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第一話 予知夢の少女を救え

第一話を投稿します。よろしくお願いします!!

雑居ビルの一角、

築三十年のボロボロのビルにその事務所はあった。

切れかけの蛍光灯に剥がれかけの外壁。

階段を上っていくと、その二階の廊下だけは妙に静かで掃除が行き届いている。

その奥のドアには小綺麗なプレートが掛けられている。

――『便利屋ユイ』

整った文字の横に、(家族円満から不良の喧嘩の仲裁まで、なんでも解決します!!)とやけに軽い一文が書いてある。

その周りにちいさな星や丸がちょこんと乗っている。

ささやかだが、殺風景なビルの一室にふんわりとした雰囲気が醸し出されている。


ここが、どんな依頼でも解決する場所だと知る者が少ない。


そこに少女が一人。

息を切らしながら、意を決したようにノックする。

コン。コン。


「……どうぞ~。」

中から間延びした声が聞こえる。

ドアを開ける。


ドアを開けると、そこには一人の女性がいた。


椅子に浅く腰掛け、くるくるとペンを回している。

机には買い物袋と飲みかけのコーヒー。

Tシャツにジーパン姿のなんともだらしない女の人というイメージだ。


「はいはい。いらっしゃい。便利屋ユイでーす。」

気の抜けた声で女性は笑った。


「遥?、やったよ、お客さんだ。」


えええ!!と素っ頓狂な声を出しながら奥から顔を出したのは、もう一人の少女。


淡いクリーム色のブラウスに、くすみピンクのロングスカート。

袖口はふんわりと膨らみ、動くたびにやさしく揺れる。

上から羽織った薄手のカーディガンも少し大きめで、全体的に“ゆるい”シルエットだ。

髪はゆるくまとめられ、後れ毛が頬にかかっている。


先ほどの女性とは対照的にどこか柔らかい雰囲気だ。


「お客さんですか!!ど、どうぞ、こちらにお掛けください!!」

慌てて椅子を引く。無造作に置かれているテレビのリモコンや漫画などをいそいそと片付け、湯飲みを大慌てで運んだあと、ぎごちない手つきで緑茶を注いだ。


「ありがとうございます……。」


少女は椅子に座るが、落ち着かない様子で視線を泳がせている。


「そんな硬くならなくて良いよ。私はユイ。久遠唯。唯さんとか気軽に呼んでね。」


気さくな挨拶のあと、真っ直ぐに少女を見つめる唯。

その面持ちは子供であろうと真剣そのものだ。


「ふぅん……。」

「なんだか、君、凄く用心深いね。どうしたの?」


「そうですか?」と、遥。

「おいおい、遥。依頼人様の心の声に耳を傾けるのが我々の仕事だよ。」

「はい!!」


かるくたしなめてから、唯はテーブルの端に目をやる。

そこに置かれているのは少女の荷物。


「ショルダーバッグに手提げ鞄。小さいけどリュックまで背負ってきた。うちに依頼に来ただけにしては大荷物すぎやしないか?」


「街中の装備って感じじゃないよね。どっちかっていうと、――サバイバル?」


「さ、サバイバルですか!?」

遥が目を丸くする。


しかし、少女は首を振る。

「……全部必要なんです。」


その一言に、ユイは興味ありげな顔をする。

「へぇ。」

さらに観察は続く。


「今日は晴れ。なのに折りたたみ傘が複数。」

「それでいて日避けの帽子。なぜ逆の装備を同時にしているのか。実に不思議だよね。」


「……で、極めつけがそれ。」


視線が足下へ落ちる。


「安全靴。」


遥がぽかんとする。確かに少女のか細い足には似合わないような上げ底のがっちりとした靴を履いている。おしゃれ目的の靴で似たような靴はあるが、他の靴からは感じない圧倒的な安心感を感じるものだ。


「それからこの――」


ユイは鞄にジャラジャラと大量に備わっている、あるものを指さす。


「大量のお守り。」

「――今のところ君が恐れているのは、雨、事故。怪我、日差し、それから不運。そんなところかな。」

「で、何をそんなに恐れてるの?」

「それが依頼内容でしょ?聞かせて欲しいな。」


少し驚いた顔をしてから、やがて少女はゆっくりと口を開いた。

「私、見てたんです。先日の事件を」


「「事件?」」


少女はスマホを取り出した。開いたのは動画アプリ。そこに映っているのは、夜の繁華街、大男相手に圧倒する女性――唯の姿だった。


「これ、貴女ですよね。」


「あーこの前の奴か。」


「……ああ!!この前の奴ですね!!これ。」


遥の脳内に浮かび出す巨大な男。


「ありがとうございます!!」

「え」

「いやーあなたはお目が高い!!そう!!今ならすっごく強い唯さんが貴女を守ってくれます!!」


間髪入れずに始まる営業トーク。指先でひらりと唯を示しながら、遥は話を勝手に進めていく。遥は落ち着かない様子で唯にこそこそと耳打ちをし始める。


「……唯さん!!広告大成功じゃないですか!!これで商売繁盛間違いなし!!いやー、あの後街を壊したことをお廻りさんに怒られた時は正直ハラハラしましたが、結果オーライです!!」


「広告って遥。私は暴れてたから止めただけで……」


「良いじゃないですか。二週間案件ゼロなんですよ?ささ、お安くしますよー?」


少女はやりとりをよそにその動画の画面をじっと見ていた。

「……あの!!」

え?と振り向く二人。少女の眼には決意が宿っていた。

「……その時私、確信したんです。」

「この人なら私を最悪の未来から救ってくれるかもって。」


「「最悪の未来??」」


―――――――――――――――――――――――――


「未来が見える、ねえ……。」

「普通に考えたら、便利ですよね。天気予報とか見なくて済むし、……あっ、」


遥の目には彼女が持ってきた折りたたみ傘の束。


「なるほどね。未来は見えるけど当てることは出来ない。みたいな感じなんだ。」


「……はい。私が見えるのは“悪い予感”のみです。」

唯は机に肘をつき、顎に手を当てた。

「じゃあさ、」

「この部屋でこれから起きる“悪い予感”を教えてくれるかな?」


少女の視線が、部屋の中をゆっくりと巡る。その視線はまるで一つ一つの場所を探知機のレーダーで探しているかのようだ。

そして、少女の視線が一点に止まる。


「――このコップ、もうすぐ割れます」


その瞬間、


パリン。


乾いた音が室内に響いた。遥の手元、持ち上げかけた湯飲みが床に落ちて砕け散っている。

破片が床に散らばっている。


「ああ!!私のお気に入りの湯飲みが……!!」

遥は慌てて立ち上がる。

その一方で、唯はその光景を見ながら小さく息を吐いた。


「……すごいや。本物だ。」


「話を聞こう。」


そして話は本題へと移った。


「私が最悪の未来を見る頻度はもともと一ヶ月に一回くらいでした。しかし、最近になって五回、十回と増えていき、今や一日に数回は見るようになってしまいました。」


「そんなに……!?」

遥は割れた湯飲みを片付けながら驚く。少女は静かにうなずく。


「内容も変わりました。」

「以前は些細なものばかりだったんです。」

「物を落とす。とか、転ぶ、とか。」

「でも今は違う。」

「交通事故とか、命の危機に直結するようなものも多く見るようになってしまいました。」


この大量のお守りと安全靴その他諸々は自分の身を守るためか、と合点がいく唯。遥も薄々それに気づいているようだ。


「そして、先日の、あの事件」

「私はあの男に出くわしました。そして、私は一瞬、あの男に触れられたんです。」

少女は静かにシャツの袖をめくる。小さな肩が露わになる瞬間。そこには、

真っ青に浮かぶ、巨大すぎる手の形の痣。


「これは……。」


遥の目が思わず見開かれる。唯もまたそれをじっと見つめた。


「唯さんが来てくれたおかげで注意が逸れましたが、なければ私は確実に殺されていたことでしょう。」


「だからウチに来たんだね。」


唯が立ち上がる。


「分かった。君の最悪の未来。私が救ってあげよう。名前を教えてくれるかな。」


望月夢もちづきゆめと申します!!よろしくおねがいします!!」


―――――――――――――――――――――――――

一行は街中を散策する。


歩道に反射する街灯、遠くで響く車のクラクション。その中で夢は小さくうつむきながら場違いなほど当たりを確認して歩いている。


「あのー、そんなに怖がらなくても……。」


「だめです!!予知夢は急に来ます!!例えばあれ!!いつ奥から大群を率いて私を襲ってくるか分かりません!!」


夢の指の前には小さな蟻の列。


「いや、これは流石に無理があるでしょ……。」


「それほどまでにその能力は危険なんだね。そしたら、私にどうして欲しいのか。教えてくれるかな?」


「……はい。私の夢にはルールがあります。」

「私が見た予知夢は私がその場所に来ると必ず起こります。被害の大きさは、その時の装備や状況で変わります。例えばこの前の事件では唯さんがいたから私が助かりました。」


あ!!と遥は何か気づいたように割り込む。

「じゃあ、その場所を通らなければ予知は回避出来るんじゃない!?」

「はい。しかし、最近は日に何回も見るため、通れない場所が増えていき、外を自由に歩けない状況で……。」

「ふうん、君からすれば、外出するたびに危険な洞窟を進まなければいけない、みたいな感じなんだね。」

「そんな感じです。依頼をした理由は、もう一つルールがあって、“一度起こった予知は二度は起こらない”。と言う点です。」


「なるほどね。つまり、私に同行を頼んだのは地雷除去のためか。」

「そうなっちゃいますね。あはは……。」


歩いて行くうちに一行は住宅街を出て、大きめの道路にさしかかった。


「そこの向かいの交差点で私はダンプカーに轢かれるんです……」


暗い顔をする夢。


「大丈夫だよ!!夢ちゃん!!私達がいるじゃん!!さあ!!どんな危険でもかかってこーい!!」

遥は笑顔を浮かべながら腕を広げた。しかし唯は浮かない顔をしている。

「いい気なもんだよ……それ解決するの私でしょ……。」

「いや、唯さん!!空気読んでくださいよ!!ここは励ますのが……。」


「……!!」

少女の眼からはぽろぽろと涙がこぼれている。

焦り始める遥。


「え!?私、なんか傷つけること言っちゃいました!?」


「いえ、嬉しくて嬉しくて。私、ずっと怖かったんです……。まともに聞いてくれる人なんて今まで居なかったので……。」


「もう大丈夫だよ。私達が必ずなんとかしてあげる。」


「はい……。」


その瞬間、

キキーーーーーー!!

何かが猛スピードで突っ込んでくる。


「唯さん!!!」

「ああ!!」


ポス。

小さな衝撃が足下に響く。

しかし視界に映ったのは三輪車だった。


「坊主、気をつけて運転しなよ。」

「あいーーー!!」

子供は手を振り去って行った。


「ダンプ……?じゃないよね……?」


二人は顔を見合わせる。なぜか夢は安堵した顔をしていた。


「ああ、良かった。こういうときもあるんです。予知夢は、運が良いと今のようにスケールダウンする事があるんです。」


「次行きましょう。」


三人は再び歩き出した。

今度は住宅街に出た。


「次はこの先のマンションの六階から私は植木鉢に衝突して死にます。」


「ところでさ、逆に予知夢の内容が大きくなることはあるの?」

遥は興味本位で聞いてみる。


「……あります。昔に大けがをしたことがあるんです。」

「あれは忘れもしません。母親とくだらないことで喧嘩をして家出をした日のことです。」


「予知夢の内容はただのスーパーのぼや騒ぎでした。私はいらだっていたのもあって、気にせずそこで買い物をしていました。そしたら、起きたんです。」


「大火災が。」


「気づいたら辺りは一面の火の海。逃げ惑う人々。私も一心不乱に逃げました。さらにビルは燃えさかるばかり。結局建物は全焼。私はどうにか窓を割って脱出しましたが、背中に大やけどを負ってしまいました。救急車が駆けつけるのが遅ければ私はどうなっていたことか……。そう、丁度この辺の……。」


「キャアアアアアアアアアアアア!!!!」

けたたましい叫び声。


「え、?何?なんの騒ぎ?」


皆が見ているのは上空。遥もそれにつられ同じ方向を見上げる。


「……!!」


自分の真上には黒い、大きな影。

それは巨大な、鉄骨だった。


夢の息が止まる。しまった。話に気を取られていつもの警戒を怠ってしまった。


声にならない。言葉にならない。

頭では理解しているのに、脳が“死”という現実を拒否している。


鉄骨は加速してくる。


長さ数十メートル。重さ十トンにも届くそれが、今、目の前に。


ドカアアアアアアアン!!!


…………。


音がない。痛みもない。

私は、死んだのか……?


夢は眼を開く。


その重厚な殺意は、

夢の目の先で、ピタリと止まっていた。


「なるほど」


「スケールアップすることもある。」

唯の手にはその鉄骨が確かに握られていた。


「ほら。もう落とすなよ。」

唯は鉄骨をガシャと置いて言い放った。


「確かにこれは危険な能力だね。とりあえず今見てるものは全部解消してあげる。行こう。夢。」


「ね、大丈夫だったでしょ!!」

「なんで遥が得意げなんだよ……。」


言葉にならない夢。今目の前で起こった現象に脳がついて行かなかった。

だが、これだけは分かる。私の予感は間違ってはいなかった。

この人なら確実に私を助けてくれる。そう思った。


―――――――――――――――――――――――――――


次々と危機を回避していく唯。

街路樹の倒木、バイクの暴走、看板が落ちる。


しかし今日はどれもが不思議と運の良い日のそれだったのだ。


「はい!!それではこれで最後です!!ありがとうございました!!」


「結局原因については分からずじまいでしたね……」


「いや、良いんですよ!!外を心配しないで歩けるだけでありがたいですから!!」


「最後の予知はなんだっけ。」


「この公園に17時ジャストで飛んできた野球の外野フライが顔面に激突する。です。」


「また地味にいやな一撃ですね……」



その時だった。

通りの向こうから一つの人影が近づいてくる。

その表情はとても恐ろしい顔をしていた。


「――夢!!貴女って子は……!!」

「……あ、お母さん。」


夢はおびえたような表情をしている。

か細く、逃げ場を探すような視線をしていた。


「あ、お母様でしたか、お世話になっております~~」

と遥が言いかけたその時、


「……また、またこの子ったらろくに勉強もせずにほっつき歩いて人様に迷惑掛けて!!」



「塾はどうしたの!?あんな成績で良いと思ってるわけ?もう。いいから!!今からでも良いから塾に早く行くわよ。乗りなさい!!ほら!!」


「はい……。」


「あ、あの……お母さま?いや、あのこれには深い事情があって……。」


「あなたたちも恥を知りなさい!!子供のお遊びに大の大人がよってたかって!!恥ずかしいと思わないんですか?」


「え、ええっと……。」

怒気を帯びた声。17時まではあと数分。遥の安全のためにここで解決させてあげたい。

遥はその時間が来るまで必死に引き留めようとしている。


その瞬間だった。


ウウ―――!!非常サイレンがうるさく鳴り響く。

「なに?何が起きてるの……!?。」

のどかだった公園は一転して騒然とする。

その時、

近くの商店街の家電量販店のテレビが一斉にニュース速報に変わった。

無機質なアナウンサーの声。

『今入ったニュースをお伝えします。突如として予測不能な軌道を取って現れた直径約100キロの彗星1号は後数分で東京上空の大気圏内に突入する模様です。地上に居る方は速やかに地下へ避難を、繰り返します……。』


「お母さんと約束したよね?中高一貫の進学校に受かりますって。ねえ?聞いてるの?ほんと貴女は昔からどんくさくて、すぐ怪我も作るし、産んでからろくな事無いわね。本当。」

さらに母親の説教は勢いを増していく。上空の異変には気づいていないようだ。


『さらに速報です!!その後ろからさらに他の隕石の確認がされました。速やかに避難を!!』


遥の脳裏にはあの鉄骨。

さっきは植木鉢が鉄骨になった。今度はボールが隕石に?さらにそれが増えて?

スケールアップだ……。それも超超特大の。


遥は一縷の望みを篭めて唯にすがる。

「ね、ねえ、唯さん……?これ……。なんとか、出来るんですよね……?」


「ははは、無茶言うな。隕石なんて私にもどうしようも出来ないよ。」


「え、え、じゃあ。」


「智花――力を貸して。」

その瞬間、

唯の声色がほんのわずかに沈む。いつもの声からは別人のような機械音声のような声を発し始めた。


「能力:智 起動。脳力制限解放。過去ログ検索開始、言動と事象について照合を開始。一点,二点,三点,類似点を確認。」


唯の身体が軋んでいる。

顔の血管は怒張し、鼻からは出血、全身が紅潮している。


「遥!!」

「分かったぞ!!原因は少女のストレスだ!!ストレスが大きいほど彼女の予知夢はよりやばいものに変化する!!今すぐ少女を落ち着かせろ!!だが私にはさっぱりその方法がわからん!!」


「頼む遥、お前にしか出来ないんだ!!」

「は、はい!!」


スウウウウウ。と息を吸う遥。


「あの!!お母様!!ちょっといいですか!!」


「何よ……。あなたには関係……」


「大ありです!!私この子に相談を受けてたんです!!この子、滅茶苦茶無理してます!!自分の子供をよく見てあげてください!!」


「……そんなことはないわ。だって、夢は私に約束して……?夢……?」


夢はうつむいたまま。肩をふるわせてる。

ぽた、ぽた、と涙が地面に落ちる。


「ねえ、」

かすれた声。

「何でいつもこうなっちゃうの?」

「昔みたいに優しくなってよ……お母さん……。もう塾なんかね、本当は行きたくないの……。」


困惑する母親。


「夢、……。」


「ちゃんと言えたじゃないですか。」


遥はにっこりと笑う。


その時だった。

『皆様。隕石一号は再び軌道を変え圏外へと進行していきました……』


「はあ、よかった……」


公園には安堵の声が漏れる。

しかし、その安堵は長くは続かなかった。

空には依然として謎の黒い影。


「隕石の破片だ……」


そう。数秒だが遅かったのだ。大気圏に少しだけ侵入した隕石はそのかけらを地球に遺して去って行った。しかし、そのかけらだけでも我々矮小なる人類にとっては街一つ破壊する脅威となる。


「あ、あれ!!唯さん!!」


「智花――!!」


「能力:智 再起動。能力:体との同時接続の許可を訴求。容認。視力増強により脅威検出確認。直径一キロ。弱点検出。脆弱部分を検出 能力:体 出力 臨界突破。」


その時、唯の姿はすでに虚空へと移していた。空気を蹴るほどの超跳躍、超加速で上空を飛び上がる。拳を強く握りしめる。


「私が、止める……!!」

「必殺、彗星割り《メテオクラッシャー》!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


ボン。

――瞬間。音が消えた。

時が止まる。相当な距離があるはずなのに衝撃波は遥の元にまでとどいた。

「凄い風……。」

すさまじい烈風。

ヒュウウウウウウウウウウ……。


その時、空にあった隕石のかけらはくっきりと消失していたのだった。

「え、消えた……」


歓喜に沸く街。

しかし遥はその中で心配そうな顔をしてただ見上げていた。

一人飛び立っていった唯の身の安全を案じていたのだった。


「どうした?遥。」


後ろには唯。


「あ、あ!!唯さん!!無事だったんですね!!良かった~~!!心配しましたよ!!急に飛んでっちゃうから……。」


「ああ、今日はちょっと無理しすぎたな。でも、これで危機は去った。遥、そしたら……」


唯は指を差す。その先には親子の姿。


「はい!!しっかり決めてきます!!」

「頼んだよ……。」


母親は困った顔をしながら頑張って娘に話しかけている。


「……夢。ごめんね。私もいろいろあって、離婚もしたし、仕事も忙しくて……。どうしても優しくしてあげられなかった。あなたをちゃんと見てあげられなかった。母親失格だよね……。」


「お母さんが大変なのは分かってたよ。私も塾にちゃんと行けば、心配させずに済んだ。でも……外は危ないし……。」


「夢は昔から外を歩くとすぐ厄介事にあうところあったわよね。」


「そうなの!!私、最近、ひどい目に遭ってばかりで。通り魔とか」


「そっか……。」

少女はただうつむいている。


「あの、良かったらうちで勉強しませんか!!」


「……は?」


途端に怪訝な顔をし始める母。


「こう見えて遥は高学歴なんだ。きっと頭も良くなると思う。」

「はい!!昔から勉強だけは得意で!!」


「え……。高校は有名私立……?難関大学を主席で卒業……?」

一気に母の目の色が変わる。遥は困った顔をしている。


「是非お願いします、ウチの娘を志望校に入れてやってください!!それに貴女なら、夢の気持ちを分かってあげられる。夢の心の支えになってあげられるわ。水魚の交わりとはまさにこのこと。絶対あなたなら上手くやれると思うわ!!」


「え、ちょっと、見抜いたのは唯さん……。」


「あなたの夢の気持ちを分かってくれるのね?あら、じゃあさらに良いじゃない!!もう今日から任せちゃうわ!!じゃあ、言うこと聞くのよ!!私はこれから仕事があるから、行くからね。」


と言って去って行った。

二人はその方向を唖然とした顔で見続ける。

「事件解決、したのか?」

「凄い人でしたね……。」


―――――――――――――――――――――――――――――


その後、


「で、あれから毎日来てる訳か……。」

「はい!!いやーウチも商売繁盛で!!助かります!!」

遥は母の手前胸を張って応えた。調子の良い声が狭い事務所の中に響いた。


「いやいや、大手塾に比べたら全然良心的ですよオホホ……。」

「本当にありがとうございます。夢もあれから成績が上がって、どうにか合格圏内に達しました。」

「あと、最近夢の怪我が少なくなった気がします。」


母親は少しだけ頭を下げた。

その仕草はあの日の張り詰めた印象とは違ってどこか柔らかい。


「はい、夢ちゃんは凄く頑張っていますよ。ね?」


「うん!!」


夢は元気に返事をした。

じゃあ仕事残ってるから、と母はそう言い残して事務所を後にした。

扉が閉まる音。ほんの少しの静寂が落ちる。


「あ、そうだ!!あのときの報酬!!」


「あーいいよ。子供から報酬は取れない。……じゃあ、これ、代わりに貰っとくよ。――これはもういらないでしょ?」


唯が手に取ったのは依然バッグに付けているお守り。その一つだ。

不安を縫い止めるようにずっと残っていたそれ。


「私にも一つ背負わせて欲しい。いいかな?」

夢の持つ呪いを一緒に背負わせて欲しい。そう想う声。

静かで、柔らかな、声。

「……はい!!」

夢は少しだけ驚いた後、夢は嬉しそうな顔をした。

お守りをそっと外し手渡す。

一人じゃない。そんな感覚が胸に灯る。


「あ、でも……」

「ん?」

「この予知だけはどうしても消えなくて……。よく分からない場所の予知なんです……。」


唯と遥が顔を見合わせる。

まだ戦いは終わっていない。そう思わせるような予感が震えた。


―――――――――――――――――――――――――――――

とある廃工場にて、

ボロボロのスーツ姿の男が磔にされ命乞いをしている。

その様子を見守る二人の影。

「か、金だけは払う!!どうにか命だけは!!」


「うるせーよ。黙って死ね。モルモット」

短く吐き捨てる声。

プスッ。と乾いた音。注射針が男の身体に突き立てられる。

「……うう!!!」

ドクン!男の目が充血し、血管が浮き上がる。

「ぎゃああああああああ!!!」

グチャグチャグチャバキバキバキメリメリ!!

肉体が膨張する。骨が軋む。


次の瞬間。


“それ“は人間だったものを完全に捨てた。

だが――

ボンッ。


膨張した肉体が内側から弾けた。肉片と血液が床に飛び散る。

柄の悪そうなその男は舌打ちをする。靴先で飛び散ったそれを軽く避ける。

「はあ、汚ねーなー。」


「あちゃー、失敗かーー。僕の血の分量が多すぎたかな?」

もう一人の男は片手間に新聞を読んでいる。自作の料理の出来を見るように男の死を分析している。


「しかしよ、お偉い立場のアンタが裏でこんな実験してて良いのかよ。樒真白さんよ?」

「んー……。」


真白と呼ばれたその男は上の空で新聞を見ている。

目に止まったのは一つの記事。


そこに写っているのは――


「……ふふ、唯。今日も頑張ってるね。」

「僕も、もうそろそろ行けそうだよ。“特進クラス”。」


「上機嫌だな。どうした?」

「んーん?次の実験行ってみようか!」


男は笑顔でそう答えた。


夢の能力は 予 です。予知じゃなくて実は予感です。


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夢の2人と共にいる安心感がダンプカーを三輪車にさせたという伏線が素晴らしく、同時にダンプカーのように圧し掛かっていた重荷を三輪車のような穏やかなものへ変質させた唯達と夢の相性の良さも表しており実に巧い…
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