二十話・作戦開始
【T市・マインドウォーカー支部会議室】
「──ただいまから『柊ナノ救出作戦』を執行する。」
──レイノルズ博士はそうハッキリと言ったのだった。
その発言と共に影山を含む城戸、冷泉、竜崎、九鬼の計五人の戦闘員、金崎と柴野のサポート員の二人がゆっくりと席を立つ。
「先ほど本部から本格的に始動せよという命令が下りた。出撃先はあの教会の本拠地とされるT市の廃墟街だ。」
「…そんなまさか…。」
「そのまさかだよ竜崎クン。彼ら教会は人質を自らの手元に置いたんだ。本陣に人質を置かせ、我々に攻めさせる作戦であろう。そこでだ。私には提案がある───」
今回の作戦内容──。
それは、廃墟街にある本陣に直接攻める“本隊”と迂回して裏を掻く“別動隊”に分かれ、柊ナノを回収する、といったものだった。
本隊にはアンチロストの加賀、隊長の城戸、副隊長の冷泉、それをサポートする柴野と本部から派遣された多数の兵士を配置し、別動隊には影山、竜崎、九鬼の三人の戦闘員に加え、サポート員として金崎を配置する、とその場で明言した。
「…そ、そういえば姉御は…?」
その時、金崎が不安そうに呟く。
「お前が言う“姉御”ってのは…“如月真唯”のことか?」
それと同時に、革靴の音と共に会議室に入り込んでくる人物が一人、声を発する。
ガムを口に含み、ポケットに手を入れて話すオールバックの蒼眼の男“神代”が──。
「ッ…神代さん…。」
「さ、ここには皆いるのか?」
神代がそう言うと、堂々と椅子に座り、話を始める。
「…今からお前らが求めていた情報について…話そうかと思う。」
「求めていた情報?」
その言葉に困惑する金崎に神代は答える。
「あー、そうか。金崎とか【影の世界】にいた奴らはこのハナシを知らないんだっけか。…よし、まず僕からお前らに話さなきゃいけないことは三つある。まず一つ目は柊ナノの状態についてだけど──。」
「お前らに情報を整理してもらいたい。これを見てくれ。」
神代はそういうと、ポケットから小型のテレビのような機器を取り出すと、その機器から何らかの画像が表示される。その画像からは情報を映し出しているようにみえる。
所属名:マインドウォーカー支部戦闘局
氏名;柊ナノ
管理者の有無:有
リベラ・キー:庸
位置情報;T市廃墟街
状態:危
周囲状況:簡易に作られた教会本部が周囲に確認。
補足情報“脅威ランク”:S(3) B(1)
「これは僕が本部にいた時に支給されたAIが標準装備されている万能機器で、マインドウォーカーに配属されている人物の現在の状態を知ることができるんだ。…まぁ僕はもう入ってないんだけどさッ。ホントは辞めたら返さなきゃいけないんだけどな、本部から借りパクみたいな…?そんなハナシだ。」
「へー!!オレもそういうの欲しいなぁ…ッ。」
「…で、その機器でナノのこのように情報が分かるってことですよね。」
神代は自慢げに話すと、竜崎の一言で我に返ったように話を続ける。
「…おほん。その通りだ。説明すべき点だけを今から話すから寝るなってハナシッ。」
神代が重点的に説明したのは、“状態”“補足情報”の項目だった。
“状態”の項目の説明では安全な状況には『生』、今現時点で死に瀕している状況やロスト化寸前を『危』、すでに死んでしまっている場合は『死』、ロスト化している場合は『影』と表示されるという。
“補足情報”では、その場にいる危険因子、教会の動きを考慮した情報を本部から送られてくる。
そして、そこに記載のある“脅威ランク”とあるのが周りに被害をもたらす教会を含むロストの危険度を表す指標であるのだと神代は説明した。指標の段階は上からSS,S,A,B.Cの五段階に分かれているものの、あくまでマインドウォーカー側の指標なので実際は分からないらしい…。
「その指標については、教会の始祖“ギーベル”を崇める、あのホロスを含む四人の狂信者“四帝”をSSとしているってワケ。それ以外は案外テキトーだったりするからなー、本部は。あんまり頼りにすんじゃないよってハナシ。ま、今回はS三体とB一体だからお前らなら余裕だと思うぞ?」
神代はそう言って、またその小さな機器をいじり始める。
…ただ、その顔は何処か悲しそうな顔だった。
「…そうだ、さっきいってた如月の結果だ──」
──神代はそう言うと、驚愕な事実に気付くことになる。
所属名:マインドウォーカー支部サポート課
氏名;如月真唯
管理者の有無:有
リベラ・キー:滅
位置情報;T市廃墟街
状態:影
周囲状況:簡易に作られた教会本部が周囲に確認。
補足情報“脅威ランク”:S(3) B(1)
表示音と共に現れた画像は周りの人間を沈黙させた。
「…ちょっとまって下さい。この情報だと…如月は──。」
「…あ、姉御がそんな…いやいやありえないっスよ。」
竜崎と金崎はそう言ってただ否定する。
だが、神代は真顔で返すのだった。
「実は僕もこの前初めて知った。でもこれは事実だ。」
「……。」
「…彼女が裏切り者──パペットだ。」
──その声が辺りに響き渡り、時計の秒針の音だけがずっと聞こえていた。
◆◇◆
「私の名は“虚無のロスト”ではない。そうだ…今日から私の名は王の名である『レクス』とでも名乗っておこう。さぁ、臣下よ。この二つのならず者を消せ。」
一方、教会では『レクス』と名乗るエゴロストが誕生し、ゼノンとホーライは苦戦を強いられていた。
「【影呼・暴】ッ。フハハハハ!!!!なんて力だッ。“絶望心”をかなり消費してしまうが、これは素晴らしいッ。消せッ!!!!」
大多数のロストとアルゼル、ライザをゼノンとホーライに仕向けるそのレクスはまるで“中世に君臨した狂った王”そのものだった。
「…ホロス様ッ。」
「…ッ。なんと…あの方が直々に来るとはな…我々も舐められたものだ。」
──だが、その力を圧倒する者が一人、現れたのだ。
「…随分と楽しそうだな、レクス。いや──虚無のロスト。」
「貴様ッ。私を邪魔するなッ!!!私はッ!完全なる“王”だ──」
レクスは大軍を方向転換させ、攻撃の標的を変え始める。
そうすると、白いコートを着込んだ黒毛交じりの白髪の男は両手をポケットに入れたまま、声を発する。
「何が“完全”だ。感情で動いている時点で“未完”に過ぎない。」
その直後、白色の光の様な影がホロスの体をまとうと、ニヤリと笑うのだった。
「少し手加減をしてやる。【概消・解】。」
ホロスの体から放たれた光の様な影は大多数のロストを抵抗もさせずに綺麗に飲み込む。
「…ッ。」
ゼノンは絶句した。
この男には、誰も逆らえないのだと改めてあらわとなったのだ──。
──その理由は、辺りにいたゼノンとホーライ、レクス以外のロストが姿を消してしまっていたからである。
一方ホロスはレクスを見据えて、声を出した。
「俺の“絶望心”を消費させるな。おかげで減ってしまっただろうが──。」
「“王”なら勝てるだろ…?“四帝”であるこの俺に──。」




