二十二話・光と闇の交差《2/1》
【T市・廃墟街─教会監獄─】
「よっこらせっとォ…暑いなぁ此処は…。」
炎を纏うエゴロスト、イグニスは気だるそうに言うと退屈そうなメーアに対して声をかける。
「やっぱり、子供のオモリは楽しくないか?」
「…当たり前だよ。ボクちんはヤツらをボコボコにしてギーベルの名を継ぐロストなんだ。」
教祖“ギーベル”
協会を創ったとされる人物の名をメーアは呼んだ。
そしてその言葉にイグニスは反応する。
「ギーベル様かぁ…?例えるならアレは«悪魔»だ。ホロスが言う教祖とは程遠い。」
「そうなの…?」
メーアがそう言うと、イグニスは自身の指先を擦り始め、その指先からはバチバチと火花が飛ぶ。
そして、その動作と同時に、イグニスはメーアに対して一言声に出す。
「あぁ。それに…たまに俺は分からなくなるんだ。教会の目的がね。」
「…え?目的って…ギーベルが目指す救済を求める事なんじゃないの?」
「救済…ねぇ。ホロスはそう言うがどうなんだろうな。非力なエゴロストを捕まえて兵力として使用するアイツの思考は理解に困っちまう。」
イグニスは指先をこすりながらそう答えた。
それに呼応するようにメーアが疑問を重ねる。
「え?それをやってるのってゼノンじゃないの?」
「あぁ、【影の世界】だろ?実行してるのはもちろん部下のゼノンだ。ただ指示してるのは概消の管理者“ホロス”、アイツだ。メーア、お前には忠告するがホロスを下手に刺激するのはやめとけよ。」
メーアは思い出した。
あの何も恐れない“眼”を───。
「で、でもボクちんは──」
「アイツは四帝の中でも一番の兵力を誇っているし、何せ──」
イグニスは哀しそうに何処かを見つめ言い放つ。
「アイツはいつからか残虐性を増して生まれ変わったかのように人間…いや、“マインドウォーカー”を恨んでいる。それを邪魔するものなら人間であろうと、俺らロストであろうと切り捨てるヤツだからな。」
「……。」
『マ、マインドウォーカーが近づいてるから…皆さん戦闘…お願いします…。』
そんな刹那、アルゼルからの連絡がイグニスとメーアの耳に入る。
「ッ!?よし、ボクちんが全部片づけてくるから、オッサンは此処で──」
「…あーあ、もう到来か。やっぱり早いなぁ…。」
「え──」
イグニスが声を発した瞬間、この監獄を破るほどの大きな“光のエネルギー”がこちらに迫っていた。
そして迫りくるエネルギーは監獄の壁をぶち壊し、発射した者の姿がはっきりと現れる。
──加賀英五郎。“装碗”を装着したアンチロストの姿だった。
◆◇◆
【T市・廃墟街─教会監獄─】数分前──本隊side──
「教会…ここで…終わらせてやるッ。」
加賀は腕を組みながら教会が保有する監獄に目を向けていた。
「英ちゃん。先行き過ぎだってぇ…。ここはこの機動力を活かした城戸隊長が先導するよ。…ぐふッッ。」
「……。」
「やけに胸騒ぎがする…いや弱音なんか吐いてちゃ…だめ。頑張らなきゃ…。」
それと並ぶように城戸、冷泉、その後ろに柴野が突撃をしようと心を決めている。
そしてそれより後ろに多人数の本部から派遣されたマインドウォーカーの兵士たちが準備しており、
今その時突撃するその時だった───。
「いやァ…そのまま突撃だなんて陳腐だね。支部の奴らは──。」
「…本部の奴らか。なんだ、俺様たちに何か用か?」
後ろから声がしたので加賀は呆れながら声を発し、後ろを向く。
その後ろにいた人物は、終始にやついており、後ろに大剣を背負った眼鏡を掛けている不敵な男であった。そして管理者の特別なものである銅色の“リベラ・キー”を首から下に下げている。
「あっ。僕の事を知らないんだ。ふふッ。無理もないか。ほら。」
「ん?なッ!?」
その男は胸ポケットからあるカードを四人に見えるように振りかざした。
そのカードこそ、マインドウォーカー本部の限られた精鋭“特殊局”の証明である──。
「γ階級“特殊局”。コードネーム“ナイト”だよ。よろしくね?支部隊員達。」
「ナイトねぇ。騎士にしちゃ人を守るような言葉遣いじゃないと思うけど?」
「全然面白くないね。君は隊長?ふふ。君みたいな人こそ何も守れないよ。こんな小さな世界でのうのうと生きて周りに気遣われながら生きるなんて可哀想なヤツだね──」
─その時加賀は殴りかかろうと動き出していた。
だがその動きは見切られていたかのように大剣で加賀の首元に刃先を近づける。
「ッ!?」
「図体と態度だけは大きいだけみたいだね。アンチロストは期待していたけど、脳みそは大きくなかったみたいで残念だよ。」
そしてナイトという男は周りに撤退の指示を出す。
「撤退だ。この人達はどうしようもない陳腐な人間みたいだ。僕等は別のルートで行こう。」
「…はッ!承知しました。撤退準備ッ!!ナイトさんのご命令だッ!!」
「またね支部隊員達、頑張って正面突破するがいいさ」
◆◆◆
ナイトらが撤退すると、加賀は口を開き、こう言った。
「……。」
「…これだから本部の人間は苦手なんだ。奴らは希望を注ぐことを念頭には無い。俺は博士には何度も言ったんだけどな…ちくしょう…。」
気を落とす加賀に城戸は気丈に振る舞い声を出す。
「気を取り直して行くか。ナノを取り戻す為に、な?よし、英ちゃん頼むぜ。」
「…はっ。変わんないなお前はァ…。」
城戸はそう言うと、加賀に声出しを任せるよう押し付けた。
「ったくしゃーねぇな。装碗を装着っと──おっしゃァ!!行くぜぇ!!」
『装填完了、攻撃を開始します。』
──そしてその音と共に、光弾が発射される。
その光弾は壁に直撃し、穴を空け、その直後加賀は声を荒げ叫ぶように言った。
《今だッ!!》
加賀は一言大きな声で発すると、その後ろから冷泉が数人現れ、ナノに向かって走り出す。
そして加賀本人は赤色のコートを着ている人物“イグニス“に向かって装碗で再度照準を合わせる───。
『装填完了。攻撃を開始します。』
「これが俺様の《漢の一撃》だァ!!!」
…だが、その攻撃はイグニスに当たることなく何かに妨げられたようだった。
「う、うそだろッ!?」
イグニスの目の前に大きな黒色で赤の不死鳥のアザが付いた“バツ印”のような、“十字架”のような物が現れ、光弾を阻害していたからであった。
辺りには粉塵が舞い、穴が空いた壁からは闇を感じ取れるほど異様な空気が漂っている。
『…教会の邪魔は…いや…イグニス様に手を出す者は…某が許さない。』
加賀は目の前に立つ人物を目視する───。
その“バツ印”の裏に立つ人物、黒いコートを着込み、顔や頭を隠す白い十字架が描かれた
仮面を被る者を──。
そしてその者は“バツ印”の前に立ちはだかると、両腕を広げ声を出す。
『某は【罰印】の管理者であり、イグニス様直属の教会幹部。…名は“クロス”と申す。』
その低く闇に溶けそうなほどしゃがれた声と同時に、先ほどまで立ちふさがっていた“バツ印”のようなものが消え、クロスと名乗る人物の左右の手に手で持てるほどの“バツ印”が現れる。
『いざ…尋常に──』
この声と共に、光と闇が交差するのであった──。




