二十四話・「希望を注ぐ者」「絶望を満たし者」
【T市・廃墟街】──影山side──
(…戦いたくない…僕は…)
「ッ…。」
影山の心臓の鼓動が鳴り響く──。
ナニカの声が自分の頭から離れずに鳴いているのだ。
「影山さんッ。前ッ!!!」
その時、九鬼の言葉にはっとした影山は前を向く。
「…【奪取】。」
目の前には…走り迫りくる赤眼の男“ホーライ”が居た。
そして突如、自身の腹部に痛みを伴う衝撃を喰らう。
「がはぁッ!!!」
ホーライの右膝が腹部に直撃し、影山の体が悲鳴をあげる。
そして右膝で直撃を浴びせたその後、首を片手で掴み上げた。
「なるほど、貴方にはこんなストーリーがあったわけですか。」
ホーライはボソッと声を漏らした。
「一応ホロス様からは“殺しはするな”と伝えられていますが…。」
「くッ…!」
ゆっくりとホーライは首を締め付ける力を強め、影山の顔に自身の顔を近づける。
「“我々は教会信徒。絶望を満たし、救済する者。”…貴方も救われるべきです。」
──影山はその言葉に涙を流していた。
「光は全て淘汰し、消去し、滅ぼしてしまう。…でも闇は違う。貴方のその“過去”も壊れゆく“未来”も全て包んでくれる。」
(…戦い…たく…な…い。)
その瞬間、体内にあるナニカが肥大化しているようにうごめいた。
ナニカが何なのかは理解できない。
だが、そのナニカを外に出してはいけないと、自分の本能が言っているように感じるのだ。
「──さぁ。救済は目の前にあります。自分の目で確認してください。」
影山はその首を抑える手を振り払おうと、自分の首を触ろうと必死に暴れ悶える。
───だがその時、自身の体に触れた瞬間目の前が白く、見えなくなる。
◆◇◆
【???】
研究着のような白衣を着た長い髪の男と、若い男の二人がカプセルの中で眠っている青年を見ながら話していた。
『…この実験体は上出来だッ…。』
長い髪の男は目に喜びと狂気を浮かべる。
『人工による…管理者の作成ッ。実験は成功したんですねッ。』
その言葉に若い研究者の風貌の男が憧れの目で長髪の男を見て言った。
『あぁ。この男の名前は“影山奏”。元は冴えない男で不格好なヤツだが、こいつの芯は素晴らしく堅く折れない。…そしてこの俺が埋め込んだ管理者としての能力に見合う“人格”を形成した。これでロスト共を蹴散らして資金集めでもしようじゃないか…。はッ…これで俺も“マインドウォーカー本部”の幹部として迎えられる。“希望の灯”を育てた研究者としてな。』
◆◇◆
「…形成され…た…?」
「…そう。貴方は記憶を取り戻したのではない。今のマインドウォーカーである人格の“あなた”が本来の“貴方を閉じ込めた”だけなのですよ。」
影山は必死に首を振るい、ホーライの手をのかして見せた。
「…そんなのは嘘だッ。俺は俺だッ。俺はマインドウォーカーの──」
「…違います。貴方は…形成された只の人形に過ぎない。」
「……。」
ホーライは自分の過去を知った影山に対し、言葉を投げかける。
「私は一人のしがない教会信徒ではありますが、絶望を満たし、貴方に救済を授けることは出来ます。…どうでしょうか。」
そう言って、ホーライは手を差し伸べた。
だが対する影山は何かを決心した面持ちで赤く禍々しく光るホーライの目を見る。
「俺が誰だったとしても…。たとえ…作られた能力だったとしても…。」
拳を握りしめ、歯を食いしばる影山。
そう言うと、顔や手の皮膚が割れたように隙間の亀裂から光が漏れ始める。
「絶対に俺は手を差し伸べるッ。助けを求めるのが俺だったとしても…。」
「自分さえも救済対象ですか、ふふふ…。出来た人間ですが、それは不可能───」
「出来る出来ないじゃねぇ…!誰かを助ける前に自分が沈んでちゃ意味がないんだ。それじゃ…誰も助けられないんだッ!!」
影山の頭にはうっすらと以前死んでいった仲間の姿が浮かんでいた。
…思い出せない。だが、大切なものではあった。
その大切なものを守るために、失くさないように。
影山は光を放つ拳を天に掲げた。
──“絶対に諦めない”と心に誓って。
「お前らが“絶望を満たす者”なら俺は“希望を注ぐ者”として打ち砕くッ!」
その直後、光輝く拳はホーライに向け、放つ。
だが、その攻撃は避けられ、左手で影山の体に触れてこう言い放った。
「…無駄ですよ。【奪取】。」
しかしそれはむしろ愚策であった。
光の塊そのものである影山に触れ、奪ったホーライの体から光が漏れ始める。
「なッ…ぐッ!!」
「お前らから…これ以上奪わせはしないッ。【希灯】ッ!!!!!」
影山は思いきり力を拳に込めると、亀裂が大きくなり、漏れ出す光が強くなっていく。
そして、拳を前方に突き出す──。
しかし、その拳の光はホーライには当たらなかった。
その攻撃の衝撃は目の前に現れた片腕のない鬼の仮面を付けた大男“ゼノン”に直撃していたのだ。
「ハハハッ。我は…自分で…驚愕して…い…る。」
ゼノンの体はみるみる内に黒い砂が蒸発するように指先から消えていく───。
「…こ…れが…我々に…ない…“感情”…か。複雑な…心境…だな。ハハハ…。」
「……なにをしているのですか…。ゼノン…さん。」
「…逃…げろ。…【影の世界】ッ。」
ゼノンは声を放つと、ホーライの後ろに“闇”が現れ、ホーライを吞み込んでいく。
そんな姿を見て、影山は声を漏らした。
「ゼノン…。」
「同情…する…な…反…吐が出る…。」
ゼノンはふらふらと揺れ、消えゆく片腕を見ながら答えた。
「影山さんッ大丈夫ですかッ!!」
「…はぁ…はぁ。」
そこにゼノンと戦闘をしていただろう九鬼とへとへとになっている金崎が現れる。
「あ…あぁ…お前らは大丈夫か?」
「大丈夫ですッ。マサが全部防いでくれていたんでって…え!?影山さんゼノンを倒しちゃったんですか!?急に走り出して影山さんのとこに行ったから…心配したんですけど流石“希望の灯”ですね!!」
その時、九鬼の一言に消えゆくゼノンは声を出す。
「ハ…ハハ…我は死なない…。我は…影。また…貴様…らの前に…現れ…る。」
ゼノンはそのまま立ち止まり、こちらに指を指しながら、蒸発したように消えていった───。




