第2196話 過ぎ行く日々1(5)
「間違ってたら申し訳ないけど・・・・・・何か悩んでいるのかい?」
「っ・・・・・・何でですか?」
響斬は薄らと目を開け影人にチラリと視線を投げた。突然、響斬にそんな事を聞かれた影人は軽く驚きながらもそう聞き返す。
「これは僕の経験なんだけど、ジッと川を眺めてる奴ってのは大体悩みを抱えているもんだから。でも、その反応を見る限り当たってたみたいだね」
響斬は酒を傾け一口あおった。そして、こう言葉を続けた。
「だけど、君が悩むなんて珍しいな。君は僕が見て来た中でも最強のメンタルを持ってる人間の1人なのに」
「何ですか最強のメンタルって。俺は別に普通の高校生ですよ。いま自分が悩んでる・・・・・・かどうかは自分でも分かってませんが、人間なんですから人並みに色々思ったり考えたりはしますよ」
不本意というほどではないが、影人は軽く抗議するように響斬にそう言葉を返す。影人の言葉を聞いた響斬は「確かに」と頷いた。
「そうだったね。色々と特別な力を持ってるから勘違いしそうになるけど、君はただの人間だ。ごめん」
「いえ・・・・・・でも、そうですか。響斬さんの目には俺は悩んでいるように見えるんですね」
響斬の謝罪を受けた影人は呟くように言葉を述べる。そんな影人に響斬は一拍置いてこう尋ねる。
「違うのかい?」
「・・・・・・さっきも言いましたが分からないって感覚です。自分が悩んでいるのかも俺には分からない」
影人は正直に響斬に自分の状況を吐露した。響斬はゆっくりと影人の言葉に共感するように頷いた。
「そっか・・・・・・分かるよ。そういう時ってあるよね。僕もそういう感覚はしょっちゅうあった。いや、今もあるよ」
「・・・・・・響斬さんはそういう時はどうするんですか?」
「大体2つかな。1つ目は酒をしこたま呑む。それで忘れる。でも、この方法はあんまりお勧めしないよ。二日酔いで死にそうになるからね」
「それはそうですね・・・・・・というか、闇人に二日酔いとかあるんですか」
「それがあるんだよね。なぜか。まあでも、人間時代よりは全然マシだけどね」
「そうですか・・・・・・それで、もう1つの方法は?」
影人が響斬に尋ねる。響斬はもったいぶった様子もなく口を開いた。
「そっちは実用的だぜ。僕もよくやるし、何ならここでも出来る。もう1つの方法は――」
「――瞑想だ」
響斬がその方法を述べる前にどこからかそんな言葉が響いた。男の声だ。声は後方から聞こえたような気がした。影人と響斬、ついでに零無が振り返る。
影人たちが振り返った先、堤防の上に1人の男の姿があった。黒色の道士服を纏い、長い髪は三つ編みに纏められている。影人と響斬は驚いた様子でその男の名を呼んだ。
「冥・・・・・・」
「冥くん・・・・・・」
堤防の上にいた男は響斬と同じ闇人、『十闇』第6の闇、『狂拳』の冥だった。




