第2191話 バレンタイン恋騒劇17(6)
「や、やっと家に着いた・・・・・・」
自宅に帰って来た影人は玄関にバレンタインのお菓子が入った袋を置いた。この袋が重かった。入っているお菓子の数的に重くなるのは仕方ない事だが、疲れ切った体で学校の鞄と一緒に持つ事で、袋は実際の重さよりも重く感じられた。
「た、ただいまー・・・・・・」
バレンタインのお菓子の入った袋を自分の部屋に置いた影人はリビングに向かった。ついでに零無も部屋で待機するように置いて来た。理由は単純でうるさいからである。
「おかえり。どうしたのあんた。凄い疲れてるみたいだけど」
「・・・・・・遅」
リビングでは既に夕食を終えたのか寛いでる日奈美と穂乃影の姿があった。日奈美は雑誌を、穂乃影はスマホを手にしていた。
「ちょっと予想外のハプニングに巻き込まれてさ・・・・・・実際凄い疲れてるんだよ」
「なにそれ。まあどうでもいいわ。ご飯できてるから、さっさと食べちゃいなさい。今日は豚生よ」
「ありがと」
影人は日奈美に感謝の言葉を伝えると、キッチンで手を洗い、コップにお茶を入れ、食卓に着いた。ちなみに、日奈美が言った豚生は豚の生姜焼きの略だ。影人は手を合わせると白飯に箸を入れた。
(ようやっとゆっくり出来るぜ・・・・・・)
白飯の美味さを噛み締めながら影人は内心でそう言葉を漏らす。現在の時刻は午後7時過ぎ。影人が陽華たちと共に「しえら」を訪れたのは午後4時くらいだったので、約3時間の時が経過していた。結構な時間といえば時間だが、影人には「しえら」にいた時間がそれよりも長く、凄く長く感じられた。具体的には17話分、2ヶ月ほど。よく分からないが、唐突に影人の中にそんな数字が浮かんできた。
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終えた影人は手を合わせると、食器をシンクまで運んで洗った。そして、影人は部屋に戻ろうとした。影人は今から食後のデザートにバレンタインのお菓子をいくつか片付けなければならない。全て食べ終えるのに何日かかる事か、虫歯にならなきゃいいけどと思いながら影人が部屋へ向かおうとすると、穂乃影が声を掛けてきた。
「・・・・・・ちょっと待って」
「ん? どうした穂乃影?」
影人が穂乃影にそう聞き返す。日奈美はコンビニに出かけているので、リビングにいるのは影人と穂乃影の2人だけだった。
「・・・・・・ん」
穂乃影はポケットから何かを取り出すと、影人の方に向かってそれを投げて来た。影人は反射的にそれをキャッチした。
「おっと・・・・・・」
影人は穂乃影が投げて来た物に視線を向けた。そこにあったのは見覚えのある四角い小さなチョコだった。コンビニになどでよく見かける安価なチョコ、チ◯ルチョコである。
「これ・・・・・・」
「・・・・・・朝うるさかったから一応買って来ただけ。言っとくけど、ホワイトデーの返しとかは別にいらないから」
驚く影人に穂乃影はふいと顔を背けながらそう言った。影人はプルプルと感動から震えた。
「ほ、穂乃影ぁぁぁ! ありがとう! 本当ありがとうな! 正直今日1番嬉しいぜ! ホワイトデーは絶対何かいい物返してやるからな!」
「いや、だからいらないって・・・・・・というか、泣いてるの? チ◯ルチョコで? キモっ・・・・・・」
その場で感涙を流したシスコンキモキモ前髪野郎に穂乃影はドン引きした。
――長く騒がしいバレンタイン劇はこうして幕を下ろした。




