十五話・対極の光
『希灯』の能力を持つ管理者“影山奏”は今、目覚めようとしていた───。
◆◇◆
「…さぁ…ナノの居場所、教えてもらうぞ。神代さんッ!【希灯・解】」
影山の手はヒビが入ったように皮膚と皮膚との間に、光輝く亀裂が入っていく。
そして腕、顔、足、ほぼすべての体の箇所からほんの少しの光が放出され、影山は苦しそうに膝をついて息を整えようとする。
「…あいつ…自分を制御出来てないのか…。」
「……。」
竜崎はそう言った後、その影山の姿を見た冷泉がゆっくりと目を閉じる。
そして次の瞬間には冷泉の能力【虚影・解】により体は三人に増え、その内の一人が神代の真後ろに立ち、“装碗”の銃口を神代の背中に向けて放射準備を始め、もう一人は真横から走り込み、斬撃型で切りかからんとする。
「…ありゃりゃ、囲まれちまったか。」
──神代はその異変にいち早く気付くと、その場でバク宙をし始める。
そのバク宙による着地の途中、神代は自身の足を真後ろに立つ冷泉の分身に対して“蹴り飛ばす”ように瞬時に足を動作し、その上着地に見事成功する。
真後ろにいた冷泉の分身は神代に顔部分を蹴り上げられ、そのまま光の泡となって消えていく。
そしてその時点で真横からの奇襲に気付いた神代は、その冷泉の分身を自身の蒼い目で軽く目視した。
すると、その冷泉の分身はその場に立ったまま、何かに押さえつけられているかのように全く動かなくなり、2秒ほど経った後、冷泉の分身は後方にあるコンクリートの壁にとてつもない速さで吹っ飛んでいく。
体は壁に思いきり追突し、その衝撃音はバトルルーム場内に大きく響き渡った。
「ッ……。」
冷泉は驚くものの、今度は冷泉自身が両手に斬撃型を持ち、神代に襲い掛かる。
まずは左手で、向かって神代の右側から切りかかり、その直後に虚影を一人発生させて神代の後ろへと襲わせようとする。
それを見た神代はまず本体の冷泉が右側から攻撃してきたのを確認し、護身術のような振る舞いで左手首に一発手で振り払い、斬撃型を落とさせてから冷泉本体の腹に手が当たらない程度に間を開けてから神代は小さくこう呟く。
「…派生能力【激震】。」
「…ッ!?!?」
──その瞬間、冷泉の体は吹っ飛んでいった。
冷泉は気を失い、地面に倒れこんだまま動かなくなる。
それに伴い、後ろから狙っていた冷泉の分身は泡のように消えると、神代は安堵の表情を見せる。
「はぁ…危うく殺すとこだった…手加減は難しいってハナシだなやっぱり。」
その戦闘を傍から見ていた竜崎は呟くように言葉を発する。
「…なんて力…。」
「…『止眼』。確か対象物の動きを止めるだけの能力…。なんで勝手に吹っ飛んで──」
「強くないって?やめてくれよォ…僕はこの能力はコンプレックスなんだ。」
神代は笑いながら竜崎の言葉を遮って言葉を続ける。
「僕は君達が羨ましいよ。光の剣を生み出したり、自分の分身を使って戦ったり──」
神代は息が荒れている影山を見ながら声を発する。
「希望の力とか…ね。」
それに反抗するように竜崎は声を出す。
「でもッ。…実際、神代さんは俺らよりもずっと強いんですよ。きっと昔から──。」
竜崎は血だらけになった手を見て思い出す。
影山は竜崎と同時期にマインドウォーカーに入団し、すぐさま竜崎の実力や実績を抜いていった。
周りは影山を“希望の灯”ともてはやし、同期の竜崎自身は成長せず、皮肉なことに影山への嫉妬心を抱いていたことを影山に知られており、影山自身に心配されていた。
それだけではなく、最上位のエゴロスト“ホロス”に立ち向かった、才能がある『影山』と宿敵に立ち向かいも出来ない、才能もない『自分』との見えない大きな“差”が今の影山に対する焦燥感と嫌悪感に繋がっていった。
「何言ってんだ、最初からこんなに使えるワケ無いだろ?あははッ…僕は最初ハエ程度しか止められることしか出来なかったんだぞ?」
神代はそう答えた。
「…え?」
「確かに僕の能力は対象物を“止める”だけのように思われることが多い…。でも、この能力は少し特殊なハナシでさ、実際は対象を止めているんじゃなくて、対象周りの“空間”を操っているんだ。」
『止眼』とは──その名の通り動作が行われている対象を完全に止めるだけの能力だが、その原理は“空間“にあると神代は言った。
「つまり、対象物にある空間…すなわち気体を変幻自在に操れるというワケってハナシ。」
「…その能力ってどこで──」
「あ゛ー!!もちろん努力で手に入れた決まってんだろ?神頼みで強くなんてならないさ。」
「……。」
努力という文字が嫌いな竜崎は顔を伏せ、黙ってしまう。
「またあれか…?あのなぁ…。はっきり言うぞ。」
神代は壁に埋まる竜崎に対し、改めて声を発する。
「お前と影山の違いは『諦める』か『諦めないか』の違いだけだ。能力なんて関係ない、勝ち負けなんて関係ないんだ。だから今、お前は武器を掴んですりゃいないだろ?…いつもお前は諦めて、逃げようとしているんだ。だからよ、ちょっと気持ち、変えてみようぜ?な?」
「諦めるか、諦めないか、ですか……。」
竜崎は壁に埋まったまま、顔を伏せ、一点を見つめている。
声を発し反論しようとも、それが出来なかった。
図星だったからだ。
「……動…け…竜…崎。」
…その時息を荒くしていた影山から声がやっと聞こえる。
「はぁ…はぁ…“マインドウォーカー”として…俺も…頑張るからよ…相棒ッ。」
影山はふらふらしながらも、自身の体を震わせ、殻が破れるように光が見えてくる。
──その時、いつか加賀から言われた一言が竜崎の頭に飛び込んできたのだ。
“復讐のためにだァ!?俺達は復讐なんかの為に『マインドウォーカー』してるんじゃえよ!”
(俺自身忘れていたのかもしれない。俺は──)
竜崎は影山に呼応する。
「…誰が相棒だ。うるせぇ…分かってる。」
竜崎は壁から抜け出し、目の前に掌を出して、強く握る。
するとその直後、長く鋭い光を突出させ、光の剣が出現する。
──そうして竜崎は神代を見据え、声をハッキリと発したのだ。
「“マインドウォーカー”の竜崎令として、諦めずに本気で行きます。」




