第1269話 変身ヒロインを影から助けた者(3)
「久しぶりにスプリガンの仕事以外でサボタージュしたが・・・・・やっぱりいいもんだな」
午後2時過ぎ。影人は自分たちが住んでいる町を見下ろせる、高台にある小さな公園の柵にもたれ掛かりながらそう呟いた。影人は昼休みから学校をサボっていた。1時間ほど街をぶらついて買い食いしたりして、密かに気に入っているこの公園に来たのだった。
「にしても・・・・・ああ、いい天気だ。よく言うよな、死ぬにはいい日だって・・・・・今日がそんな日なのかね」
晴れ渡る冬の青空を見上げながら、どこか黄昏れたように影人は言葉を漏らす。すると同時に、朝学校で影人の右手から出たのと同じ、黒い粒子が1つ、2つと、影人の体から出て空に浮かび上がっていった。
「・・・・・・・・・・」
自分の体から出て行く黒い粒子を、影人は何の感慨もなく見つめた。影人はその粒子がどのような意味を持っているか知っている。だが、それでも影人の表情が変わる事はない。既に自分は覚悟が出来ている。影人がそんな事を思っている間にも、体から出て行く粒子の量は少しづつ増えていく。
「・・・・・あばよ。何だかんだ、楽しかったぜ。この世界・・・・・」
影人がどこか悟ったような声でそう呟いた時だった。突然、
「――影人」
後方から自分を呼ぶ女の声が聞こえて来た。
「・・・・・・・・・いきなり何の用だよ、ソレイユ」
自分を呼ぶその人物に、影人は振り返らずにそう言葉を返した。何度も自分の中に響いていた声だ。振り返らずとも誰だか分かる。
「いえ、実はお伝えしたい事があったので、あなたの気配を探って地上に降りて来たのですが・・・・・こんな所でいったい何をしているんですか?」
「ちょっと学校サボタージュして、のんびりしてたところだ。で、伝えたい事って何だよ?」
影人はそう答えを返しながら、ソレイユの方に振り向いた。今や闇奴や闇人が発生する事はない。だから、ソレイユも気軽に地上に降りてくる事が出来る。ソレイユは、自分の髪の色と同じ桜色のワンピースを着ていた。一瞬、この時期に寒くないのかと思ったが、まあどうでもいいかと影人はそれ以上深くは考えなかった。
「サボタージュって不良ですね・・・・・」
「たまにくらいならいいだろ別に。で、用は?」
少し呆れたような表情のソレイユに、影人はそう言葉を返し促した。
「用というよりかは提案なのですが・・・・・影人、明日の夜は空いていますか? もし空いていれば、私とラルバとレールで食事会でもしようと思いまして。ほら、あの時のように。ラルバは詰めてボコボコ・・・・・いえ、しっかり反省させましたから。きっと楽しい――」
ソレイユはそこで、影人の体から無数の黒い粒子が出ている事に気がついた。そして、なぜだろうか。徐々に影人の姿が透明に、薄くなってきているようにソレイユには見えた。
「え、影人・・・・・・・・? そ、その光はいったい何なのですか・・・・?」
その光景を見たソレイユが意味が分からないといった顔を浮かべた。
「ああ、これか? まあ、一言で言えば、俺という存在が消えて行く、死ぬ過程だな。あとちょいで俺はまた死ぬわけだ。2度目の死ってやつだな。だから悪い。食事会は行けねえ」
ソレイユのその問いかけに、影人は何でもないようにそう言った。そして、少し悪びれた様子でソレイユの誘いを断った。




