十六話・不屈の精神
【T市・バトルルーム】
「“マインドウォーカー”の竜崎令として、諦めずに本気で行きます。」
竜崎ははっきりとそう言った。
そして光の剣を強く握りしめ、神代に対して真っすぐな瞳で見るその顔は、神代自身を奮わせたのだ。
「…そうだ、お前の力はそこにあるってハナシだ。竜崎。」
神代は“楽しむ”ように笑い、そう言う。
──その時、彼の青い目が一瞬煌めいた。
その時、気が付くと竜崎自身の左肩に、神代の右脚が当たりそうになっていたのだ。
竜崎が気付くその瞬間に神代は小声で言う。
「派生能力…『激震』…。」
…竜崎は突如思い出した。
あの冷泉が赤子の手を捻るように圧倒されていた事を──。
「なッ…!!」
…もう何も出来なかった。
逃げようにも反撃しようにも体が固まったように動かないのだ。
あの“蒼い眼”に見られた瞬間、身の回りの空間の流れが止まり、重い鉄塊が体に伸し掛かったように重心が強く体に掛かる。
──神代の強い殺気と重圧が竜崎の身体中に駆け廻る。
神代大和…精鋭集団T市支部“特殊局”の一人。
類まれの身体能力と記憶力でロスト討伐数トップクラスを誇る男。
その男が
今、竜崎に先制攻撃を仕掛けようとする。
(…もうダメかもしれない。)
そんな事が頭によぎる竜崎。
だが、この時──あの男が完全に立ち上がった。
「俺らはマインドウォーカー…」
その男こそ、希望の灯“影山奏”である。
「…希望を注ぐ者ッ!」
影山の体に亀裂が入るものの、その隙間から流れる光が竜崎に向け放射される。
「だから俺は──今の俺の力をお前に少し注いでやる!!」
影山は亀裂が深く入っている右手を竜崎に掲げ、苦しそうにもがく。
…だが、絶対にそれを辞めようとしなかった。
次の瞬間、竜崎の骨が震え、恐怖感すら感じさせないほどの衝撃が肩に襲う。
──だが、その攻撃はなにかに守られたかのように、吹っ飛びはしなかったのだ。
そして竜崎の右手から大きな剣の様な光が出現する。
「おぉ、まじか…派生能力『希託』…!面白いってハナシだな。管理者ってのは。」
神代は楽しそうにそういうと、その直後に再度左脚による強打をしかけてくる。
──だがその強打を竜崎は察知し、素早く退避することに成功する。
「…お?」
「神代さんッ!ここで…終わりだぁッ!」
竜崎がそう言うと同時に自身の心剣を輝かせ、神代の攻撃の隙にそれを右から左へ振りかざした。
だがその一連の動きを見ていたかのように、上半身を捻らし、反らすように動かす。
神代は攻撃をかわした後、すぐに上半身を起き上がらせる。
「…クソッ、まだ…まだ諦める訳には…。」
竜崎hが諦めずにもう一度振るおうと試みる。
…だがその時、神代の眼が再び輝きだしたのだ。
「甘いって──ハ」
「──“希灯”ッ!」
その刹那、影山がそう叫びながら、痛みで震える光り輝く拳を強く握り、走っていく。
「…死んじまうぞ?お前ら。」
そして今──神代の目の前まで迫っていた。
影山は涙を目に溜めながらも、拳を神代の顔目前へと───。
だがその攻撃を受ける前に神代は呟いた。
「派生能力『烈動』ッ。これで仕舞いって──ハナシだ。」
神代は空間を引っ掻くように動作する。
すると“空間”は歪み始め、抵抗する竜崎と駆け寄る影山に対して“矢”の形状をした何かが双方に激しくぶち当たったかのように連続で突き刺さった痛覚を与えてくる。
だがそれと共に神代は目を疑うのだった。
竜崎と影山は同時に、空間による打撃を与えられ続けられている。
だが──倒れることは無かった。
何故立っていられるのか。
その理由は明確だった。
──“マインドウォーカー”として、であるから。
ただそれだけだった。
「…もうやめだやめだッ。こんなに弱いヤツと戦うのはやっぱり御免ってハナシだ。」
神代は攻撃をすぐさまやめ、呆れるように声に出した。
「……。」
「……。」
竜崎と影山はそれを聞くと、その場で崩れ落ちるのだった。
「…強くなったな。僕の負けだ。」
神代は笑いかけ、その場から離れた。
◆◇◆
【同時刻・柊ナノ監禁場所】
そこには眠っている柊ナノという少女がいた。
姿は汚い服に端正な顔つきをしているが、目の下が涙で黒くなっている。
「なんでボクちんこんなつまんない仕事してるんだろ…。」
そこでコミュニケーションを担当されていたメーアは不服そうに声を出す。
「ナノって子は起きないし、ここじゃ戦闘も出来ないし。もうッ。マジでつまんないッ!なにが一番嫌ってこの子をどうしようも出来ないのが腹が立つんだよねェ…。いや、もういっそロストにしちゃおうかなッ☆」
その時……大きな足音共に何かが焦げるような音が聞こえてくる。
「分かるぞォ…俺もそんな時期があったあった…うんうん。」
メーアは横から低い声が聞こえ、顔を向ける。
そこには赤いコートを着た、茶髪で赤色のメッシュが入った男が立っていた。
髪の赤色になる部分は炎のようにおぼろげで、燃えているようだった。
──そして顔には“幹部の証”の赤い鳥が描かれている。
「…オッサン誰?ニンゲン?」
「オッサンって言うなッ。…というかホロスから聞いてないのかよ。」
メーアはピクリと体を震わせる。
「や、やめたほうがいいよ。ホロスってロスト…ボクちんでさえ恐怖したんだから…。」
「呼び捨ての話か?あー…へへへ…なんせ俺はあいつと“同階級”なんだぞ~?羨ましいか?クソガキ~。」
「ボクちんの名前は『メーア』っていうんだ。クソガキなんて失礼しちゃうよ。ってホロスってロストと同階級ッ!?」
メーアは驚いたようにそういうと、その男は答えた。
「あぁ、そうだ。あっ、お前新入りだったよな?へへへ。自己紹介がまだだったな。」
「俺は【獄炎】の管理者、最上位エゴロスト“イグニス”だ。よろしくなクソガキ。」
“イグニス”はコートのポケットに手を入れ、邪悪に笑うのであった。




