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第八話 『久遠唯』

第八話を投稿します!!これにて過去編は完となります!!

靄を抜け、あの学校を脱出した先に居た男はこう言った。


「――真白。樒真白さ。」


優依はその言葉を聞いた瞬間。

コンマ一秒にも満たない一瞬、反射的に拳が出ていた。


ドゴォオオオオオオン!!!


彗星のように繰り出される拳。

それは真白の身体を吹き飛ばした。


優依は吹き飛んでいった先を確認しに行こうとした。長年培った、『捕食者』の癖。

しかし、動こうとしたその時。

(生きて)

記憶の一部が蘇る。優依は一瞬の躊躇。

ズバアアアアアアアアア!!!


土煙の隙間を縫って現れたのはあの仲間達を殺した凶刃。仲間の力を吸い尽くした槍が目の前をかすめる。

躊躇がなければ死んでいた。


「……やってくれたね」


死の気配。

記憶が蘇る。手から繰り出されるそれを見逃さなかった。

左、右、

そして、背後。

虚ろな記憶をもとに、優依はそれをどうにか回避した。

「……!!」

ドシュッ!!!避けたはずの槍が謎の引力に引きずられる。

それが突き刺さる。


「うあああ!!」

久しく感じなかった痛み。


ドクン。

(生きて)

脳内を駆け巡るはあの残像。

槍は優依に刺さり、身体を絡め取る。

真白は土埃を払いながらコツコツコツ。優依に近づく足音。


「強くなったな。まあ千年もありゃそうか。」

「……現実世界では、十年が経ったよ。俺も強くなった。偉くもなった。俺たちは死んだことになってるらしい。政府の隠蔽ってやつさ。ハハハ……。」



コツコツコツ。足音をたてながら、優依に近づく。


「クソ食らえだ!!」


足蹴が優依の横腹にヒットする。


さらに、何度も、何度も優依を足蹴にし始める。

まるであの日のように。

仲間を全員殺され、真白の憂さ晴らしに足蹴にされた

あの時のように。


「がっ!!ぐっ!!うわあ!!」


「どうした?憎しみが足らないんじゃないか?憎くないのか?もっと!!もっとだ!!俺はお前の仲間を殺したんだ!!怒れ!!怒れよ!!俺みたいに!!」


脳内にフラッシュバックする。

(生きて)

(お前は生きろ!!)


「この十年、俺は孤独だった。だが、奇跡だ……。」


「がっ!!」


「俺と同じ心を持つ君が生きて帰ってきた。」

「だが、記憶を失っているようだ。無理もない。千年の時間を過ごしたんだ。」

「だから、思い出せてやる、俺がお前達を殺した時の憎しみを!!」


「……私は!!お前とは違う!!」


ぴたりと攻撃が止んだ。


「あ?」


「私は生きてって託されたんだ!!」


「はっ、妄言だ。自分を正当化するのも……」


「違う!!!!」


グググググ……重力に逆らう、槍の支配に抵抗し始める。


「ばかな。力が……!!抑えきれない!!」


ビチビチビチビチビチビチ!!!

槍と重力の拘束を破壊する。


「陽一、智花。力を貸して。」


その瞬間、

あふれ出す力。


「面白い、見せてみろ!!お前の力!!憎しみを!!」

躍動する真白の筋肉。筋繊維の一つ一つが太くなり、もはや人間のそれではなく、巨獣のよう。その上に分厚い多繊維の装甲で覆われる。全てを拒絶する鉄壁の装甲だ。


「喰らえ……必殺……」


「――正義鉄槌(ジャスティスブローー!!)」

それは昔、陽一がよく叫んでいた漫画のキャラの必殺技。

本当に子供みたいな奴だった。


智花、陽一、総馬、そしてクラスの皆。

皆の顔が重なる。

拳は音速を超え、衝撃波が起こる。


空間が歪む。


「想定以上だ……素晴らしい!!」


拳は、重力付与、硬質化、筋肉肥大、炎の壁、逆風。真白の無数の障害を無いかのように破壊して迫る。


衝撃が内側から弾ける。無数の装甲をいともたやすく貫通していく。

バキッ……バキバキバキ……!!!

真白の身体がそれに耐えきれず、負けていく。


「あ……」


ズガァァァァァァァァァァァァン!!!!!

遅れて鳴り響く轟音。

建物が揺れ、地面が割れ、衝撃波が街を揺らす。


静寂。


優依の放った拳は真白の腹部を貫いていた。

真白はなぜだか満足そうな笑みを浮かべ、動かなくなっていた。


「やったよ。皆……」


ドクン。

(生きて)

「ああ……」

力が抜ける。

膝が崩れる。そのまま、地面に倒れ込む。視界が白くかすんでいく。


「生きたよ……皆……」


意識が途切れた。


――――――――――――――――――――――――――――


気づくと、優依はある一室に座らされていた。

見知らぬ男性。白衣を着た。研究者然とした男。

真白とは違う。


「名前は分かるかな?」

「……優依。糸瀬優依。です。」


「やはり……この高校の生徒で間違いない」


「では優依くん、これを見たまえ。」


長いこと目の前の男が喋っている。

内容はあまり耳に入ってこなかった。つまり、このことが世間に気づかれたらまずいということだけは理解出来た。

あまりにも身勝手な、政府の言い訳。なるほど、真白が憤慨していたのも理解出来る。

しかし、優依にはどうでもいいことだった。


「公には君は死んだことになっている。だから、元の家には帰れない。」


元より帰るつもりなどない。私はもう元の糸瀬優依とは違う人間になってしまった。昔のことなど思い出せない。両親に今更あったところでなんと言えば良いのか。


「久遠を生きた唯一の少女、優依。そう。久遠唯。君の名前は今日から久遠唯だ。」


復讐は成し遂げた。

その先のことなど、もう優依にはどうでもよかった。


それから、東京郊外のアパートを紹介された。居心地はそれほど悪くない。

そこに住む。

窓を開く。通行人が道を通り、車が走っている。

目の前には見慣れたコンビニエンスストア。


怪物は出てこない、戦いの日々は終わった。

これで良かったんだ。ようやく安眠できる。

目の前にはきれいに洗濯された服、タオル。血なまぐさい匂いはもう嗅がなくて済む。


だが、目の端に浮かぶ、あの光景。

「うわぁ!!はぁ、はぁ……」

「夢か……」


一年ほど教育を修了した後、政府の斡旋を受け民間企業に就職し社会復帰した。

会社に赴き、任された仕事をこなし、家に帰り就寝する。


ただ、唯は虚空を見つめる。

守る者もない、生きる意味など無い、空虚な日々。


そんな日々を数年過ごしたある日。


「佐伯遥と申します!!よろしくおねがいします!!先輩!!」


やたらと張り切った声が静まりかえったオフィスに響いた。


周囲の視線が一瞬だけ集まる。


うるさい……。

それが佐伯遥の第一印象だった。


「久遠です。よろしくおねがいします」


「はい!!久遠先輩ですね!!よろしくお願いします!!」


近い。満面の笑み。無駄に明るい。

唯は視線を外した。


「先輩っていつもお昼、一人で食べてますよね!!一緒にどうですか?」

うるさい。

「あ、先輩って近くに住んでたんですね!!今度一緒に映画でも見に行きましょうよ!!」

うるさい。


気づくと生活にはあの佐伯遥がいた。


そして、ある日、

夜、唯が歩いていると、


ドサッ、と誰かが倒れ込む音。

「きゃあああああああ!!!」

聞き覚えのある声。


再び、見てしまった。

あの怪物を。


「……え、ええ。私、死ぬのかな……」


(生きて)

ドクン。息もつかぬうちに唯は飛び出していた。

急げ、早く、もう人が死ぬのは嫌だ。


「うおおおおおおおお!!!!」

空を蹴り、猛スピードで怪物に突撃する。

拳が怪物を貫く。怪物はそのまま崩壊していった。


「え、唯先輩……?」


救助が早かったこともあり、倒れた男性は一命を取り留めた。


男性は記憶が曖昧で、遥は、


「凄い大きい黒い野犬が出てきて!!それをドバァアアアン!!って!!気づいたら野犬は居なくなってて!!」


「ドバァアアアアン?あ、追い払ったってこと?」


困惑する救助隊員。こんな感じで説明が要領を得ないので、政府には処理されることなく見過ごされた。遥の中で私は野犬を退治したことになっていた。


「すごいです!!何か格闘技とかやってたんですか?」

「別に……」


さらに尊敬されてしまった。


「先輩!!助けてください!!」

慌てた感じの声を出す遥。


終わってみて、唯は呆れる。


「姉ちゃんすげー!!」


少年が驚く。遥が慌てていたのは木に登って降りられない猫がいたからだ。


「先輩なら出来るって信じてました!!」


それからも次から次へと遥は面倒事を抱え込む。

唯はため息をつきながらそれを処理する。そんな毎日が続いていた。


そして、

社長室に赴く二人。

「え、独立?したいの?それはちょっと上に掛け合ってみないとわからないかな……」


そりゃそうだ。私は特殊な身。許されるわけ……。私が呆れていると、

机をドンと叩く遥。


「唯さんは!!多くの人を救ってきました!!猫助けから荷物持ち、車の運搬とか、この前なんか人知れず怪物の群れを……」


「怪物?」


なぜか通ってしまった。まったくこの子は凄い。私は、新しくあてがわれた雑居ビルの前に立ち、その横に居る遥を見て思う。


「先輩!!やりましたね!!」

「良かったのか?会社辞めちゃって」


「いいんです、私はあの日、唯さんに助けられたとき、可能性を感じたので!誰かを助けられる力があるなら、それを使わないなんてもったいないです!!」


「一人で抱え込まないでください。唯さん。」


ドクン。

(生きて)


呼び起こすは、遠い昔の記憶。一瞬、息が詰まる。


「別に抱え込んでいるつもりはない」


「じゃあ、これからは一緒にやりましょう?ええと、依頼は私が取ってくるので解決は任せました!!」


「まったく……」


雑居ビルの一角にあるその一室の前に立つ。

長年つかわれてないのか、ドアの周りには泥が被っており、蜘蛛の巣が張っていた。


「まずは掃除からだな」

「名前、どうするんですか?」

「名前?うーん。特に仕事は専門性があることは出来ないし、便利屋とかかな?」

「じゃあ、便利屋ユイで!!」

「安直だな」

「わかりやすい方が良いんです!!」


まあいいか。

そう言ってかけられた一枚のプレート。私は必要ないっていったけど、描かれた小さい花柄のスタンプがついている。今考えてみれば私の大事な余分の一つかもしれない。


特別な理念も立派な目的もない。


「先輩!!またソファーで寝て!!ほら、起きてください!!」


テーブルには飲みかけのペットボトル。

開けかけのお菓子、読みかけの書類。


視界に入るのは見慣れた天井と騒がしい後輩。

人に不意に起こされるなど、以前なら考えられない光景だった。


だが、

遥と一緒に居て、仕事をする。今日も人助けをする。

そうしていると、

自然とあの声が安らぐ。あの凄惨な夢を見なくても済む。


私は今日もよく眠れる。


今はこれでいいと思えた。


過去編 完




ここまで読んでいただきありがとうございます!!


いやー!!思ったより長くなったー!!

まあそりゃそうか。

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