二十一話・不完全なまま
【T市・廃墟街駐車場】
「“王”なら勝てるだろ…?“四帝”であるこの俺に──。」
“王”と名乗る者“レクス”の目の前に立ちはだかるのは、教祖ギーベルを崇拝する“四帝”の一人『ホロス』であった。
──ホロスの体は光のように輝き、影の如く濁りを持つ“力”をたぎらせる。
「…四帝だと…?フハハハハハッ!!!笑わせるなッ。よくも私の軍勢を消し飛ばしてくれたな…ッ。」
「“四帝”の存在も知らないとは…。ハハハッ。まぁ…今生まれた赤子のような存在になにを言っても、分からないのは当たり前、か──」
ゼノンは吐き捨てる様にそう言った。
…だが、その言葉を吐く寸前でレクスの体はゼノンに向けて動いていた。
そしてレクスが持つ剣がゼノンの面前まで達した時、ゼノンは自らが操る影の蛇で攻撃を防ぐように、その剣に絡ませる。
「貴様…今私を侮辱したな…ッ。王である私をッ。」
「ハハハッ。醜いな。我の【影の世界】で永遠に──」
ホロスは目線をゼノンに向けて制止する。
「ゼノン。アイツの敵はお前じゃない。退け。」
ゼノンはホロスの方を見ると、不服そうな声で答える。
「…ッ。御意。」
ホロスはその言葉を聞くと、レクスの方に視線を向ける。
その視線は冷めきっており、心情を煽るような表情をしていた。
「なぁレクス。お前は俺ら“教会”に似合う存在だと思う。だからこそ──」
教会の使命は二つある。
一つ目は信徒を増やす事。
二つ目は“ギーベルへの道”計画を遂行する事。
ホロスはその前者、信徒を増やす目的でそう言い放った、が
レクスの取った行動は教会の者らの意に反していた。
「私にそんなものは必要じゃない…。ただ“邪魔”するものを消していくだけだ。道に生える雑草を刈り取るのと同じだ。…それがたとえ貴様ら“破”の道を進む“教会”だろうと、影を払う“マインドウォーカー”であろうと──」
『──私は決して屈しない。』
レクスは即座に答えた。
心に決めた何かに追従するように──。
「……。」
ホロスはその言葉には何も答えない。
だが…その顔には笑みを浮かべている。
そんな時、アルゼルからの“信号”を教会の者らは耳にするのだった。
『マ、マインドウォーカーが近づいてるから…皆さん戦闘…お願いします…。』
「ハハハ…ッ。“本物”からの連絡…か。ホーライ、行くぞ。」
「はい。もちろん。彼女を取られないように…ですよ。」
その声を聴いたゼノン、ホーライはその場から離れるように動き出す。
《楽しみにしてるぞ。“狂王”レクス。》
そして、ホロスはレクスの目の前に立ち、彼に聞こえるぐらいの小声で言葉を発すると、ホーライらが向かった真逆の方向に向け、その場から離れるのだった──。
◆◇◆
【─T市─別動隊─住宅街道中─】
影山、竜崎、金崎と九鬼の四人は洋館を出て、横一列に歩いていた。
雪がゆらゆらと舞っている風景は“不完全”な四人の不安と寂しさをより一層駆り立てる。
“記憶”を失った影山。
“復讐”に捕らわれた竜崎。
“護る”ことしかできない金崎。
“夢”に固執した九鬼。
“不完全”な彼らは任務を遂行するため、無言で歩く。
「姉御…。」
そんな中、金崎がポツンと呟く。
「……。」
粉雪は影山の目下に付くと、ゆっくりと頬を伝っていく。
するとある時、九鬼は急に足を止め、他の三人に呼び掛けるように口を開く。
「オレ…やっぱり信じらんないよ。嘘に決まってる。」
「ッ……。」
その言葉に影山は目をつむり、唇を噛みしめる。
“奏くん!おいでよ!”
影山の頭の中に、幼い頃の如月の満面の笑みが声と共に浮かび上がる。
…だが、それ以外の事が心の奥底に深く挟まったまま、出てこない。
「…ホントだよ。もうあの頃の姉御は戻ってこない。」
「マサッ…お前が諦めてどうするんだよッ。まだ…オレらに出来ることは──」
九鬼は金崎の胸ぐらを掴み、感情をぶつける。
そんな金崎は目を逸らし、声を漏らす。
「じゃあ、どうするって言うんだよ…。」
「…は?」
「このままナノを救出して何になるっていうんだ───」
その時、竜崎は背を向けたまま一人歩き出す。
「──そこでずっと喧嘩してろ。俺は行く。教会を野放しにしてたら如月どころじゃない。この街全体に被害が及ぶ。」
「竜崎さんッ…待って下さい、マサは──」
「じゃあ逆に聞くぞ、金崎。」
竜崎は金崎の方に振り向き、目を合わせようとしない金崎に対して言葉を発する。
「お前は“復讐してやろう”って気にはならないのか?」
「…ならないっすよ。」
竜崎はその返答の速さに驚いた。
もとからその答えがあったかのように即答したのだ。
「復讐って程、俺には力がないっすから。俺は──」
「“護ることしかない”か。それでいいのか?」
「……。」
「お前の守るべきものってそんなものなのか?」
「…。」
「お前は嘘をついてる。本当は怖いんだろ。護ると言いながら、死から離れようとしてるだけ。お前自身の“過去”から逃げようとしているだけなんだよ。」
竜崎の言葉は金崎だけでなく、他の二人にも深く突き刺さる。
“過去”を思い出せず逃避している影山、
薄っすらな“過去”から逃避し、大きな夢に固執する九鬼。
だが竜崎は違っていた。
過去に後ろ向きではいたが、決して背を向けようとはしていなかった。
「先に行ってるぞ。」
──そんな竜崎の言葉に二人含めて金崎は何も言い返せなくなっていた。
そして竜崎は一人で敵陣まで歩いていくのだった。




