第2195話 過ぎ行く日々1(4)
「影人〜!」
ぶらぶらと変わらずに影人が当てもなく心の赴くままに歩いてると、聞き覚えのある声が影人の耳を打った。見ずとも分かる。影人に声を掛けてきたのは零無であった。
「今日はどうしたんだい? いつもの帰り道にお前の反応がなかったから、お前の反応を追って来たが・・・・・・どこか寄る所でもあるのかい?」
「・・・・・・別に。ただ、ふらつきたい気分だっただけだ」
零無の問いかけに影人はそう答える。零無は「ふむ?」と一瞬何か違和感を感じたかの様に顎に手を当てたが、やがて顎から手を離した。
「そうか。まあ、そういう日もあるだろう。ではお散歩デートと行こう」
「ふざけろよ。誰がお前とデートなんかするか」
ニコニコと笑う零無に否定の言葉を返しながら影人は放課後の街を歩く。当然ながら零無も霊体状態で影人に続く。
「・・・・・・」
あてもなく歩いている内に影人は河川敷へと辿り着いた。影人は何とはなしに堤防の下に降りるとベンチに腰を下ろした。
「川原で愛する者と共にベンチに座る・・・・・・うん。これもいい。吾は幸せだよ影人」
「お前は逆に幸せじゃない時があるのかよ・・・・・・」
うっとりとした顔を浮かべる零無に影人は呆れた顔になる。自惚れるわけではないが、幽霊となって影人に憑き始めた頃から零無は常に幸せそうだ。お気楽な奴。色々と考え込んでいる影人は、どこか八つ当たり気味にそう思った。
「――ん? もしかして帰城くん?」
影人が零無と共にぼーっと川を見つめていると、背後から声が掛けられた。
「っ、響斬さん?」
影人が振り返ると、そこにはジャージ姿の、ボサボサの黒髪に糸目が特徴の青年がいた。いや、正確には青年の見た目をしていると言った方が正しいか。響斬はレイゼロールの眷属である闇人。又の名を『十闇』第7の闇『剣鬼』の響斬という。影人は響斬が人ならざる者だと知っていた。
「やあ、奇遇だね。どうしたんだい。1人で川なんて見つめてさ」
響斬は気さくな様子で影人に軽く手を振ってきた。響斬は影人の父親である影仁を居候させてくれている。影人も日奈美から影仁の様子を見てくるようにと言われ、週に1回くらいのペースで響斬宅を訪れるので、響斬とはすっかり顔馴染みだった。
「なんだ闇人か。ちっ、吾と影人との川原デートを邪魔しやがって」
響斬の姿を見た零無は露骨に嫌そうな顔で舌打ちをする。だが、今の零無は幽霊状態で響斬に波長も合わせていないので、響斬に零無の声は聞こえなかった。
「あ、その・・・・・・別に理由はなくて。ただ、ふらついてる内に気づいたらここにいて川を眺めてたって感じです。響斬さんは何でここに?」
「習慣、じゃないけどぼかぁたまにここで川を見ながら一杯やるんだ。隣、いいかい?」
「どうぞ」
響斬はジャージのポケットからワンカップの酒を取り出した。そして、響斬は影人の横に腰を下ろした。影人の隣には零無が座っていたが、今の零無は霊体なので肉体がない。結果、響斬は零無に干渉せずに普通に座る事が出来た。その代わり、響斬と重なった零無は不機嫌極まりない様子で「ちっ!」とベンチから離れ、呪い殺すような目で響斬をジッと睨みつけた。全く以て恐ろしい限りだ。もしも響斬が今の零無を見たら震え上がるだろう。
「ぷはっ。うん。やっぱりいいな。酒の美味さと川の流れは昔から変わらない」
蓋を取り酒を飲んだ響斬がそんな感想を漏らす。そう言えば、見た目からは想像できないが響斬は平安時代から生きている人物だ。影人は響斬の言葉に説得力を感じた。




