第八話 『久遠唯』
第八話を投稿します!!これにて過去編は完となります!!
門の前に対峙する優依と男。
男が笑みを浮かべながら口を開いた。
「――真白。桜真白だよ。覚えてるかな?」
男が正体を明かしたその瞬間、
優依の脳裏にあふれる過去の記憶。
総馬、陽一、そして私をかばって死んだ智花。
目の前が眩む。優依の思考は赤く怒りの色に染まる。
「っ!!」
優依はコンマ一秒にも満たない一瞬、反射的に拳が出ていた。
ドゴォオオオオオオン!!!
彗星のように繰り出される拳。
それは真白の身体を吹き飛ばした。
怒りのあまり、優依は吹き飛んでいった先に追撃を仕掛けようとした。
しかし、動こうとしたその時。
(生きて)
智花の声が蘇る。優依は一瞬の躊躇が走る。
ズバアアアアアアアアア!!!
土煙の隙間を縫って現れたのはあの仲間達を殺した凶刃。仲間の命を吸い尽くした槍が目の前をかすめる。記憶が無ければ死んでいた。優依の額には冷や汗が流れる。
砕けた門の前に男は立っていた。
「やってくれたな」
シュルルルルルルルルル!!
真白の全身から無数の死が放たれる。
その刹那、優依は目視にて瞬時にそれを把握する。
次にその動きが変わる可能性、フェイント。千年前の虚ろな記憶が蘇る。
槍が近づいてくる。
優依は半歩だけ横にずれる。
ゴォッ!!
槍が頬をかすめ、背後の大木を切断した。
続けざまに三本。
優依は最小限の動きで交わす。
「君、そんなに強かったっけ……?」
真白にはあの死んだ者にすがるだけの無力な優依しか思い出せない。
「これはお前が殺した友の力だ」
「なるほど……どこまでも僕と同じだなお前は」
ズン!!
「……っ!!」
優依に謎の重力がかかる。
これは奪われた能力。総馬の“統”の力。
「僕も強くなったんだよ」
コツコツコツ。優依に近づく足音。
「お前はとことん俺と同じという訳か」
「どういう意味だ」
「……現実世界では、十年が経ったよ。」
「俺も強くなった。偉くもなった。俺たちは死んだことになってるらしい。政府の隠蔽ってやつさ。ハハハ……。」
コツコツコツ。足音をたてながら、優依に近づく。
「クソ食らえだ!!」
足蹴が優依の横腹にヒットする。
さらに、何度も、何度も優依を足蹴にし始める。
まるであの日のように。
仲間を全員殺され、真白の憂さ晴らしに足蹴にされたあの時のように。
「がっ!!ぐっ!!うわあ!!」
「どうした?憎しみが足らないんじゃないか?憎くないのか?もっと!!もっとだ!!俺はお前の仲間を殺したんだ!!怒れ!!怒れよ!!俺みたいに!!」
蹴りが腹にめり込む。呼吸が潰れる。視界が揺れる。
それでも。
(生きて)
優依の脳裏に浮かぶのは憎悪ではない。血まみれの仲間達の最後まで自分を生かそうとした声。
(お前は生きろ!!)
真白は自分語りを続ける。
「この十年、俺は孤独だった。だが、奇跡だ……」
「がっ!!」
「俺と同じ境遇を持つ者が生きて帰ってきたんだ!!だから思い出させてやる、俺がお前達を殺した時の憎しみを!!」
「……私は!!お前とは違う!!」
ぴたりと攻撃が止んだ。
「あ?」
「私は生きてって力を託されたんだ!!智花と陽一に!!」
「はっ、妄言だ。自分を正当化するのも……」
「違う!!!!」
グググググ……優依の全身に力が漲る。重力の支配に抵抗し始める。
「ばかな。力が……!!抑えきれない!!」
バキバキバキバキバキ!!!
拘束を破壊すると、優依は意識を研ぎ澄ませ、
「陽一、智花。力を貸して。」
と願った。
その瞬間、あふれ出す力。
「面白い、見せてみろ!!お前の力!!憎しみを!!」
躍動する真白の筋肉。筋繊維の一つ一つが太くなり、もはや人間のそれではなく、巨獣のよう。その上に分厚い多繊維の装甲で覆われる。全てを拒絶する鉄壁の装甲だ。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
智花、陽一、総馬、そしてクラスの皆。
皆の顔が重なる。
拳は音速を超え、衝撃波が起こる。
空間が歪む。
「想定以上だ……素晴らしい!!」
重力が叩きつけられる。
「ぐぅ……」
だが優依は止まらない。
逆風をものともせず、炎の壁を突き破る。
硬質化した装甲を砕き、筋肉が肥大した腕を貫く。
衝撃が内側から弾ける。無数の装甲をいともたやすく貫通していく。
バキッ……バキバキバキ……!!!
真白の身体がそれに耐えきれず、悲鳴を上げていく。
「あ……」
ズガァァァァァァァァァァァァン!!!!!
遅れて鳴り響く轟音。
建物が揺れ、地面が割れ、衝撃波が街を揺らす。
静寂。
優依の放った拳は真白の腹部を貫いていた。真白はなぜだか満足そうな笑みを浮かべていた。
「またね……」
そう言った後、彼の身体は動かなくなっていた。
「やったよ。皆……」
ドクン。
(生きて)
「ああ……」
力が抜ける。
膝が崩れる。そのまま、地面に倒れ込む。視界が白くかすんでいく。
「生きたよ……皆……」
意識が途切れた。
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気づくと、優依はある一室に座らされていた。
見知らぬ男性。白衣を着た。研究者然とした男。
真白とは違う。
「名前は分かるかな?」
「……優依。糸瀬優依。です。」
「やはり……この高校の生徒で間違いない」
「では優依くん、これを見たまえ。」
長いこと目の前の男が喋っている。
内容はあまり耳に入ってこなかった。つまり、このことが世間に気づかれたらまずいということだけは理解出来た。
あまりにも身勝手な、政府の言い訳。なるほど、真白が憤慨していたのも理解出来る。
「公には君は死んだことになっている。だから、元の家には帰れない。」
元より帰るつもりなどない。私はもう元の糸瀬優依とは違う人間になってしまった。昔のことなど思い出せない。両親に今更会ったところで元の生活など到底送れやしない。
「久遠を生きた唯一の少女、優依。そう。久遠唯。君の名前は今日から久遠唯だ。」
復讐は成し遂げた。
その先のことなど、もう優依にはどうでもよかった。
それから、東京郊外のアパートを紹介された。居心地はそれほど悪くない。
窓を開く。通行人が道を通り、車が走っている。
目の前には見慣れたコンビニエンスストア。
怪物は出てこない、戦いの日々は終わった。これで良かったんだ。ようやく安眠できる。
目の前にはきれいに洗濯された服、タオル。血なまぐさい匂いはもう嗅がなくて済む。
だが、目の端に浮かぶ、あの光景。何度もあの光景を夢に見る。
「うわぁ!!はぁ、はぁ……」
一年ほど教育を修了した後、政府の斡旋を受け民間企業に就職し社会復帰した。
会社に赴き、任された仕事をこなし、家に帰り就寝する。
ただ、唯は虚空を見つめる。
守る者もない、生きる意味など無い、空虚な日々。
そんな日々を数年過ごしたある日。
「佐伯遥と申します、よろしくおねがいします!!先輩!!」
やたらと張り切った声が静まりかえったオフィスに響いた。
周囲の視線が一瞬だけ集まる。
うるさい……。
それが唯が思った佐伯遥の第一印象だった。
「久遠です。よろしくおねがいします」
「はい!!久遠先輩ですね!!よろしくお願いします!!」
近い。満面の笑み。無駄に明るい。
唯は視線を外した。
「先輩っていつもお昼、一人で食べてますよね!!一緒にどうですか?」
うるさい。
「あ、先輩って近くに住んでたんですね!!今度一緒に映画でも見に行きましょうよ!!」
うるさい。
気づくと生活にはあの佐伯遥がいた。
ある日、夜、唯が歩いていると、
ドサッ、と誰かが倒れ込む音。
「きゃあああああああ!!!」
聞き覚えのある悲鳴が夜道に響いた。
「……え、ええ。私、死ぬのかな……」
唯が振り返ると、そこにはいつものうるさい後輩の姿。
そして、遥の前方には、
「ウア………アアアアアア!!!!」
人の部位がまばらに付いた異形が道の真ん中に立っていた。
(生きて)
ドクン。息もつかぬうちに唯は飛び出していた。
急げ、早く、もう人が死ぬのは嫌だ。
「うおおおおおおおお!!!!」
空を蹴り、猛スピードで怪物に突撃する。
拳が怪物を貫く。怪物はそのまま崩壊していった。
「え、唯先輩……?」
救助が早かったこともあり、倒れた男性は一命を取り留めた。
男性は記憶が曖昧で、遥は、
「凄い大きい黒い野犬が出てきて!!それをドバァアアアン!!って!!気づいたら野犬は居なくなってて!!」
「ドバァアアアアン?あ、追い払ったってこと?」
困惑する救助隊員。こんな感じで説明が要領を得ないので、政府には処理されることなく見過ごされた。遥の中で私は野犬を退治したことになっていた。
「すごいです!!何か格闘技とかやってたんですか?」
「別に……」
さらに尊敬されてしまった。
「先輩!!助けてください!!」
慌てた感じの声を出す遥。
唯は呆れる。
「姉ちゃんすげー!!」
少年が驚く。唯の手の中には野良猫。
「先輩なら出来るって信じてました!!」
それからも次から次へと遥は面倒事を抱え込む。
唯はため息をつきながらそれを処理する。そんな毎日が続いていた。
そして、
社長室に赴く二人。
「え、独立?したいの?それはちょっと上に掛け合ってみないとわからないかな……」
そりゃそうだ。私は特殊な身。許されるわけ……。私が呆れていると、
机をドンと叩く遥。
「唯さんは!!多くの人を救ってきました!!猫助けから荷物持ち、車の運搬とか、この前なんか人知れず怪物の群れを……」
「怪物?」
遥はその後も方々に駆け込み、独立の抗議をし続けた。
その末に私は、新しくあてがわれた雑居ビルの前に立ち、『便利屋ユイ』の開業手続きをしている遥の姿を見ている。
まったく、この子はすごい。
「ひゃーやりました!!これで独立です!!」
晴れ晴れとした顔をした遥を横目に、唯は心配そうな顔をしている。
「良かったのか?会社辞めちゃって」
「いいんです、私はあの日、唯さんに助けられたとき、可能性を感じたので!誰かを助けられる力があるなら、それを使わないなんてもったいないです!!」
「一人で抱え込まないでください。唯さん。」
ドクン。そのとき、呼び起こすのは遠い昔の記憶。
(生きて)
一瞬、息が詰まる。そんな唯などお構いなしに、目の前の遥は唯の手を引いて楽しそうな顔をしている。
「これからは一緒にやりましょう!!」
「まったく……」
その無邪気な声に唯は救われたような気がしたのだった。
雑居ビルの一角にあるその一室の前に立つ。
長年つかわれてないのか、ドアの周りには埃が被っており、蜘蛛の巣が張っていた。
「まずは掃除からだな」
「名前、どうするんですか?」
「名前?うーん。特に仕事は専門性があることは出来ないし、便利屋とかかな?」
「じゃあ、便利屋ユイで!!」
「安直だな」
「わかりやすい方が良いんです!!」
まあいいか。
そう言ってかけられた一枚のプレート。私は必要ないっていったけど、描かれた小さい花柄のスタンプがついている。今考えてみれば私の大事な余分の一つかもしれない。
特別な理念も立派な目的もない。
「先輩!!またソファーで寝て!!ほら、起きてください!!」
テーブルには飲みかけのペットボトル。開けかけのお菓子、読みかけの書類。
視界に入るのは見慣れた天井と騒がしい後輩。
人に不意に起こされるなど、以前なら考えられない光景だった。
だが、遥と一緒に居て、仕事をする。今日も人助けをする。
そうしていると、自然とあの声が安らぐ。あの凄惨な夢を見なくても済む。
私は今日もよく眠れる。
今はこれでいいと思えた。
過去編 完
ここまで読んでいただきありがとうございます!!




