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第十六話 糸瀬優依は平穏に青春を謳歌したい

十六話を投稿します。よろしくお願いします!!

2025年、初夏。三年A組の教室は騒がしかった。


うだるような暑さの中、

糸瀬優依は教室で友人二人の会話を聞きながらぼーっとしていた。

机を寄せてカードゲームをしている男子。窓際でスマホを見せ合って笑っている女子

黒板には文化祭の出し物の多数決が書いてある。

パンの袋を開ける音と、炭酸の抜ける音。その全部から少し離れた窓際の席で、糸瀬優依は小さく肩を縮めていた。


「なあ、聞いてっか?」

「え?」


早坂陽一と文月智花。

席が近かったこともあり、すぐに打ち解けられた。

二人は幼馴染みらしい。


「でさ!!また先生論破したんだよ!!」

「論破って言い方やめてくれる?」

「でも実際そうじゃん。『その説明は論理が破綻しています』とか言ってたし」

「事実を指摘しただけ」


智花は平然とパンをかじる。


優依は小さく笑う。

この二人のやり取りはいつもこんな感じだった。

陽一が騒いで、智花が呆れて、その間で優依が苦笑する。

不思議と居心地がいい。


「つーか糸瀬、お前さっきから全然話聞いてなくね?」「えっ!? き、聞いてるよ!?」

陽一が笑う。

その時だった。


ガシャアアアン!!!!

窓の外からサッカーボールが一直線に飛び込んでくる。


ボールの軌道の先に居たのは――

「え」

智花。


誰も間に合わない。

そう思ったその時。


ピタ。


飛来していたサッカーボールが智花の目の前で“停止”していたのだ。


ボトッ。


何事もなかったみたいに床へ落ちる。

教室が静まりかえった。


「今のなんだよ……」「ボール今目の前で止まったよな……」


その横で、糸瀬優依は自分の手をぎゅっと握りしめていた。


キーンコーンカーンコーン

放課後のチャイムが鳴る。


帰路につく三人。


陽一はひとりでに興奮していた。

「頭が良すぎてついに超能力に目覚めちまった。とか!?」

「だから何遍も言わせないでよ、なんか、向かい風が急に吹いたんだって。本当だからね?」


「それこそお前『その説明は論理が破綻してます』だろ~」

「うっさいわねーてかアンタ部活はどうしたのよ。スポーツ推薦でしょ?仕事しなさいよ」


「あ?俺はもう引退したからいーんだよ」


陽一はそしらぬ顔でボールをつついている。


その横で、


(ちょっと急に出てこないでよ……唯)


優依の横には、自分にそっくりの存在がぬるりと出てくる。


『とっさだったんだ。大惨事にならなくてよかったろ』


(そうだけど……)


そう。私には隠し事がある。

数日前から私にだけ見える“もう一人の自分”。


『久遠唯』と名乗るその存在は、私の周りを動き回っている。

それを見て私は思う。


生き霊?それとも神様?社会のストレスが産んだ幻覚?


この生き霊は生前『便利屋ユイ』という会社を起業して人助けをしていたらしい。

お化けの言い分なので真偽は定かではないが。


(とにかく私は普通で居たいの!!)


『普通?普通は人を助けないものなのか?』


(そうじゃないけど……)


『……まあいいさ。間違いなくお前は出来る側だ。自分を卑下するな』


さっきの光景が頭に浮かぶ。


ボール。智花。勢いを増すボール。

(……止めた)


そして“久遠唯“最大の謎、

私の身体を介して超能力を発揮して助けてくれるという点だ。


「糸瀬?聞いてるか?」


「は、はひ!!」


我に返った優依。驚きすぎだろ!!と笑われてしまった。

一行は岐路にさしかかった。


そこで陽一が指さしたのは、いつもは通らない方の道。


「そーいやよ。この先だよな。都市伝説の洋館って」

「都市伝説?またそういう馬鹿なこと言って」


「違うんだって。本当に行方不明者とかも出てて、誰も近寄らねえらしいんだ」

「ふん。都市伝説なんて非科学的よ」


「じゃあよ。本当かどうか、賭けで行ってみねえか?」

「どうせ暇なだけでしょ」


「なんだよびびってんのか?」

「いいわよ、びびりな陽一くんのために行ってあげても」


口げんかも見慣れた光景だ。


「あ、糸瀬は怖かったら帰っても良いぞ」

「そうよ、こんなバカに付き合ってたら時間がいくら合っても足りないわ」


「あん?」


うんといって帰ろうとした。

だが、“久遠唯”が居る以上、不思議な事は確かに存在する。

去りゆく友人二人を見て、永遠に消えてしまうのではないかという恐れを感じた。


優依は掌を見る。何かあったとき、この力で二人を守れるかも知れない。そう思った。


「私も行くよ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


三人は廃墟の洋館の前に立つ。

門は経年劣化でギシギシと歪み、無駄に大きい外観がさらに不気味さを募らせている。


「……雰囲気は満点ね」


智花が冷静に言う。


「だろ?いかにも出そうな感じだろ?」


三人は足を踏み入れる。


奥は家具が散乱している。割れた窓ガラス、風化したテーブル。

いかにも廃墟という印象だった。


「……やっぱ何もねえかー。ゲームとは違うよな。ゾンビとか出ねーかなー」

「出るわけないでしょ。こんな所、来たって時間の無駄だわ、賭けは私の勝ちね。おら、アイス奢れ」

「えー」


その中で優依は何か異様な気配を感じ取っていた。

ざわっ、と森の奥が蠢く音。虫の鳴き声。動物の声。


それ以外に何かが聞こえる。

「……っ!!」


“久遠唯”の力の影響だろうか。五感がやたらと研ぎ澄まされている。

さらに外部の音の取り込みに意識を集中させる。


た、た、……。と言う音。

何かが聞こえたような気がする。

人の息づかいのような。静かだが確かに聞こえるような気がする。


優依はその方向に向かって走り出していた。


「糸瀬!?」


優依は地面に耳をそばだてる。


「……て!!」「た……!!」

――たすけて。

聞こえる。やはり人の声だ。

かすかだが、確実にこの下に人がいる。

しかしそこは荒れた雑草だらけの何の変哲も無い庭だった。


だが、明らかにここの下から声が聞こえる。


「何だよ、ビックリさせやがって。何もないじゃねえか、ははは……」

陽一は安堵の笑みを浮かべている。


「いや、」

智花はぽつりと呟きしゃがんでから、その場を探り始める。


「ここ、変よ。雑草の生え方が不自然」


ざっ、ざっ、

指先で地面を払う。


「ここだけ土が新しいもの」


そして、現れたのは、

土の下から覗く金属の輪。鍵が付いている。


「取っ手……?」


その最中、後ろから迫る影が一人。


『優依。気づいているか』

(うん)


茂みの影から、

獲物を狩る肉食獣のように背後から忍ぶ者がいる。

距離およそ五メートルほどだろうか。


手にはナイフ。生きては返さないつもりだろう。


一人でも殺せばそこに動揺が生じる。

視線が刺さる。空気が揺らめく。

犯人はターゲットを一番弱そうな私に定めたようだ。


背後に凶刃が迫る。


『今だ』


その刹那、

“唯”に接続する。


必要な動きが見える。まるで何度も練習してきたかのように、不安定だった動きに安心感が出る。

身体が異常に軽くなる。翼が生えたかのようだ。


私は少しだけ重心をずらす。ナイフの切っ先が脇の横を逸れる。

最小限の動きで振り向く。


犯人の驚いた表情が見える。


最小限の動きで振り向き、脳天に軽くノックをするように小突いた。


ぐらっ。

犯人は意識を失ったのか、力が一気に失われていく。


私はそれを支え二人にバレないようゆっくりと寝かせ、近くにあったゴミでとっさにカモフラージュ。


「どうした?そこにも何かあるのか?」


近づいてこようとする陽一。


「いや!?えっと、靴紐結んでるだけ。気にしないで?」


彼はそうかと言い、蓋を開ける道具を探しに行った。

一旦見えなくなった瞬間、この男を見えない場所まで運んだ。


ふう。どうにかバレずに済んだ。念のためツタで縛っておこう。こう、自然に……。

『手足の骨折っとけば?』

(いやいや!!そんなコトしたらバレるって!!)


こうして名も知れぬ犯人はツタでぐるぐる巻きになった。

まあそのうちお巡りさんが解いてくれるさ。それまで我慢してね。


ギギギギギ、ガコン!!

そして私達は隠された地下室の入り口がこじ開けられた。


「嘘だろ……」


開いた先にはたくさんの拘束された人達。


「ンン!!」「ンーー!!」


「やべえって!!ど、どうしよう智花!?」

「警察に電話。110番。」


流石学年一の才女。冷静な対応である。


ファンファンファンファンファン……。

その後、廃墟に殺到するのは、パトカーや救急車。

パトカーの赤色灯が夜の廃墟を染める。


「まさか本当に監禁事件とはな……、通報してくれて良かったよ」

「しかし君たち高校生だろ?ああいう場所に入るのは本来不法侵入だからな?」


「……すみません」


お巡りさんはため息をつく。

「まあ結果的に人命救助になった。ありがとな」


「ああ、それと陽一くん」

「近くで指名手配犯が気絶してたんだが、君が撃退したのか?」


「え?」


軽く叱られたのち、三人は解放された。

しばらく三人は無言だった。

陽一が堰を切るように口を開いた。


「……いや、マジでやばかったな」

「一歩間違えたら死んでたわね。私達」


去ってしまうあの感覚、あれは気のせいじゃなかった。

一緒に行ってよかったと優依は思った。


「しっかしよー、どうやって見つけたんだ?」


「何か、声が聞こえたから……?」


お茶を濁す優依。だがそれは嘘じゃない。

助けを求める声が確かに聞こえたのだ。鮮明に。


『聞こえない方が良かった、と思うか?』

(そうは言わないけど……)


もし私が力を持ってなかったら。

それとも私が普通で居ようとして声を無視してたらどうなってただろうか。


あの人達は助からなかったかも知れない。


「まあ、結果的に助かったんだし、良かったよな」


「……そうね」


優依は気づいたときには口にしていた。


「……あのさ!!都市伝説って、他にもあるんだよね!?」


珍しく大声を出す優依に驚く二人。


「お、おう。まああることにはあるかもしんねえけど」


「あり得なくはないわね」


「色んな人に噂聞いてさ、都市伝説とかの問題解決するの」


三人の間に一瞬静寂が走る。


「へ、へえ!!いいじゃんそれ!!青春の一ページっぽい!!」


「軽いのよ……まあ、やりたいことはだいたいわかったわ」

「うーん。そうしたら、情報が無いことには調査はできないから、色んな人に噂を聞かなきゃいけないわね、その過程でいろいろ悩みを解決することにもなるかも」


「それもうほぼ何でも屋だな」


「でも、悪くないわね」


「お、乗り気?」


「乗り気っていうか合理的。都市伝説調査部だと勝手にやってる感が出るけど、ボランティア部なら先生受けも良さそうだから申請通るかなって。内申にも良さそう」


「お前……どこまでも合理的だな」


呆れる陽一を尻目に、智花は指を折って考える。

「1、情報収集。2、危険度の判断。3、解決できる範囲なら対処」

「無茶はしない。これなら乗ってあげるわ」


「おお!!じゃあ結成だな!!じゃあ、名前は……」


私はその名前に心当たりがあった。


「じゃあ、『便利屋ユイ』がいいな」


「おお!!」「決まりね」


『ふふ』

その姿を遠巻きに見ながら唯は微笑む。


遥と二人で作った『便利屋ユイ』

それは、非公認の高校の部活として姿を変えるのであった。


続く


ここまで読んでいただきありがとうございます!!

前やった過去編と混乱するんですけど、例の惨劇前と言う設定なので、


基本的に能力を持つのは”優依だけ”です。



2025年初夏って現実でいったら未来だなぁ。過去編なのに未来。これいかに。

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