第1299話 封じていた過去(1)
「・・・・・・どうやら、奴は完全に去ったようだな」
ポツリとそう言葉を漏らしたのは、レイゼロールだった。レイゼロールは『終焉』の力を解除し、臨戦態勢を解いた。
「ええ。あの女の気配は何故だか覚えられなかったから確実とは言えないけれど、少なくともこの場所を基点に張られていた2つの結界は消えているわ。大丈夫と言っていいでしょう」
レイゼロールの言葉にシェルディアが頷く。シェルディアも真祖化を解除し、戦いへの緊張を解いた。
「さて、ならば・・・・・・」
取り敢えず、安全を確認したレイゼロールは、その顔を影人へと向けた。そして、レイゼロールは影人にこう言った。
「影人、色々と聞かせてもらおうか。お前が今までどうしていたのかを」
「全部ちゃんと教えてね。嘘をつこうとしたり、誤魔化そうとしたりしたら、本当に怒るから」
「うっ・・・・・・」
レイゼロールとシェルディアにジッと見つめられた影人は、困ったような顔を浮かべた。
(や、やべえ・・・・・・正直に言ったら、すっげえ怒られる気がする・・・・・・でも、嘘ついたり誤魔化したりしても怒られるし・・・・・・ど、どうする俺・・・・・・)
一難去ってまた一難。影人は軽く冷や汗を流しながら、どうするべきなのか迷った。レイゼロールとシェルディアは怒ればきっと恐い。そして怒られたくないのが人心というもの。ゆえに、影人は怒られない方法がないか必死で考えた。
「・・・・・・帰城影人。お話の途中で悪いですが、あなたに話があります。よろしいですか?」
そんな時、シトュウが影人に話しかけて来た。影人からすれば渡りに船。そんなタイミングだ。影人はシトュウの方に顔を向けた。
「あ、ああ。実は俺もあんたに色々と聞きたい事があるんだ。って事で、俺の話は後って事で。本当、悪い!」
影人はレイゼロールとシェルディアにそう言って軽く手を合わせると、シトュウの方に歩いて行った。
「・・・・・・逃げたな」
「ええ、逃げたわね」
そんな影人の後ろ姿を見て、レイゼロールとシェルディアは2人揃ってそう言葉を呟いた。あれは明らかに、自分たちと話をしたくなかった態度だ。
「・・・・・・まあ、いい。影人からは後でじっくりと話を聞くとしよう。次は逃がさん」
「その時は当然私も同席するわ。でも、今はなにより・・・・・・」
シェルディアは心の底から安堵したような、それでいて嬉しそうな顔で笑みを浮かべ、
「また影人に会えて、本当によかったわ・・・・・・」
そう言葉を続けた。うっすらとその両目に涙を滲ませながら。自分がなぜ、最も大切な人間である影人を忘れていたのかは分からない。おそらく、先程の透明の瞳の女と関係はあるのだろうが、正確な事は、やはり今のシェルディアには分からない。
それでも、約3ヶ月ぶりに影人と出会えたという事実。シェルディアはその事実に感謝し、また心の底から嬉しかった。
「・・・・・・ああ、そうだな」
ふっと暖かな笑みを浮かべながら、レイゼロールはシェルディアの呟きに同意した。また影人と会えた。過去に2度と影人と会えないと思っていたレイゼロールからしてみれば、シェルディアの言葉は充分以上に共感できるものだった。




