第2194話 過ぎ行く日々1(3)
「・・・・・・でも、あいつらが、俺の知り合いの卒業後の行き先はほとんどが近くの大学だぜ。ここから全然遠くない。街を歩いてりゃ顔を合わせる事もしょっちゅうだろう。つまり、今とほとんど変わらない。だから・・・・・・寂しさなんて、やっぱりないはずだぜ」
影人はそれでも無意識に自分が寂しいなんて事を認めたくなくて。理屈を捏ねて影人はそう言葉を絞り出した。影人は自覚していなかった。その言葉が暗に寂しいという事実を認めているという事を。
「寂しさって物理的でもあるんですよ。というか、多くの場合はそうです。毎日この場所にいた人たちがいなくなる。それが知り合いや元同級生の方たちなら尚更です。だから、寂しいって思うのは当たり前の事で何にも恥ずかしくないんですよ」
「・・・・・・そう、なのかもな」
結局、また言葉が出て来なかった影人は海公にそう言葉を返すしかなかった。
「寂しい、か・・・・・・」
放課後。学校を出た影人は帰路に着くわけでもなく、何となく道を歩いていた。海公は用事があるからと先に帰ったので、影人は今1人だ。だからだろうか、影人は昼間に海公に言われた言葉を思い出した。
(・・・・・・俺は本当はそう思ってるのか? あいつらが卒業して寂しいって。俺の日常の中からあいつらがいなくなる事が・・・・・・いや、完全にいなくなるわけじゃない。正確には薄れる、か。俺の日常という名のキャンバスからあいつらっていう色が薄れる。そっちの方がしっくり来るな)
後半は少し思考がズレた気もするが、己に問いかけた事は変わらない。今の3年生たち、特に陽華、明夜、イズ、暁理、光司、A、B、C、D、E、Fといった者たちが卒業していく事に自分は寂寥を感じているのか。
(・・・・・・少なくとも、俺は全くそんな事は感じてないつもりだ。俺は孤高で孤独な一匹狼。それが帰城影人って人間だ)
そう。それだけは間違いない。別に、影人は無理やり己を型に当て嵌めているわけでも、自己暗示をしているわけではない。ただ、それが自然な自分だと分かっているのだ。我々はここに前髪野郎が真性の厨二病患者であるという事実を見るのであるが、前髪は本物のアレな奴なので当然そんな事には気が付かない。
『だが、あの女男に言われた事が気になってるからお前はぐちぐち悩んでんだろ。くくっ、1回認めてみろよ。格好をつけてるが、実は僕ちゃんは寂しいよー、置いてかないでよーってよ』
「・・・・・・ふざけんな。そんな事を言うくらいならもう1回死んだ方がマシだ」
明確に自分をバカにしてきたイヴに、影人はどこか不貞腐れたように声を漏らす。すると、イヴとは違う声が影人の中に響いた。
『お1人を好んでいたご主人様の中に生じた一抹の寂しさ。その寂しさの要因は、ご主人様のかつての同級生たち・・・・・・ううっ、エモエモでございますね。感動でございます』
「どこがだよ・・・・・・」
声の主はナナシレであった。ナナシレはなぜか涙ぐんだ様な声だったので、影人は呆れと困惑が混じったようにそう呟いた。




