十二話・裏切者
【─影の世界─】
守らなくちゃ───。
あの時みたいに何も守れず終わってしまう。
「まだ死なないのぉ?ボクちん的には早くくたばってもらわないとォ…」
「…ッ!?」
「──困るんだよねェッ!!」
メーアの眼が大きく開くと装甲のロストの打撃が速くなる。
だがそれに対して金崎は自分自身と柴野を心壁で守る以外、打開策を持ち合わせていなかった。
どう打開する?
このまま諦めるか?
それとも────。
「う゛ぐッ!!」
装甲のロストの拳が心壁を突き破り、腹に追突する。
骨が折れ、肉が裂ける。
膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れれてゆっくりと意識が失われていく。
「……。」
「マ…サ…?」
柴野からは声がかすれた音しか出てこない。
そして涙は枯れ、心が失われたように…石のように動かなくなる。
「…。」
金崎は眠るように目を閉じていく。
痛みを感じるよりも、後悔が先行していく。
…どうして守ることも出来ないのか。
「あぁ…ボクちんの玩具がもう一個出来たぁ♪」
メーアはそう言って、軽くスキップをしながら柴野に近づこうとする。
「…近づ…く…な…。」
「…ん?」
声を出した金崎は血だらけで、薄くかすれた声は弱く、今にも消えてしまいそうな声だった。
だが、メーアには、意志が強く何にも揺るがない声にも聞こえていた。
「…あひゃひゃ!…キミ、面白いけど…弱いよね…もったいない…。」
「……。」
「…あははは!黙っちゃって…つまんないのぉ…。そもそもボクちんに敵うなんて百年早いよッ。いきがっちゃってさ。僕は人を絶望させる能力、【絶成】の管理者だよ?あはは!!」
メーアはそう言うと、右腕を紫色に発光させ、柴野に触ろうとする。
「──ロスト、生まれちゃえ。」
その時だった。
「マサァァァ!!女の子泣かすなんてひでぇなァァ!」
「…なに、ボクちんの邪魔をするゴミがまた来たのォ?」
眼を開けると、背の小さい男、『九鬼』ともう一人、
見覚えがない謎の人物と共にこちらへ走ってきていたのだ。
「ジェットスパーク起動ゥゥ!ァァ゛!速いぃ!」
九鬼は走ってきているだけじゃなく、犬山博士が開発した『城戸と同等のスピードをだせる装置』を『ジェットスパーク』と名付け、それを両足に装備し、ものすごい速さでこちらへ突進してきていた。
「相変わらず…名…前だせぇな…。」
金崎は安心したのか、意識を完全に失う。
一方九鬼の方は、五体の騎士のロストの攻撃を避けながら、背中に着けていた『ロスト排除装置<斬撃型>』を右手に持ち替え、好機を狙っていた。
「…オレは…ッ!」
持っていた斬撃型で一体討ち取ると、方向転換をして残りの四体が密集している場所まで特攻する。
「あの二人みたいに管理者でも、アンチロストでもないけどッ!」
本来、1対4のその数では必然的に不利となってしまう。
「これからのオレは…今までのオレとは違って…ぜってぇ諦めねぇ!!」
<一度夢を諦め、自分を無くした者>は、垂直に飛び上がり、それにつられて寄ってきたロストらに向けて『ジェットスパーク』を空中で変形させる。
そして変形されたジェットスパークは銃口の様な形になると、銃口の先の部分が青白く発光してビリビリと音を立て、何かが溜まる。
「…一発逆転の【高出力レーザー】ッ!!これはァ…【漢の一撃】だァァァ!!」
射出された青く光る二つのレーザーは四体のロストの体を貫き、いつもの鍵穴がロストから生み出される。
(オレ…やった…ぜ。)
九鬼は全力を出したものの、空中で力を出し尽くしてしまう。
──そこでジェットスパークの燃料が切れ、地上に落下していく。
(あぁ…ここまでかよ…くそ…。)
◆◇◆
【─同時刻─ライザ─】
ライザはメーアの前に立ちふさがる。
──何の躊躇もなく、怒りで拳を握りながら。
「…なんでだよ。メーア。」
「…んー?どうしたの裏切者。」
ライザはその言葉を聞き、顔を歪める。
「ッ!お前も…俺と一緒に教会から逃げていたじゃないか…ッ。しかも人を襲うなんてッ。」
「んーまぁーねぇ。でもさァ…。」
メーアは自身の緑の髪をかき分け、耳をライザに見せつける。
「ボクちん、選ばれちゃったからサ♪嫉妬しないでよォ。」
其処には赤く刻まれた鳥の“紋章”があった。
その紋章の意味、それは教会の“幹部”の証であり、教会の多くのエゴロストらに認められた証でもあるのだった。
「…ふざけるなよ。」
ただ、ライザは幹部に上り詰めたメーアに怒りを示しているのではない。
元教会のライザは最上階級のエゴロスト“ホロス”らの計画に不信感を抱き、同じく不信感を抱いていたメーアと共に行動していた。
そんな戦友ともとれる人物が裏切ってしまったことに怒りを示しているのだ。
「お前もアイツの計画には反対して──」
「だってェ…ボクちん、誰かの言うこと聞くの嫌いだからさァ…あひゃひゃ!」
「嘘ついてたのか。裏切りやがって…ッ。」
「まぁそうだねェ。計画自体は賛成だったけど、ゼノンってヤツが気に入らなかったからあの場ではそう言ったけどォ…。でもそこにゼノンから『裏切者を炙り出したら幹部入り』っていうウマい話が舞い込んできてサ♪気分屋のボクちん可愛いなァ!あははァ!」
「…お前…ッ。」
「あと、言っとくけどさァ…裏切り者はキミ、だからね?」
「…ッ。」
ライザは地面を睨むように歯を食いしばって立ちすくむ。
「キミはトモダチじゃないよ、駒ダチだネ♪…じゃあね!」
メーアが目を大きく開く動作をすると、装甲のロストがライザに向け素早く突進し、殴りかかる。
──だがライザはその攻撃が当たる位置には居なかったのだ。
「…ぶっ殺す…ッ【雷醒・暴】ッ!!!」
後ろへ回り込んだライザは両手の爪から雷をまとったオーラが出ており、牙のように長く鋭いものへ変化する。
ロストはその気配に気づき、後ろに振り向く瞬間に裏拳で殴ろうとした──がその時にはロストの左腕が無くなっていた。
「…あれ?また消えたッ!?」
その切断された瞬間、装甲のロストの右腹部分にはライザの右の拳に当てられており、ライザは声を出す。
「──派生能力【雷牙連撃】ッ。」
そう呟くと、まず装甲のロストの右腹を拳で貫き、余った左手の雷をまとった牙のような爪で切り裂き、貫いた右手でも同じように切り刻む動作をすると、攻撃を喰らった装甲のロストはその場で倒れ込み、鍵穴が出現する。
「ッ…なにその…力…。」
「…雷醒だけは…使いたくなかったんだ…ッ。」
「へーっ、面白そうッ!やっぱりキミも教会に──」
メーアは感心すると共に紫色に発光する右手を差し伸べてきた。
…ライザはその手を握り返すことはなかった。
「……。」
「ははは!また戦えるのを待ってるよ。」
メーアの前にはおそらくアルゼルのワープゲートと思われるものが出現し、目の前から消えていった。
(多分、俺とメーアと分かり合う事は一生ないだろう。アイツは強さを求めて、俺は人と共存を目指して…。でも…アイツらの計画で俺ら《夢》を崩される訳にはいかねぇ。待ってろ、ホロス。)




