世界の始まり1-2
「……ジェンシャン、この先の話、気にならないのか?」ライトは、まだ物語の余韻を抱えたまま呟いた。「師匠の話を聞いて…… 俺だけじゃなかったんだな。元素継承者って……二十一人もいるなんて」その言葉に、チーランは思わずため息をつく。「……本当に何も知らないのね」「この世界の元素は、二十一だけじゃない。しかも、元素同士には“相克”がある」「それに―― 元素継承者になるのは、簡単なことじゃないの」彼女は真剣な眼差しで続ける。「多くの人が、元素の力を求めて努力する。でも――」「途中で諦める者もいるし、一生を費やしても、辿り着けない者もいる」「元素に選ばれるかどうかは、才能だけじゃない」「元素自身が、お前を認めるかどうか」「天賦の才は与えられるもの。だが、選ばれるかどうかは―― 運命次第」ライトは、静かに問い返した。「……でも、どうして俺の元素は、最初から使えたんだ?」「生まれた瞬間から、元素を宿している者もいるわ」チーランは腕を組みながら言った。「ただ――幼い頃は、なぜか普通の人間と変わらない。成長してから、ようやく目覚めるの」ライトは目を見開く。「……じゃあ、俺は……生まれつき?」「その可能性は高いわ」「生まれつき元素を持つ者は、たいてい血筋が関係している。親や祖先が元素継承者だった場合――」「その力は、血を通して受け継がれることがある」「だから、子や孫も継承者になる確率が高いの」「……なるほど……」ライトは小さく頷いた。だが、チーランはすぐに言葉を続ける。「これは、すべての元素継承者が知っておくべき“基本”よ」「それなのに……どうしてそんなに鈍いの?」「師匠は、あなたに何も話していなかったの?」「……いいえ。師匠からは、何も聞いてない」ライトは素直に答える。チーランは眉をひそめた。「……そう」「でも、今は分かったでしょう?」「分かったなら―― ぼんやりしている暇なんてない」「街を守るのが、そんなに簡単だと思ってるの?」彼女の声は、少し強くなる。「あなたは、周囲の市民の安全を最優先に考えるべきなの。勢いだけで敵に突っ込むんじゃない」「剛力と戦っていたとき―― あなたの源力は、危うく無関係の命を巻き込むところだった」ライトは、黙り込む。「……」脳裏に、あの瞬間がよみがえる。確かに―― 近くに、小さな少女がいた。チーランは続ける。「私が間に合わなければ、あの子は傷ついていたかもしれない」「もし、それを誰かに見られていたら?あなたは一瞬で批判の的よ」「それに――」「勝てないと分かっていながら、突っ込んだでしょう?」静かな夜の中、その言葉だけが、重く響いた。「……それは、早く終わらせたかったからだ」ライトは思わず言い返す。「それに、戦っている途中で…… 元素の力が、急に不安定になったんだ」その瞬間、チーランの声が鋭く響いた。「――だからよ」「それはつまり、あなたはまだ忍者として未熟だってこと!!」その言葉は、雷のようにライトの胸を打ち抜いた。「……俺……」息が詰まり、鼓動が速くなる。「……君、俺に恨みでもあるのか?どうしてそんなに否定ばかりするんだ!」チーランは一瞬だけ目を伏せ、そして言った。「否定じゃない。私は……あなたを守ろうとしてるだけ」「……もういい。これ以上は言わない」そう言い残し、彼女は背を向け、部屋へと入っていった。その空気を察したジェンシャンが、慌てて間に入る。「え、ちょっと待て。二人とも、何があった?」そして、うつむくライトに気づく。「……おい」「……なんで泣いてるんだよ」「男だろ。血は流しても、涙は流すなってな」「違う……」ライトは首を振る。「自分を責めてるんだ」「周りを見ずに、ヒーロー気取りで突っ込んだことを……」「もし…… 本当に誰かを殺してしまっていたら…… 俺は、どうなってたんだろう」ジェンシャンは、少し困ったように笑う。「大丈夫だって」「チーランの言葉、そんなに真に受けるな(まにうけるな)よ」「俺は信じてる。お前ならできる」「ずっと味方だし、これからも一緒に強くなればいい」ライトは小さく頷いた。「……ジェンシャン……ありがとう」「もういいって。ほら、遅いし……俺は帰るな」「じゃあな、ライト。師匠も、おやすみ」「……うん。またな」ジェンシャンは夜の中へと帰っていった。静まり返った道場。師匠は一人、立ち尽くしている。先ほど語った“世界の誕生”。だが―― その先に続く物語を、どうライトに伝えるべきか。まだ、言葉を見つけられずにいた。――場面は、道場の訓練室へと移る。「……チーランと、喧嘩したのか?」師匠が静かに問いかける。ライトは、しばらく黙ったままだった。「……」「お前たちは、仲間だ。これから共に戦う可能性もある」「誤解があるなら、話し合えばいい」ライトは顔を上げる。「……仲間?」「そうだ」「でも……俺たち、今日会ったばかりだよ?」「それで、もう仲間って……早すぎない?」「それに……」ライトは言葉を詰まらせる。「どこに、あんな言い方をする友達がいるんだよ。今日だけで、何回叱られたか分からない」師匠は、目を細めた。「……そうか」そして、低く呟く。「……おかしい」「……あまりにも、不自然だ」師匠の表情には、何かを思い出そうとするような影が落ちていた。――その頃、チーランの部屋。「……あああ…… さっきの私、言い過ぎたかも……」枕に顔を埋め、うめく。「でも……おかしい」「どうして師匠は、ライトに“元素継承者”のことを何も話していないの?」視線が揺れる。「それに……ライトのそばにいた、あの人は誰?」「私は……ライトとは幼い頃から一緒だった」「なのに、あの人のことだけは……まったく覚えていない」胸の奥がざわつく。「それだけじゃない」「ライトも……どこか変だった」「まるで、初めて会ったみたいに…… 私を見る目が、少しよそよそしかった」息を呑む。「……まさか……」小さく、震える声。「ライト…… 記憶を、失っている……?」――場面は変わり、街のとある家庭。「アーカン、ちょっと来なさい!」「……なに、母さん?」「担任の先生から聞いたわよ。今日、成績表が配られたんでしょう?どうして言わなかったの!」「……それは……」「今回は、学年で何位だったの?」「……二位……」「また二位!?前回も二位だったでしょ!」「今回の一位も、まさかチェンくんじゃないでしょうね!」「……そうだけど……」「あなたは、ずっと“二番”でいるつもりなの!?」「母さん!俺だって、必死に頑張ってるよ!」「それなら、まだ足りないってことよ!」「チェンくんのお母さんはね、いつも私の前で自慢するのよ。『うちの子は優秀で』って!」「あなたは、私を恥ずかしい思いにさせたいの!?」「母さん!どうしていつもチェンと比べるんだよ!俺は……比べるための道具なのか!?」そう叫ぶと、アーカンは自分の部屋へ駆け込み、ドアを閉め、鍵をかけた。「アーカン!それが母親に向かって言う態度なの!?」扉越しに、母の声が震える。「私はあなたのために言っているのよ!お父さんが病気で亡くなってから、一人で必死に育てて、学校にも通わせて……」「どれだけ大変か分かる!?私は楽をしていると思ってるの!?」声は、次第に嗚咽へと変わる。アーカンは、布団に顔を埋めた。「……どうしてだよ、母さん…… 俺、ちゃんと頑張ってるのに……」「父さん……どこにいるんだよ…… 会いたい……」そのとき―― 背後で、低い笑い声が響いた。「……本当に、哀れだな。ははははは……」アーカンは跳ね起きる。「だ、誰だ!?どこにいる!」「安心しろ。お前に“力”をやろう」「……力?」「疾影の元素だ」「その代わり―― お前の体を借りる。この姿を保つためにな」「どうだ?取引しないか?」




