二十五話・改変者
【T市・廃墟街】──本隊side──
『いざ尋常に───。』
クロスと名乗る“罰印”の管理者はそう言って両手の十字架の武器を交差させる。
「柴野ォ!サポートは任せたッ!」
「…はッはい!」
加賀の言葉に柴野が呼応すると、加賀自身は腰に納刀していた大きな<斬撃型>を取り出す。
そしてそれを取り出したその瞬間、すでに右側からはイグニスの背後にいるナノに対して走り向かう城戸、左からはクロスに攻撃を仕掛けんとする部隊が展開していた───。
「…ッ!」
その刹那…柴野は何かを感じ取っていた。
そう、かつてのマインドウォーカーである“如月”の心を。
だがその心は深い闇に覆われたただの抜け殻のようにも感じ取れたのだ。
◇◆◇
【T市・教会監獄】
「……。」
「…?」
髪を後ろに纏め、スーツを着た如月のような女がナノの目の前に立っていた。
一方のナノは首を傾げながら女の方を見て、不思議そうにしている。
「…スベテ…ヲ…。ギーベルサマノ…タメ二…。」
如月らしき人物は両腕を空高く上げ、眼に空虚を浮かべる。
そして躊躇するかのように唇を震わせている。
「ワタシ…ノ…セイ…。」
「へッ…なんてこった。」
その姿を目にしたイグニスは驚く。
聞いていた“計画”の順序とは全く違うのだから。
…そしてその如月らしき者の後ろから誰かが歩いてくる。
「…やっと見つかった。ギーベル様を降臨させる者が…。」
白髪に黒髪交じりの男“ホロス”の姿が───。
「パペットロスト───いや…俺の配下として…“改変者”の意味を持つ“チェンジ”と名付ける。」
そう言い放った時、如月らしき者の長かった髪が短くなり、マインドウォーカーの専用スーツに黒く輝く泡が現れ、そのまま教会の黒いコートに変わる。
…そして首元に“不死鳥”の様な赤い模様が刻まれていく───。
「…私の名前は…“チェンジ”…?」
「あぁ…お前の名だ。チェンジ。お前は“あの方”を呼び戻せ…。この世界に。」
ホロスはそう言うと、チェンジの目が黒色に覆われ始める。
「【時操】…滅…。」
チェンジが目を閉じると、その目の前に小さく黒い渦が現れる。
「ホロスッ!!お前ッ何を──」
イグニスはホロスに対して言葉を発する。
しかしその言葉はホロスには届くことは無く、チェンジから発生した辺りを大きく取り巻く黒い球体の渦が周りを巻き込んでいく。
「なッ!?クソッこんなところでッ!」
まず城戸が渦に巻き込まれ、吸い込まれそうになる。
「待ってろッ!!今俺様がッ」
加賀は城戸を助けようと身を投げ出そうする。
だがその行動をさせまいと冷泉が先に身を乗り出していた。
「……ッ!!」
冷泉は三人に分かれ、それぞれの体が城戸を助けんと動き出す。
その際、ホロスは涼しげな顔で事を進めていた。
「これで俺の野望が果たされる。全てを…無に帰してやる。」
ホロスがそう呟く。
その言葉に対し、イグニスが言葉を返す。少しの怒りを乗せて。
「野望ねぇ。計画ってのは“こういう事”か?」
「何か不満か?」
「いいや。不満じゃねぇよ…ただ。」
イグニスは拳を握る。
「ちったぁ仕事が速すぎねぇか?“あの方”を蘇らせるのは俺ら四帝会議で決めてから──」
「そんな鈍間共に足並み揃えていればいつか我々は滅ぼされる。」
「……。」
「あと…人間と共存する未来など思い描くな。お前の様な半端なロストがいるからそれに影響されるバカなエゴロストが生まれる。あのライザのようなバカをな。」
「…分かんねぇだろ。まだ。アイツらと上手くいくかもしれ──」
「ギーベル様の教えを忘れたか。“我々は感情を持ってはいけない”だ。」
イグニスはその言葉に一旦静止し、答える。
「『感情を持ってはいけない』ねぇ…。あぁそうかよ。ならお前は、仲間が死んでも何も思わないのかよ。」
「あぁ。今回の戦いで一人消えた。そう、“感情を持ったまま”消えたそうだ。なんとも最期にしては無様な消え方だ。」
「へー、そうかい。」
「まさかとは思うが、人間に同情している訳ではないだろう?」
「……んなワケ。」
イグニスは呆れるようにその場から帰る素振りをし、配下のクロスに手でサインをする。
「…こんなの意味ないっての。」
イグニスはそう呟いた。
誰にも聞こえない小さな声で。
◇◆◇
「……帰還命令か。」
クロスはイグニスが出した合図を見ると、イグニスに向かって走り出す。
「逃げやがったな、追いかけ…いやここは仲間の救援が先かッ。」
加賀は追いかけるのをやめ、城戸の救護に向かおうと振り向く。
…がそこには赤眼の男が目の前に立っていた。
その男はニヤリと笑うと、右脚を振り上げ、顎に目掛け蹴り上げる。
「ぐッ!?」
加賀は宙に舞い、背を地に付きそうになる前に、腹に目掛け赤眼の男が左脚で蹴りを二発目を食らわす。
加賀自身の体はそのまま壁に突っ込み、背中が壁に埋まってしまう。
「へッ。俺様の体をそんな簡単にッ───」
その直後、赤眼の男はもう一度、腹に目掛け思いきり蹴りを入れる。
そしてその後、加賀の首を掴み、赤く燃え盛る右手を顔の目の前に近づけていく。
「ッ!!」
「ふふふ…ッ。あの男は何処ですか?」
加賀は蹴りを入れられたが、力を振り絞って声に出す。
「…あの男ッ?」
「…影山奏。何処ですか?」
「へッ───」
加賀は壁に埋もれている体を思いきり引き離し、右手を大きく振りかぶる。
そしてその右手は赤眼の男の顔目掛け、放たれる。
「──知らねえェなぁ!!」
「…ッ!」
その右手は見事面前には到達した。
ただそれきりで攻撃は直撃はしなかったのだ──。
「…さすがはアンチロスト。ただ───甘いですよ。」
赤眼の男は炎を纏う右手で、腹を貫いた。
「………。」
「…ふ…ふふふ。ホロス…様。私はやりました。ふふふ…ははは…ッ。」
──だが、アンチロストはまだ息をしていた。
「…勝った気でいんのか?」
「……は?」
加賀は首を絞めている赤眼の男の左腕を持前の怪力で引きはがし、動けなくする。
「……俺様は…ッ。負けねぇッ!」
「…いやそのはずは…ッ。」
「テメェの両腕は今使えねぇハズだよなァ!!」
そう、赤眼の男は右手と左手が不自由であり、反撃する手段が無いのだ。
「今から…俺様の…ッ──」
加賀は自身の余っている右手を掲げる。
「…“全力”をテメェに打ち込むッッ!!」
「ッ!!」
「【漢の一撃】!!」
右手に一身に力を込め、赤眼の男“ホーライ“に打ち放ったのだった─────。




