第十五話 災いもたらす女神
十五話を投稿します!!ここから新章突入です!!
『便利屋ユイ』
そこの主、久遠唯はいつものように遥のおしゃべりを横で聞きながらくつろいでいた。
始まりは小さな違和感だった。
「今日なんか私変な夢見たんです。文化祭の準備してる唯さんが出てきて……でも全然性格違くて、すぐ泣いちゃうし、あー可愛かったなー……」
「はあ……?」
また始まった。
最近遥は意味の分からない夢の報告をしてくる。
というか現実と夢の感覚が曖昧になっている気さえする。
ずいぶん前に閉店した店に行こうと言い始めたり、
知らないはずの私の高校時代の話までしてくる。
元から滅茶苦茶な事を言うやつだったかもしれないが、ここまでだったか?
ピリリリリリ……
着信音が静寂を裂いた。
「はい、便利屋ユイです。え?店主は私ですが……。はい」
「いくぞ遥」「はい!!」
車で30分。
そしてたどり着いたのは、東京郊外にある研究所。
「あれ、今日登校の日でしたっけ?」
「どう見ても研究所だろ」
「だってここ学校ですよね?そうにしか、あれ、研究所って書いてある」
なぜ知っている。縁もゆかりもないはずの遥が、ここがもともと学校だったと言うことを。
そしてここは私の母校。忌まわしき二十年前の惨劇があったあの場所だ。
現在は異界と繋がった経験のある重要施設として丁重に政府が匿っている。
もちろん一般人は立ち入り禁止だ。
「あれ!!お父さん!!どうしたの?こんなところで」
「待っていたぞ、遥。それから久遠唯。」
そこに立っていたのは、教授。
久遠唯を名付けた張本人。
ん?今なんか変なこと言わなかったか?
「遥は佐伯教授の娘なのか?」
「ああ。私の一人娘だ」
なるほど、『便利屋ユイ』独立の承認がやけにスムーズだったのも合点がいった。
「へえー!!やっぱ先生なんだね!!」
「まあ、そうとも言うか?」
遥にはここが学校にしか見えてないらしい。
「とりあえず着いてきたまえ」
カツンカツンカツン……
ある部屋を通り過ぎたとき、
遥がぽつりと言った。
「この辺はすこし嫌な感じですね……」
そこは私の教室があった場所だ。
まあ、惨劇が起きたのはこの教室を模した異界でだが。
やはり様子がおかしい。
一行はどんどん下へ降りていく。
うちの校舎は少し変わっていて、b1階から入れる少し特殊な通路があり、
そこが一つの地下室へと繋がっている。
なぜそんなものが存在するのか。
そんなことを考えていると……。
「お参りって今日でしたっけ!!」
遥がまたうわごとを言っている。
ああ……そうか。
ここはかつて礼拝堂だったんだ。
よくクラス行事でお参りとか掃除とかしたなぁ……。
などと考えていたら、背後から人影。
「やあ。久遠唯」
樒真白。研究所がらみの案件だ。やはりこいつもいるか。
唯はその男を極力考えずにやり過ごそうとした。
「なんだよ、そっけないな。一応、母校の同級生だろ?」
「クラス違うし」
「そう言うなって。覚えてるか?ここ礼拝堂だったんだぜ」
「今は見る影もないけどな」
「知ってる」
会話を終了させようとする私をよそに男は話し続ける。
「……能力っていうのはさ、願いに呼応するんだ。すばらしいものを創りたいとか、誰よりも強くなりたい、とかね」
真白は地下室を眺める。
「こういうものがあると、人の願いが伝わりやすいんだよ」
「加えて学校ってのは色んな人の、しかも不安定な若者達が集まる場所でもある」
「こんなニュースを知ってるかい?」
「とある宗教施設が一夜にして消えたニュースさ」
……!!
唯の脳裏にはテレビニュースと更地になっていた建物たち。
「まさか……」
「ああ。彼らは独自の方法で開いたんだ。現世と異界を繋ぐ地獄の門をね」
唯の瞳孔が開く。
異界との接続が私の知らないところでされていたのか?
「いやーやばかったよー。もう少しで世界が終わるところだった」
「で、どうなったんだ……!!その……」
「あー、全部壊した。見た奴らも関係者も皆殺しさ」
戦慄が走る。
この男は私とは根本的に考え方が違う。
助けたいとかそんな生やさしい考えではない。
ただの仕事だ。
何かの目的に対して、邪魔だったから排除した。
それだけなんだ。根本にあるものはやはり、憎しみか?
教授が口を開く。
「ああ。私達の研究で一連の能力事件の原因は“人の願い”が根本にあるということがわかった」
佐伯恒一郎はそう言いながら扉を開ける。
ギィイイイイイ……と言う音。
目の前には想像を絶する光景が拡がっていた。
「え、私……?」
その瞬間、どさっと倒れる遥。
「……遥!!しっかりしろ!!」
鎖で固められた黒い“何か“。
ベッドが無数に置かれている。
人、人、人。
同じ顔。同じ身体。
そこには大量の『遥』が存在していた。
「遥は私の娘ではない。私が出会ったあの黒い怪物が人のていを成した存在なのだ」
「嘘だろ……?遥が?」
初めて人を助けた日のことを思い出す。
忘れもしない。遥が黒い怪物に襲われていたんだ。
最初は違和感を感じた。なぜ?なぜ異界でしか見ないものを現世でみるのか。
そして彼女は“あれ“から受けた外傷は無かった。
あれは守ろうとしていたのか?本当の脅威は怪物ではなくもう一人いた中年の方だったのか?
というか“あれ“は遥の元にしか出てこなかったような気がする。
そして奇怪な能力者騒ぎ。全てこの街の人々が起こした騒ぎだ。
真白が口を開く。
「気づかなかったかい?」
「つまり。『佐伯遥』は教授の娘でも何でも無く、怪物が人の形を借りて成立した存在ってわけさ。君の周りでやたらと能力者が事件を起こしてたろ。」
「あれは彼女が願いを叶えていたんだ」
思考が追いつかない。……怪物の正体は遥?
「最近うわごとを呟くことがあるだろう?それは現世に異界の力が満ちてきたからだ。現実と異界の区別が付かなくなっているんだ」
「さあ、起動しろ。真白」
「はい」
「『複合発動』統」
ベッドの上の遥達は目を覚ます。
「彼女らはクローンだ」
「脳波を接続すると、ある座標に集まる」
オオオオオオオオオオ!!!!!
“あれ”が雄叫びを上げる。
怪物の腹が割ける。
バチッ……バチバチ……
「それがこの“学校“ってわけか」
「でも私はあの世界で千年生きた。今更探しても何かあるわけ……」
……!!
唯の脳裏には未来から来た少年を助けた記憶。
「タイムマシンは実在する……!!」
「そう、それが証明だ、あの日。あの転移の日に何かが起きた。それを調査してほしい」
唯は疑問を口に出した。
「それをすれば、遥は助かるのか?」
教授は考えてから、口を開いた。
「分からない。だが、異界を理解するということは遥を理解するということだ」
「共存の手立てもあるかもしれん」
言われるがままに来た場所には。
案内された際にあったのは、研究装置でも精密機械でもない。
車輪が付いた無骨な鉄の箱だった。
教授は静かに告げる。
「世界を救ってくれ、久遠唯」
続
ここまでお読みいただきありがとうございました。
いよいよ核心に迫る展開へと続いていきます。




