第1296話 闇の女神と吸血鬼との再会(2)
「おいおい、本当に吾とやる気かよ。愚か者ここに極まれりだな。まあ見たところ、お前たちはそれなりの実力がある。吾に挑まんとする事は理解出来んでもないが、正直・・・・・・」
零無は少し呆れたような顔になると、次の瞬間、自身の抑えていた重圧を半分ほど解放した。
「面倒くせえんだよ。お前らと戦うのは。なぜ、吾がお前らのような矮小で下賤な存在と戦わなければならない? 驕り高ぶっているのはどちらだ。一部を除き、基本的に全ての存在は吾の下だ。そんな存在が、いったい何様のつもりだ?」
途端、零無からこの世を押し潰さんと錯覚するほどの重圧と恐怖が放たれた。その重圧と恐怖は、もし通常の人間が受ければ、地面にへばり付き発狂する程だろう。かつて、イヴは影人の心の奥底で零無の魂の一部と出会った。その時、イヴは凄まじい恐怖を覚えた。だが、いま零無本体が放った重圧と恐怖はそれとは比べ物にならなかった。
「「っ!?」」
零無の解放された重圧と、最上位存在である事から発生する恐怖。それを身に受けたレイゼロールとシェルディアは、反射的にその体を震わせた。本能に、魂で理解させられる。目の前の女が、いかに尋常ならざる存在か。関わってはいけない存在か。レイゼロールとシェルディアは、彼女たちには非常に珍しい事に恐怖していた。
(何だ、何だというのだこいつは・・・・・・! 我が恐怖しているだと・・・・・・!? 全ての力と『終焉』の力を取り戻した我が・・・・・・!)
(純粋な生物としての恐怖・・・・・・私は今それを叩き付けられている。この私が・・・・・・こんな事は初めてだわ・・・・・・!)
零無の放った重圧と恐怖から、レイゼロールとシェルディアが放っていた闘気と殺気が削がれていく。重圧と恐怖を解放した零無を前にして喚かずにいられる。本来なら、それだけで尋常ではない事だ。だがしかし、2人は確実に零無という存在に呑まれ始めていた。
「・・・・・・あいつが怖いのはよく分かる。だけど、大丈夫だ。ゆっくり落ち着くんだ。レイゼロール、嬢ちゃん。落ち着けば、恐怖は和らいでいくから」
だが、恐怖に呑まれゆく2人にそう声を掛けてくる人物がいた。影人だ。影人はしっかりとした確かな声でそう言って、レイゼロールとシェルディア、それぞれ2人の手を握った。
「「あ・・・・・・」」
影人の手の温もり。それを感じたレイゼロールとシェルディアは、不思議な事に恐怖が消えていくのを感じた。そして、2人は小さな笑みを浮かべた。
「ふっ、そうだな。我が恐怖するなど柄ではない。もう我は孤独ではない。重圧や恐怖になど屈するものか」
「そうね。あなたがいてくれるのなら、私は何でも出来る。どこまでも、私のままでいられるわ。ふふっ、ありがとうね影人」
レイゼロールとシェルディアは影人の温もりを感じた事で、完全に零無の重圧と恐怖を克服した。2人の言葉を聞いた影人は少し口角を上げた。
「よし、もう大丈夫そうだな」
影人はそう言うと、握っていた2人の手を離した。その光景を見ていた零無は、つまらなさそうにこう言葉を述べる。
「おいおい影人。せっかく楽できそうだったのに、邪魔をするなよ。そのせいで、そいつら元通りじゃないか。後、吾以外の存在と手を繋ぐな。苛立って仕方ない」
「黙れよ。てめえの苛立ちなんか知るか。早く死ねよ」
既に零無の恐怖を克服している影人は、呪うが如くそう言葉を吐き捨てる。ここまで嫌悪に満ちた影人の声を聞いた事がなかったレイゼロールとシェルディアは、少し驚いていた。




