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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1003/2165

第1003話 カケラ争奪戦 イタリア4(4)

(っ、さっきは迷っちまったが・・・・・・どうする、ソレイユ?)

 一方の影人は今度は冷静に念話でソレイユにそう尋ねた。影人のこの冷酷にも見えるかのような冷静さは、あと数十秒はファレルナが死なないだろうと仮定してのものだ。その間くらいならば、ソレイユの決定意見を聞く事が出来る。

(聖女サマを助けるか、酷な言い方になるが見殺すか。決めろ、ソレイユ。俺はお前の決定に従う。・・・・辛いとは思うが、これは俺1人で決めきれる事じゃない)

 影人は既に覚悟を決めていた。ファレルナを助ける覚悟も、見捨てる覚悟も。きっと、物語の主人公ならばここは迷わずにファレルナを助けに行くだろう。しかし、帰城影人という少年はそうではない。こういった場面でこう聞けるだけの冷静さ、いやいっそ冷徹と言ってもいい冷たさを持っている人間だ。ただ、その冷静さの裏にあるのは、ここに至るまでのソレイユの思いを理解しているという背景がある。見方によれば、影人は何千年単位でのソレイユの思いを尊重しているとも言えた。

『っ、わ、私は・・・・・・・・』

 影人からそう聞かれたソレイユの声は震えていた。まあ無理もないだろう。ソレイユは今、光導姫の命と自身の目的を天秤に掛けているのだから。

「かはっ、げほっ・・・・あ・・・・・・」

 そんな間にも、ファレルナは首を絞められ死へと向かっている。黒いヒビも、今や握られた首を基点に、顔や胴体にまで広がっている。もう時間は残されてはいない。

(時間がない。決めろ、ソレイユ!)

『今まで私の勝手な目的のために、何人もの光導姫が戦いに散っていきました。それでも私はレールを救いたかった。ここでファレルナを助ければ、その目的から遠のいてしまう。・・・・・・・・でも、それでも、例え偽善であってでも! 救える命があるのなら、私は見捨てたくはない!』

 ソレイユは自分の思いを迸らせた。そして、ソレイユは影人にこう言った。

『影人、ファレルナを助けてください! それが私の決断です!』

(あいよ。分かったぜ・・・・!)

 ソレイユのその言葉に影人は少しだけ口角を上げた。それがソレイユの判断ならば、影人はそれに従う。

 既に残された時間は少ない。早くファレルナを助けなければならない。影人はファレルナを救うべく詠唱を始めようとした。ファレルナの光が弱まっているといっても、闇の力はまだ弱体化しているからだ。

「『破壊』の闇よ――」

 ボソリと影人が言葉を紡ごうとする。これから影人はレイゼロールサイドに反逆する。協力してくれたシェルディアには本当に申し訳ないが、それがソレイユの判断だ。

 影人は静かに反逆の狼煙を上げようとしたが、しかし結果を言うのならば、その狼煙は上がらなかった。

「こ・・・・こんな・・・・・わ、私・・・でも・・・・ま・・・・まだ・・・・死ね・・・・ない・・・ん・・・です・・・・!」

 ファレルナがそんな声を絞り出した。その赤みがかった茶色の瞳には、死への恐怖でなく生への渇望、生きる事への覚悟があった。それは生きることを諦めないという正の感情。そして、その感情の強さは凄まじいものであった。

 その正の感情を糧として、ファレルナの背後の光は強く強く輝いた。先ほどの最大浄化技並みか、それすら超えるような輝きを、光は放っていた。

「っ、まだこれだけの輝きを・・・・・」

 至近距離からその光を浴びたゼノが苦しげにそう声を漏らす。その尋常ではない光は、ゼノの偽腕の喰らう力の許容量を超え、一時的にだが偽腕を構成する闇を霧散させた。

 その結果、ファレルナは偽腕から解放され、地面へと崩れ落ちた。

「けほっ、けほっ、けほっ! はあ、はあ・・・・!」

「ちっ・・・・・・」

 絞首の苦しみから解放されたファレルナが空気を求め喘ぐ。全てを喰らう闇の偽腕が一時的に形を失う程の浄化の光を浴びたゼノは、反射的にファレルナから距離を取った。

(マジか。あの状況から自分の力だけで・・・・・1位は伊達じゃないな・・・・)

 ファレルナを助けようとしていた影人は、詠唱をキャンセルし内心でそう呟いた。ファレルナの底力のおかげで、影人はまだレイゼロールサイドに留まる事が出来た。

「っ、流石だな・・・・・」

(ほっ、取り敢えずはよかったぜ)

 エリアと壮司もそれぞれ反応を示した。2人とも、ファレルナの無事に安心していた。

「・・・・・まいったな。2度も殺し損なった。不甲斐ないな・・・・・・・」

 ファレルナから距離を取ったゼノはため息を吐いた。偽腕は既に形を取り戻している。形が崩れ霧散したのはあくまで一時的なものだった。

「神よ、私がいま生きている事に感謝いたします・・・・・」

 息が整ったファレルナは、立ち上がるとまず最初にそんな言葉を口にした。ファレルナが感謝した相手はソレイユではなく、ファレルナの信仰上の神だ。その信仰心こそが、ファレルナの根幹の1つであった。

「・・・・どうやら、私にはまだ覚悟が足りなかったようです。あなたを必ず浄化するという覚悟が。だから、私は死の淵に沈みかけたのでしょう。そんな私に神は手を差し伸べてくださった。今度こそ、私は覚悟を決めてみせます!」

 ファレルナがそう叫ぶと、ファレルナに透き通るような純白のオーラのようなものが纏われた。そのオーラが纏われると同時に、ファレルナの周囲の空間に厳かな光が発せられ煌めいた。

(っ、まさか・・・・・・やる気か・・・・!?)

 その前兆を影人は知っていた。いや、影人だけではない。ここにいる者は全て、守護者であるエリアも壮司も、長年光導姫と戦って来たレイゼロールやゼノもそれを知っていた。

「出すかい、それを」

 ファレルナと対峙しているゼノがボソリとそう呟く。その次の瞬間、ファレルナはこう言葉を唱えた。

「私は光を臨みます。力の全てを解放し、闇を浄化する力を」

 そして、


「光臨」


 最強の光導姫はその言葉を世界に放った。

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