二十三話・復讐の先
【T市廃墟街】─竜崎side─
竜崎の目の前には荒れ狂う建材が自身の事を圧し潰さんと迫っていた。
その後ろでは黄色の髪をした黒いコートの男が自分の惨状を見て笑い嘲っている。
「…ッ!!!」
竜崎は目の前に迫る建材を一太刀で真っ二つに砕くと、自分のポケットから小くピストルの形をした“ロスト排除装置”の放出型で、建材の割れ目から見えたコートの男“アルゼル”に向かって銃口を向ける。
「…撃てよ。撃ってみろよォ!」
「……。」
アルゼルはそう呟くが、竜崎はトリガーを引くことは出来なかった。
『兄さん…ひどいよ。』
「…ッ。」
目の前にはアルゼルではなく、見殺しにしてしまった弟である“一輝”が立っていたからであった。
その時、竜崎は自分の全ての神経が震え、目が泳ぐ。
『兄さん…。』
「うるさいッ!!!!!お前はッ違うッ!!」
『ひどいよ…。』
弟の形をした物は顔を不自然に笑みを浮かべる。
そして、それを見た竜崎はロストへの恐怖は、憎悪の心へと変貌する───。
「グハハッッ!幻が見えたのか!?あぁ!?グハハハハハッ!!いい気味だぜッ!」
竜崎は睨みつけるようにアルゼルを見る。
「…絶対に…殺すッ!!」
「グハハハハハッ!!それだよそれッ!その感情ッ。俺様には有難い憎しみの感情ッ!」
竜崎は一切その声は聞き入れることは無く、体だけがアルゼルに対して憎悪の感情だけで動いていた。
「…は?」
…その直後、アルゼルは竜崎を見て驚愕するのだった。
「……殺す。」
竜崎の顔の半分が黒で染まり、片眼の白目が黒目に変貌を遂げる。
更には竜崎の右手から発生していた光の刃が段々と黒い斑点が出てきていたのだ。
「一時的なロスト化だと?これは──いや…そんな事はどうでもいいか…ッ。」
アルゼルはそう言って思いきり開いた右手を上に振り上げる。
その振り上げた右手は黄色と紫色の混色で、禍々しいオーラを放っており、その右手からは黒ずんだエネルギーを発生させていく。そのものはマインドウォーカーが扱う光弾のように輝くわけではなく、人の心を引き寄せるような禍々しい“闇弾”と評してもいい姿形をしていた。
──そしてアルゼルはその直後にこう呟く。
「全て砕いて壊してやるだけでいい。【破砕】ッ!」
アルゼルはそう言うと、右腕を竜崎がいる方向へ向け、その“闇弾”を放つ。
「派生能力──。」
黒く荒んだ“弾”が自身に目掛けて迫ってくる。
だが、竜崎は動じることは無いのだ。むしろ息すら荒れることはなく、一定に保つ。
そして竜崎自身はその闇に染まりつつある“光の刃”を思いきり握って臨戦態勢に入る。
「グハハハハハッ!!くたばれぇぇぇッ!!」
一方アルゼルは闇弾を放ち、高らかに尚且つ下品に笑っている。
闇弾は竜崎に近づく度に勢いを止めることなく、“闇”の強度を増していく。
そしてその力が強すぎるあまり、小さな闇弾が発生し、ものすごいスピードで竜崎の鼻の傍を掠める。
「……もう落ち込んじまったかァ!ビビっちまってェ…残念──」
「派生能力【一閃】。」
竜崎の刃は光が溢れ、闇を切り裂く。
そしてその瞬間、力を溜め、破滅させるために生まれた闇弾が真っ二つになっていたのだ。
…だが闇弾は二つに分かれたものの、その二つの闇弾は姿を変え人型に為って再び竜崎に襲い掛かろうとする。
「死ね。心影。もう二度と俺の前に立ちはだかるなッ。」
竜崎はもう一度、声を出し弧を描く様に剣を振るう。
すると次は“光”ではなく、闇が剣と舞い始める。
そして剣を持たない手で光の刃を刃先までゆっくりとなぞる。
その刹那、なぞった箇所が完全に黒で染まっていく。
「…【一閃】。」
その言葉と同時に人型をした闇は切り裂かれてゆっくりと消えていく。
「…ッ…!?」
それだけでなく、アルゼルの体すら刃で貫いていたのだ。
「ぐッ…はッ…ウソ…だろッ…?」
アルゼルの腹からは黒い液体が垂れ、それをふさぐように自身の左手で抑える。
「ハァ…ハァ…。お…い…ジェシーッ!テメェの…幻影術が…甘かったんじゃねぇのかッ?」
アルゼルは空にそう問いかけるように叫び散らかす。
ジェシーという名前を連呼しながら。
《知らないわよ。アタシはホロス様に“幻影を見せてやれ”って言われただけなんですもの。》
「…全然コイツに…効いてねぇぞ…クソ女…ッ。」
《あらそうかしら?コレは特殊個体になりそうじゃない?》
「…は?トクシュコタイ?何…言ってんだ…お前ッ。」
《言い方が良くなかったわね。アタシたちと同じ“エゴロスト”に為り得るのよ。》
「はっ…絶望心ももらって“エゴロスト化”もするのか、いいこと尽くめ…だな。…ッ…。」
《…はぁ。仕方ないからホロス様の命令は無いけど、援護してあげる。感謝して。》
「あぁ…頼む。一緒に…殺そう…ぜ…ッ。」
アルゼルはナニカと話をするように、腹を抑えながら独り言をしていた。
「幻を見ているのはお前だ。…死ね。一閃ッ!」
竜崎の今の体は休息を知らなかった。
黒ずむ手が“闇の刃”を手に更に増長させ、大きく振り上げる。
その時だった───。
竜崎の体が全くと言って動かないのだ。
頭では分かってるのになぜか振り上げた手が下せない。
“誰だ、俺の復讐を邪魔する奴は”と竜崎は心の中で叫んでいた。
『…復讐の先には何も待ってないって…ハナシ。』
──後ろには【止眼】を使用している蒼眼の元特殊局員“神代”だった。
神代は竜崎の前に立つと、後ろを向いて朗らかな顔で言葉を発する。
「ここまでお疲れ様。あとは僕が此処を食い止める。あっ…この分の報酬待ってるってハナシ。」
神代は止眼を解くと、柔らかな表情から敵前突破する覚悟の表情へと変えた─。




