまけ)なのかな? 」アーグアンは慌ててフォローした。「いやいや、そんなことないって。皆が怪我をしないようにしただけだ。さあ、三対三でやろうぜ」「望むところだ! 」ライトが先制攻撃を仕掛ける。「源力! 」チーディが炎を放射して源力と真っ向からぶつかり合い、凄まじい大爆発が起きた。大量の煙が立ち込める中、突如として水の形をした腕がチーディを掴む。「何っ!? 」だがビンチェンがすぐさまそれを凍らせ、チーランに向けて氷元素を放ち、彼女を氷像にしてしまった。「くっ、なんてことだ……! 」アーグアンが怒りを露わにする。「チーラン、今助ける! 」「ふん、させるかよ」アーガンが岩石をアーグアンへ投げつけ、アーグアンも電撃を放って応戦する。「ライト、余所見をしてる暇はないぜ! 」チーディがライトを背後から強襲した。「ははっ、僕も本気を出さなきゃいけないみたいだね」「本当にやれるのか? 」チーディの挑発に、ライトが応える。「来い! 」「火! 」「源力! 」「えっ……僕の源力が火に吸収されてる!? 」「ハハッ! お前の負けみたいだな……。待て、この熱気は一体何だ? 」「ああああああっ!! 」「チーディ、どうしたんだ!? 」チーディの全身に赤い紋様が浮かび上がり、その眼光は獰猛なものへと変わった。「チーディに何が起きてるの!? 」「ああああああっ!! 」暴走状態に陥ったチーディを前に、皆が戦慄する。「お兄ちゃん、まずは正気に戻さないと! 」「水! 」「氷! 」チーランとビンチェンが同時に元素を放つが、チーディの体からは溶岩が溢れ出し、水は蒸発し氷は一瞬で溶かされた。「……あれはもうただの火ではない。次のステージだ」師匠の言葉に、アーグアンが問う。「師匠、どういう意味ですか? 」アーガンが岩石でチーディを拘束し、チーランとビンチェンが必死に彼を落ち着かせようと試みる。やがて、チーディは自ら動きを止め、そのまま気を失って倒れ込んだ。「チーディ、大丈夫!? 」ビンチェンが駆け寄ると、彼は力なく答えた。「……ああ、平気だ。ただ、急にひどく疲れちまって……」「ひとまず休憩だ。訓練は中止にしよう」訓練を中断した一同は、なぜチーディが暴走したのかについて議論を始めた。「ライト、一体何があったんだ?」「僕にも分からないんだ。チーディの炎が僕の源力を吸収したと思ったら、あんな風に……」「お前の源力には、元素をさらに強化させる効果があるからな」師匠が姿を現し、説明を補足した。「だが、あの力はあまりに強大だ。制御を誤れば、本当に理性を失い狂ってしまうだろう」その時、コンコンと扉を叩く音が響いた。「ライト、ただいま」「あ、ジェンシャン! 出張から帰ってきたんだね」「ああ。……それで、こちらの方々は?」「紹介するよ。アーグアンとアーガンだ」「初めまして」アーグアンはジェンシャンに歩み寄り、顔を覗き込んだ。「……俺たち、どこかで会ったことないか?」「えっ……いや、ないと思うけど」「そうか。だよな」「彼は僕の親友のジェンシャンだよ」ライトが紹介すると、アーガンが唐突に尋ねた。「お前、ケーキは好きか?」「おい、毎日食べることばっかり考えるな!」アーグアンが即座に突っ込みを入れる。するとジェンシャンが真剣な面持ちで切り出した。「……ところで、君たちに伝えたいことがあるんだ。さっき街を通りかかった時、風の忍者を見かけたんだ。心当たりはあるかい?」アーグアンの表情が瞬時に強張った。「アーランか! どこにいる!?」「街で元素と戦っていたよ」「何だって!? ……みんな、すぐに行こう!」街に到着すると、アーランが幽霊のような姿をした存在と戦っているのが見えた。「ハハハ! そのまま防戦し続けてろ、風の忍者!」「くっ……」「アーラン!」その声を聞いて、アーランが顔を上げた。「兄さん!」だがその隙を鬼魂元素は逃さなかった。「余所見をしてるんじゃないよ、坊主!」強烈な一撃がアーランを捉え、彼は遥か彼方まで吹き飛ばされた。「おのれ、よくも……雷!」アーグアンが叫ぶが、鬼魂元素は嘲笑う。「ふん、元素の攻撃なんて俺様には当たらないぜ。今日はこれくらいにしておいてやる。……あばよ、忍者たち。ああ、そうだ。元に戻りたければ24時間以内にすることだな。さもないと、永遠に鬼のままだぞ」「……どういう意味だ!」言い残して鬼魂元素は姿を消した。アーグアンは慌ててアーランの飛ばされた方へと駆け寄った。「アーラン! アーラン、どこだ!」「兄さん……」アーランが応えるが、自分の手を見ると完全に透き通ってしまっていた。それを見たアーグアンは息を呑む。「お前……まさか……」「僕……鬼になっちゃったの?」アーランは信じられないといった様子で、力なく呟いた。「そんな……。どうやら僕は、本当に負け犬みたいだね」「アーラン、そんなこと言うな!」「幽霊になっちゃって、他に何を言えって言うんだよ」アーグアンは、あの元素が残した言葉を思い出していた。二十四時間以内に奴を倒せば、元に戻るチャンスはあるはずだ。「……兄さん、皆に伝えておいて。しばらく道場には戻れない。一人になりたいんだ」「でも、これはお前の命に関わることなんだぞ!」表面上は冷静を装っているが、アーランは心の中でどう答えるべきか迷っていた。「……自分で解決してみせるよ。僕を信じて。もし僕がいなくなったら……」「そんなこと言うな! ウェンディに何て説明すればいいんだ!」「大丈夫だよ。僕は最強の忍者を目指してるんだから」「お前はもう十分に立派だ」「足りない……。僕の剣術はまだ全然足りないんだ。心配しないで、何かあったらこの近くにいるから。……じゃあね」アーグアンは失意のまま、重い足取りで道場へと戻った。「アーランはどうしたの?」チーランが尋ねると、彼は声を絞り出した。「あいつは……幽霊になっちまった」一同に衝撃が走る。「そんな……まさか……」門の外でその知らせを聞いたメイジウが、激しく動揺しながら部屋へ飛び込んできた。「嘘よ、アーグアン! 何を言ってるの!? あんなに強いアーランが、どうして幽霊になんてなるのよ!」アーグアンが事の顛末を説明する。「彼が今どこにいるか教えて、探しに行くわ!」「メイジウ、落ち着くんだ!」「落ち着いてなんていられないわよ!」彼女はボロボロと涙を流し、泣き崩れた。「皆も悲しんでる。だけど、そんなに感情的にならないでくれ」「……あなたには分からないわ!」




