第六話 生きる
第六話を投稿します。過去編です。よろしくお願いします!!
学校が閉ざされてから一週間が経った。
特進クラスの空気は文化祭の空気から一転、明日をどう生きるかということを考えるサバイバルな空気が漂っていた。
優依達は今日も必死に生き残るための術を探している。
総馬がパンパンと手を叩き、ざわざわとしている教室を収めた。
「じゃあ注目。今日の情報共有ね。分かったことや収穫はあるか?」
「はい」恐る恐る優依は手を上げた。
「園芸部の敷地から、野菜の種を見つけました。これを育てれば自給自足できます!!」
自給自足ができる。それは彼らにとって思ってもみない幸運だった。空気が少し明るくなる。
「見回りの時いきなりどっかに行っちまうから焦ったぜ……」陽一が頭を掻く。
「私も必死で脳を回したわ。でも、理由があったのね」智花も疲れたように椅子にかけている。
「無事で良かった。ありがとな。糸瀬君」
「うん!!」
優依も力になった。小さいが確かな成長を噛みしめ、その日その日を生きる優依。他の皆もそれぞれ各々の出来ることを探し頑張っていた。
そこにふらっと一人の影。
「誰だ?」
それは先日購買で見かけた可哀想な少年、桜真白の姿だった。
「桜君か、聞いてくれ!!野菜の種を見つけたんだ!!もう食料には……」
総馬が嬉しそうに声を掛ける。だが返事はない。
どこか様子がおかしい。全身からは血の匂い。肩からは血を流している。
「おいおい、めちゃくちゃ怪我してんじゃねーか、ちょ、傷薬……」
陽一が真白に近づく。その瞬間。
ドゴオオオオン!!!
肥大化した腕が横殴りに空間ごとたたき潰し、陽一の身体は抵抗するまもなくふきとんだ。
壁にたたきつけられた身体から、嫌な音が内側から聞こえてきた。
「陽一!!」
「……っ、あ゛あっ……」
腕と足が、本来曲がることのない方向に折れている。
「あれ、僕って最強?」
真白は自らの手を見つめ、強さを実感していた。
口元がわずかにゆがむ。生徒に手を出したことに対して後悔など一切無い。
まるで買ったばかりのペンをその辺の紙に試し書きをしたときのような感情の顔をしていた。
前に見た弱いが責任感のある真白の雰囲気とは全く違う者がそこに立っていた。
ありえない光景に優依は眼を見開く。総馬も一瞬唖然とする。
「……一体、普通科で何があったんだ」
「あいつらなら全員殺したよ。んで、食ったら強くなった。それだけだ」
ビキビキビキ……と真白の腕が弾ける。
「は、ははは……、そりゃ確かにあいつは暴力ばっかで、どうしようもない馬鹿だったよ」
総馬の笑みが引きつる。
「毎回毎回問題起こして、頭下げる俺の身にもなれって何度思ったか分からない」
「でもさ、あいつ、昔はいい奴だったんだよ。真っ直ぐでさ……」
「どうして……どうして!!」
ギンとにらみつける。
その瞬間、総馬の能力が作用する。すさまじい重圧がかかる。
「ぐっ……!!」
「全員生きて帰る道もあったかもしれないのに……」
あの不良達の王、黒田やその取り巻きを食し二十人ほどの強大な力を得た今でも、そのカリスマ性の前に座して許しを請いたくなる。それほどの魅力が彼にはあった。
まるで神仏を相手にしているかのような重圧感だ。
「改心させられたかもしれないのに!!何で!!何で殺したんだ!!」
重圧はさらに強くなる。
「それは無理ですね」
「何だと!?」
真白は静かに告げた。
「黒田が、言ったんですよ。役に立たねえ奴は減らすって、で、僕以外全員化け物の餌にしたんですよ」
「なっ……」
総馬の動きが一瞬止まる。
その“揺らぎ”に合わせるように、重圧がわずかに崩れて拘束が緩んだ。
その隙を真白は見逃さなかった。
「今だ――」
その瞬間、
「うおおおおおおおお!!!!総馬を守れ!!」
その間隙を縫い迫り来る攻撃の雨嵐。
「ちっ……」
その猛攻に引かざるを得なかった。
普段は手から火種を起こす、つむじ風を出す程度の能力の彼ら。しかし総馬の元で発揮する能力は桁違いに能力が向上する。火種は燃えさかる業火に、つむじ風は万物を切り裂く突風に。
真白は今、黒田のような“強大な個“ではなく、統制の取れた一つの城を相手にしているのだ。
「ははは、すごい能力だ……。食ったらどうなるのかな………」
真白が狂気じみた眼で総馬を見る。
「ちがうな。“統”は僕だけの能力じゃない」
総馬は智花を合図を合わせる。情報が一気に流れ込む。
(言動、血痕から殺した相手の能力を奪う可能性大。能力最低二十確認。黒田武の『暴』があると推察。近接は巨腕が危険。謎の槍が主体。空間攻撃可。範囲は教室中央5mほどが限界。槍は火が弱点。)
『統』で情報を共有させる。襲い来る槍を回避。風が進路を妨害し、燃え尽きていく。
その読みに攻めあぐねる真白。
「なんで!!当たらないんだ……!!くそっ!!くそっ!!」
苛立ちからか、攻撃が単調になる。
その瞬間、自らが出した特大の槍を避けられ生徒の一人に懐に入られる。
「燃えちまえ!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!
燃えさかる炎が真白の身体を包む。
「ぐわあああああああああ!!!!!」
熱と痛みの中で、真白の脳内に流れ出す、羨望。嫉妬。恨み。
やっぱり駄目か。この人、泣いてるな……。こんなに皆に悲しんでもらえていいなあ。陽一君は。僕なんて笑われながら化け物の群れに放り込まれたのに。
あの奥の女共……。むかつくなあ。大して戦えないくせに、このクラスってだけで皆に守られて良い思いしやがって……
そのときだった。
『負けるのか?』『また捨てられるのか?』
脳内に響く無数の声。
炎の奥で何かが弾けた。
焼け落ちるはずの肉が逆に膨れ上がっていく。
皮膚が躍動する。骨が軋む。全身が生き物のように活性化していく。
そうだ。僕は強くならなくては。だれにも捨てられないように。誰にも負けないように。
こんなぬるい場所で終わっていいはずがない。。
「効かねえんだよ」
「お、おい!!火が効いてないぞ!!」
「もっとだ、もっと攻撃しろ!!」
さらに火力を増す業炎。
しかし、その間隙から出た鋭い殺意は憎き相手を貫く。
ブシュウウウウウウウウ!!!
「火野!!」
無数の槍は体内で分かれ男子生徒の全身を滅多刺しにする。
真白の全身の皮膚は象のように分厚くなっていた。
「効かねえんだよ!!お前達の甘い攻撃なんて!!」
さらに力を増す真白。
戦闘はますます激化する。一人また一人と犠牲者。
(一人、また一人、“統“を通じて入ってくる)
(恐怖の声、助けを求める声が……)
総馬はただ死に向かって無策に突っ込んでいった。
「うわああああああああああああ!!!」
「総馬!!落ち着きなさい!!」
智花の制止する声も聞こえず、ただ、
ブシュウウウウウウ!!!
凶刃が総馬の身体を貫く。
「嘘だろ……、こんなこ……」
「手遅れなんだよ。全部。もう終わったんだ」
グシャグシャバキメキゴキ!!!
総馬の身体は原型が無くなるほどに潰れた。
「やった、やったぞ!!これで……」
バキバキゴクン!!
それは圧縮され、真白の体内に無情にも消えていった。
呆然とする残された智花と優依。
「ふふ……、ははははは!!」
「ひざまずけ!!」
その瞬間、身体が重くなる。まるで万力で押しつぶされているかのようなプレッシャー。
ギリギリギリギリギリギリ!!
「重い……」「やめて……」
ガシャアアアアアン!!
気まぐれに真白は教室の窓を破壊してみた。空はどこまでも閉ざされているが、彼に宿った二人の最強。暴力と権力、それは彼に欠けていた自尊心を満たしてくれるようだった。
「……はっ」
「はは……ははは……」
一拍置いてから、
「あははははははははは!!!」
喉が勝手に鳴るみたいに笑いが続く。真白の身体に湧いてきた奇妙な高揚感。全能感が身体に響く。ふぅ、と彼は一息ついてから。
真白は血でしたたる教室を、ひた、ひたと歩き近づいてくる。
「ひっ……」
顔を近づけて品定めをする。
ニコーっと気持ち悪い笑みを浮かべてからこう一言。
「嫌いな方から殺そう」
指を交互に差し替えたりじろじろ眺めたりしながら、ゆっくり殺す相手を考える真白。
強者の余裕を見せる。
優依と智花は逃れられぬ死をただ座して待つ他なかった。
「んー」
真白は笑顔で近づく。単調な靴の音が、優依には死神の足音に感じる。
恐怖で震える身体。血の匂い。近くには友達の死体の数々。
「――糸瀬優依」
ビシュッッッッッッッ!!
真白の手元から鋭利な槍が空気を切り裂くように伸びる。空間から迫る避けられない死。
それから逃げるように、優依はぎゅっと目をつぶった……。
どしゅっ!!
すさまじい刺さる音が聞こえる。血しぶきが顔に飛ぶ。しかし痛みはなかった。私は死んだのか……。目を開けると。
「智花!!」
そこには血まみれになった智花の姿。動かず、息は切れてしまっている。
優依の胸に、言葉では表せない絶望が押し寄せてくる。涙が頬を伝うが、声は出なかった。
ただ目の前の惨状を見つめることしか出来ない。
「は、ははは……そう来たか……」
ガシャアアアアアン!!さらに教室を破壊する。
目の前で起きた出来事に怒り狂う真白。全身をかきむしりながら震えている。
「……うう!!」
重圧は怒りに応じてさらに強くなる。優依にはなぜ切れているのか全く意味が分からない。
「弱いくせに……なんで……!!」
圧はさらに掛かる。
「ぎゃあ!!」
さらに足蹴にする。何度も何度も、死なない程度に彼の無聊を慰める遊具のように、何度も何度も。投げかけられる罵倒の言葉の応酬。
「なんで!!なんで!!くそ!!この!!」
優依は傷つきながら必死に自分の手から伸びる糸を智花に伸ばしているが何も意味はない。無力。友の死に、叶わぬ空虚な願い。
無情。痛み。苦しみ。それら全てを感じながら。それでも息絶えた智花にかけ続ける。
「……消えてくれ」
彼は優依の前に手をかざした。
シュルルルルルルル……、グググググ……。
毛や草、風、炎。暴力、そして超重圧。蒐集した全ての力が彼の手の元に集まる。
寄り集まりそれらは一つの槍と化す。
全てを殺す禍々しい槍。明確な“死“
それが優依の目の前に……。
「死ね!!!!」
ドシュゥゥゥゥゥ!!!!
“死”が放たれた。
その瞬間、世界が暗転した。
何もない暗い世界に優依の意識が沈む。落ちる。昏い、深い場所。音もない、光もない。ただ、自分の呼吸だけがうるさい。
これがあの世?
「……私のせいだ。」
ぽつり、と言葉が漏れる。
「私が、役立たずなせいで……。」
視界の奥に浮かぶ景色。倒れていく仲間。崩れていく教室。血に染まる床。
陽一、総馬……。
そして私を庇って倒れた。智花。
「私が殺したんだ……。」
声が震える。
「私が弱いから、皆死んだんだ……。」
その時、
「優依……。」
聞き覚えの声がする。ゆっくりと顔を上げる。そこに立っていたのは。
「智花……?」
血にまみれた姿。だが、立っている。確かにそこにいる。
「本当に優依はそう思うの……?私が庇ったのは“優依が弱いから”?」
智花は首を振る。
「私はあの瞬間、仕方が無いか、って思ってた……。でも……、優依が希望をまだ持ってたから……“生きる”って言う眼をしてたから……」
もう一人の影が現れる。
「そうだぜ!!生きろ!!お前は生きてここから出るんだ!!」
「陽一……!!」
「は、はは……俺もギリ、生きてたみたいだ」
けれどその口元は震えていて、呼吸も浅く、腕と足も思うように動いていない。
どうみても長くはない。
「……何で笑ってんの。」
優依の声は崩れかけていた。
「だってさ、こんな終わり方ダサいだろ?」
「ちょっとくらいかっこつけて死なせろよって話」
「そんな、やめてよ……」
優依はその様子を見て後ずさる。目を覆いたくなる。陽一は身体が潰れている。智花も腹が裂けている。
「優依。ちゃんと聞け。」
「お前は生き残っちまった。そこに、理由なんてないのかもしれねえ。でも、確かに助かった。全員死んじまったがお前だけは生きてる。」
「その偶然を無駄にすんな」
その時、ぽうっ……。優依の身体の内側に何かが流れ込む。
暖かい……。
凍り付いたはずの心にそれがじんわりと広がっていく。
「なに……これ。」
手を見る。気づくと震えは止まっていた。
「……優依。」
智花の声が少しだけ遠くなる。見ると、智花の輪郭がわずかに揺らいでいた。
消えていく。
「ちょ、!!ちょっと待って!!」
手を伸ばすが届かない。
その代わり、すり抜けた何かが優依の中に入っていく。
「……ははは、何だこれ。変な感じだな。消えるっていうのは。」
「やだ……。やだよ。」
「大丈夫。」
「私達が消えてもあなたの中で私達は生きる」
「ああ、なんだか不思議な気分だな。一つになるってのは。」
胸の奥で二つの鼓動のようなものが重なる。
「……生きて、この俺の話を語り継いでくれ!!そうすれば俺も一緒に出られる!!」
「いい?必ず生きてここを出るの。生きて、優依。」
「「行け」」
二人の声が重なり、消えた。
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ドゴオオオオオン!!
全ての力を統合した絶対破壊の槍。それは一直線に優依のいる教室の端部分を貫く。
床は抉れ、壁が吹き飛び、空気すらも裂ける。
教室は基礎部分から砕け、隣の教室と一部つながってしまっている。
真白はゆっくりと息を吐く。
「さてと、」
歪んだ笑みを浮かべながら教室を眺める。土煙が晴れ、死体を確認しようとするが、
「あれ……?」
いない。殺したはずの女がどこにも居ないのだ。
「まあいいか、どうせしょぼい能力だろうし」
そして真白は壁の前に立つ。
空を塞ぐ、学校と外の世界を分断する巨大な壁。そこに手をかざす。
毛ほどの細い隙間から槍が侵入する。
「あ、いけそう」
バキッ。壁には小さな亀裂。
バキバキバキバキ!!!
それはさらに大きくなる。すでに校舎より遙か高い場所にもひびが伝っている。
そして、
ボロボロボロボロボロボロ……。
耳をつんざく破壊音と共に砕け散った。
境界の向こうには靄。
「あはっ。やっぱり」
彼はその中へ去って行った。
その瞬間、壁は即座に修復され、元の姿へと戻った。
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逃げる、ただ、逃げる。足がもつれる。息が切れる。
それでも止まらない。止まれない。
憎しみ、それがないわけではない。
友人達を殺したあの男。桜真白に今すぐ復讐したい。
だが、こころの奥底にある何かがそれを抑えている。
それは願い。
智花の言った最後の言葉、“生きて”のために、私は逃げている。
ここで犬死にする訳にはいかない。そう思った。
その時、
ドォン!!!
大きな衝撃音。外だ。
巨大な壁、その一部が崩れ落ちている。
その下に居るのは真白。迷いなくその奥へ進んでいく。
彼の姿はそのうち消えていった。
壁と共に。
「……あ、」
「……あはは、やった。やったよ。智花」
「助かった……」
脅威は去った。しかし、そういった瞬間、
ぽろ、と涙が落ちる。止まらない。
呼吸が乱れる。心臓がうるさい。
さっきまで動いていた身体が急に重くなる。
「う、う……」
「生きてる……生きてる……」
呟く。震えながら。その言葉を何度も繰り返す。
それだけで、崩れそうな自分をつなぎ止める。
そして優依は歩き出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
次回も鋭意制作中です!!ご期待ください!!




