第七話 靄を抜け壁の外へ
第七話を投稿します!!過去編です!!よろしくお願いします!!
「……生きてる」
糸瀬優依はただ血まみれの教室を眺めていた。
そして、その言葉を呟き続けていた。
智花も陽一も総馬もそれを皆殺しにした真白でさえも居なくなった。
誰も居なくなった学校で、その言葉を何度も繰り返す。
何度も、何度も。
そのうちに喉が渇いた。お腹がすいた。
ただ歩く。荒れた購買にたどり着く。
潰れたパンをむさぼる。飲みかけのペットボトルを飲む。
一日がそうして過ぎていった。
二日目、
眠れない。目を閉じると、あの光景が浮かぶ。
血、叫び、倒れていく友人。
「やめて……」
目を開ける。
その時、ぐしゃり。何かを踏んだ。
それは黒い塊。ゆっくりと形が変わる。
液体のように揺れながら、徐々に形を作っていく。それは闇から数を増やし、群体になる。
それは人間の腕や足、目を生やした四足歩行のいびつな“何か”。
中心の口が笑っている。
『出られる。出られる。出られる。出られる。』
こちらを確認すると、一直線に飛びかかってくる。
「助けて!!」
その瞬間、身体が勝手に動いた。
拳が繰り出され、蹴りが走る。
怖くて仕方ないのに頭は冴え、身体は溌剌としている。
怪物との攻防が続く。
何時間経ったのだろう。
「はぁ……、はぁ……」
ようやく全部倒した、辺りは死体の山。ひどい血のにおい。
その中に優依は立っていた。
優依はふと思った。怪物だって血は出るし、肉もあるんだな、と。
「……!!」
気づくと優依は無意識にその怪物を口に運んでいた。
“何か“を喰らう。最悪の禁忌を犯してしまったような気がする。
味はしない。だが、
『“生きて”』
優依は目をつぶる。
枯れ果て死にかけの砂漠に怪物の血と肉が染み渡る。
気分は最悪なのに、久々に生きた心地がしたのだった。
優依は生きた。
生きて生きて生きた。
戦って戦って戦ってそして喰らう。その毎日。
一年、二年、十年以上が経った。
「やっぱり……。」
優依は鏡の前に立つ。
一切老けていないのだ。髪は伸びる。爪も伸びるのに身体だけは老けない。
本当ならに四十くらいになっていてもおかしくないはずなのに、
いつも食べている“何か”のせいなのか、それか鍛えに鍛えた超人的能力のせいなのか、それはよく分からない。
そして数え切れないくらいの月日が経った。
ひた、ひた。といつもの黒い影が来る。
拳を出す。
ドグシャ!!という衝撃音。木っ端みじんになる怪物。
「こんなもんか」
手に着いた血を払う女。女が日課としている”狩り”。それはまるで農作物を収穫するように機械的、効率的。
異形の死屍累々の山。ひどい血の匂い。
悍ましい光景のはずなのに、
それらを目の前にしても何の感想も湧かない。
昔は何かを考えていた時期もあったが、いつしか目の前のことだけを考えるようになった。
自分がどうだったかもあまり覚えてはいない。人間を辞めた機械的な女。ただそれだけが生きている。
そして女は今日もこの場所に立つ。
「……」
一つだけある、遂行すべき使命。
この壁を砕く。そのことだけは常に考えている。なぜそれをしなければいけないのかは分からない。
何度も、何度も砕いた壁。
依然としてそれは悠然と門の前に反り立っている。
「――陽一」
「――智花」
と、女は呟いた。
スイッチを押すように、その名前を呟く。――なぜだか時折、涙がこぼれる時がある。それが何の涙なのかは分からない。
途端彼女の身体に溢れる膨大な力。
頭は冴えて集中力が上がり浮かび出すのは、自らの軌跡。
そびえ立つ壁を彼女は視る。
外郭強度、内部循環、負荷分散。
――脆弱点検出。
高度方角を確認。座標を特定。誤差調整。
最適行動を計算……。
「そこだ」
彼女は飛び上がる。爆ぜるような飛翔。空間を蹴りさらに加速、
戦闘機の如くスピードで迫る。
限界まで強化した拳が壁に接地する。
ドゴォォォォオォォン!!!!
轟音が爆ぜる。
壁面に触れた一点から亀裂が走る。
亀裂が一瞬にして全体に走る。
ビキ、ビキビキビキバキバキ!!!
亀裂が繋がり、一周……。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ………。
崩壊していく壁を見ながら呟く。
「……あれ」
彼女は戸惑った。何度もこれをやってきたがこういうことは初めてだ。
壁の向こうは靄が掛かっている。
「そういや、行ったことないな……」
女はその靄の向こうを進んでみることにした。
なぜだか、そうしなければいけない気がした。
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靄の向こうを抜けると、いつもの景色とは違う場所に出ていた。
よく夢でよく見る場所だ。なんか懐かしい。
門の前に立つ。
『爆発事故による調査委員会特設研究所』
という見慣れない大きな文字があったが、女には一切理解出来なかった。
多分これは文字だよな、そう考えていると、
後ろから何かが近づいてくる。
いつもの生き物とは違う謎の気配。殺気ではない。喜びの感情に近いそれを纏って近づいてくる者が居る。
彼女は後ろを振り向いた。
「やっぱり……。奇跡だ……」
それは人。久しく見る自分以外の人。
男は喜びを含みながらこちらを眺めている。攻撃はしてこないようだ。女は構えを解く。
こんな状況今までに無い。
「そうか、あんなことがあったんだ、無理もないな!」
男はにこやかに近づきながら、興奮して話し続けている。
急に現れた非日常。謎の男。
多分これは夢だ。女はそう思うことにした。
「生き残りは君と俺だけなんだからさ!!」
男が何を言っているのか私にはさっぱりだ。
「あれ?知らないって顔だな。」
「ああそうか!!俺が出たのは事件発生から数時間後だったから、やっぱり時間の乱れがあるんだね。じゃあ、ええと……、え!!千年以上居る計算になるよ!?歳は取らないのか?食料は?うわぁ!!聞きたいことが山ほどあるなー!!」
男は少し考えてから、
「自分の名前、覚えてるか?」
名前?そうか。私の名前。久しく使わなかったから、忘れたな、と女は思った。
色々考えた末、脳裏に浮かんだのはいつも呟いているあの名前。
「……陽一?いや、智花?」
「ははは、もう覚えてないか。教えてあげる。君の名前は優依。糸瀬優依さ。」
優依?ああ。優依か。夢で散々聞いた言葉だ。ニコニコしながら皆がそう呼んでいる。
それが私の名前だったんだ。と納得する。
夢で皆が泣いてるときもあった。そうか。あれが陽一と智花か。たしか血まみれで……。
「あ……あ、」
その瞬間、世界がひび割れた。頭の中で何かが開き、反芻している。
笑っていた誰か、泣いていた誰か。血の匂い、崩れた教室。
私はそれを見て何も出来なかった。
ただ泣いて庇われて、そして……。
「俺の名前は、」
「――真白。樒真白さ。」
男が言い終わるより先に、優依は彗星の如く拳を繰り出していた。
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