十話・金ナシはつらいってハナシ
【─洋館─午前0時─】
「──よぉ、助けに来たぞ。あれ…?もう皆お疲れか?」
神代はそう周りを見渡すようにそう言った。
「…なんで君が…。」
「おぉ博士ッ久しぶりだなぁ、いつぶりだ?」
「君たちが居なくなってから…もう一年が経つ。」
神代は話を逸らしたかのように、背を向けて中庭の方を見つめて話し始める。
「てか…変わってないなぁ…。あっ、加賀さん居るか?アノ人ともう一回酒を酌み交わしたくてな─」
「神代クン、この一年間、何処で何をしていたんだ。」
博士は神代の話をさえぎり、単刀直入に聞いた。その時、神代の動きが一瞬止まる。
そして神代はゆっくりと博士の方を向き、目線を合わせずにはっきりと声に出す。
「…調査をしていた。その内容は、一つ目は今後に関わる…柊ナノの行方不明について。」
「二つ目は…。」
神代はポケットに手を突っ込んだまま、目線を合わせないまま一言放つ。
「教会に加担する人物、『裏切者』がいる可能性について、だ。」
その場にいる全員が凍り付いたように唖然とした。
そんな中、竜崎だけが口を開き反論する。
「ふざけないでください、そんなはずは──」
「あーあー相変わらずめんどくせぇ…。」
ただ、神代は反論する竜崎をみて呆れて笑いながら言う。
「よくよく考えたら分かるだろ?なんで襲撃されてるんだ?教会に。」
「それは…。」
「それに最近アイツが見つかったってハナシがあったよな?しかも、記憶を一部書き替えられた状態で…。随分都合がいいハナシだよな…博士。」
神代は博士に向け、そう言った。
博士はしわを寄せて怪訝な表情で聞き返す。
「もしかして君は影山クンが記憶を失っているフリをしていると、そう思うのかね?」
「仮のハナシとして人物を挙げてみただけさ。もっと言うなら、僕は博士さえも疑ってるぞ。」
「人に擬態し、更にエゴロストに忠誠を誓った意思のないロスト【パペットロスト】の存在として、な──。」
「…聞いたことがある。エゴロストに忠義を尽くし、本能ではなく命令で動くロスト…だったか。」
「その通りだ、さすが博士。」
神代は口角を上げ、笑みを浮かべるように感心した後、続けて口を開く。
「さっきも言ったが、僕はマインドウォーカー内にパペットロスト…通称パペットが混ざっていると踏んでいる。」
「…だったらすぐにでも情報を───」
「ダメだ竜崎、焦りは身を滅ぼすぞ?しかもこの中にパペットが混ざっている可能性は十分にある。そんな中で情報提供なんてしたらどうなる?本末転倒だ。僕に1000万ほど贈呈してくれるならハナシは別だけどよ──」
「…こんな時に金かッ!ふざけているんですか!人の命が懸かっているんですよ!」
「……僕にはお金が必要、お前らは情報が必要。等価交換の条件を満たしていると思うが?」
「…ッ。そうだとしても貴方にはマインドウォーカーとしての誇りは無いんですか…!」
「……。」
神代は哀しそうな目で、肩を落として口を開く。
「僕はもうマインドウォーカーじゃないさ。一年前のあの日で僕はただの市民だ。」
「…え?」
「僕たち特殊局は大都会のA市にあるマインドウォーカー本部から支部に派遣される。まぁ僕はたまたまT市に派遣された訳だけど…いや、そんなハナシはどうだっていい。特殊局の人間は任期が一年おきと決まっていて、一年経つごとに本部から『辞める』か『続行』するか選択を迫られる。」
「特殊局の人間は強いが心が脆いヤツも多い。だから一年という短いスパンで選択できるんだ。」
「何故、辞めてしまったんですか…?」
「…んな野暮な事普通きくかぁ…?まぁ、そのこと含めて全部話してやるよ、金さえあればだけどな。」
「金と人の命…どっちが大切なんですか貴方は…!」
「…はぁ、だからさっきも言ったろ…ん?いや…」
神代は思いついたかのように竜崎に近づく。
「そんなに情報が欲しいなら僕と訓練してくれないか?僕に触れられたら、話すぜ。」
そう言うと神代は博士の方に向き、手を合わせるように申し訳なさそうに言う。
「頼むッこの通りだ博士、最近たるんできててさ、地下室の【バトルルーム】借りていいか?」
「…分かった。但し、竜崎クン一人じゃ君の実力に見合ってないぞ。」
「あーッ…じゃあ竜崎の他に二人用意してもらってもいいぜ───」
◇◆◇
【中庭】
『城戸、あとは…お前に…託す…。』
──雪が降る。
緩やかに揺れるその雪は影山の鼻に付き、溶ける。
「……城戸さん。」
目の前には、うつ伏せに倒れている城戸と倒れているあの黒い物体が居た。
──そんな城戸の過去を影山は垣間見えてしまっていた。
『特殊局がなくなっちまったけど、城戸さんが居れば…』
『貴方に掛かっていますよ、城戸さん。』
特殊局の崩壊、それによる責任や期待が全部この人に降りかかっていたんだ。
よほど不安で怖かったんだろう…心なしか閉じている瞼の奥から水滴が一滴流れているように見えた。
すると、倒れている城戸の首にぶら下げていた鍵の形状をしたキーホルダーのような物が突如光りだす。
「…な、何だこれ…。」
影山は首にぶら下げているキーホルダーを丁寧に取る。
そのキーホルダーは赤色に光っており、眩しく煌めいている。
それに目をやった後、一緒に倒れていた黒い物体に目を移す。
細長い黒々しい物体の体の中心部分に大きい紫色をした禍々しい鍵穴を発見すると、
影山はその鍵穴に向けて光り輝くキーホルダーを近づける。
「…やっぱりお前、完全に記憶が消えてるわけじゃないみたいだな。」
後ろから声がする。
その声の主である竜崎はそう言うと、影山の体がピタッと止まる。
「【ロスト】という化け物に対しての対応力や知識があるように見えるし、エゴロスト襲撃からのお前の動きは完全にあの頃のお前を彷彿とさせる。」
「…え?いや…いつも無意識なんです…。助けたい、とか動かなきゃとか思う度に…。」
「そうか…。」
その間に赤色に輝いたキーホルダーは、鍵穴から放つ魅惑の闇を吸い上げると、鍵穴の主【ロスト】がだんだんと消えていく──。
「そのカギは【リベラ・キー】。人の心の闇を打ち払う道具だ。本当に覚えていないのか?」
「…リベラ・キー、いや…うっすらとしか。」
《奏くん。もう先走ったらだめだから。死んでほしくないから。》
「…ッ。」
「どうした、頭抱えて。」
「いや、なにも…ただ。僕は…。」
「僕は本当にどんな人なのか、何があったのか知りたいだけなのに…。たまにこうやってフラッシュバックするんです。」
竜崎は顔を伏せ、小声でつぶやくように何か言った。
「え?」
「いや、何でもない。そういえばお前に折り入って頼みがある。」
◇◆◇
【地下一階・特設バトルルーム】
地下。そこには戦闘訓練場ともいえる広大な部屋があった。
コンクリートで埋め立てられ、まるで正方形のコンクリートの部屋にいるように重苦しい空間に感じてくる。
──そしてその部屋には、マインドウォーカー『竜崎』、『冷泉』そして『影山』が神代と数十メートル離れ、対峙していた。
「相変わらず広いなぁ!よーし、早速腕試ししようぜ。」
神代は腕を回し、体をほぐす仕草をする。
僕が頼まれた内容、それは今置かれている現状だった。
神代という人物に《触れる》だけ、それでいいとのことだった。
…ただ、どこかで心の引っ掛かりを覚えた。
神代は腕を組み、僕の声を遮るように大きな声でハキハキと言う。
「──はいはいッルールは簡単、お前ら三人は武器と能力の使用は許可しよう…んで…僕はルール立てんのめんどくさいから武器無しでいっか。よっし!試合開始ぃ!!楽しみだぜ久しぶりの訓練…ッ!制限時間は僕が疲れるまでな!」
腕組をやめ、喜びを表すように両拳を胸の前に持っていきガッツポーズをとる神代。
「……ちッ。舐めやがって…。」
竜崎はその喜ぶ彼を睨みつつ、前方に歩き出す。
神代と僕らの間は約50メートル。まずこの距離差を縮めなければ意味がない。
《触れることが出来たら勝利》
この文字列を見るだけなら簡単に思えるかもしれない。
…だけど、それは間違っている。
このバトルルーム、広大に見えて触れることも簡単に思える。しかしこの部屋には多数の秘密があることを僕は知っていた。
──正確には僕ではなく、記憶を失う前の僕の微かな記憶の話であるが。
「俺は正面から突破する。二人は俺の援護を頼む。」
「え、援護って…。」
「冷泉さんから排除装置放出型《装碗》が渡されるはずだ。それを使え。」
「え、えっと…。」
そう竜崎は言うと、神代のほうにゆっくりと進む。
「む、無視…!?」
「……。」
そんな中、冷泉がリュックサックから取り出してこちらに向けて受け取れと言わんばかりに突き出してくる。
「こ、これが装碗…?」
「…。」
これをよく見てみると、名前の通り、手首や腕に取り付けるような帯状の形をしている。
更には、その帯状の鉄の上に砲台の様な銃口がついている。
影山の問いかけに冷泉は頷くと、お手本を見せるかのように冷泉の自身の腕にそれを巻き付けるようにすると、機械音がカチカチと鳴ると同時に腕に装着され、青色にLEDライトの様な光が装碗から煌びやかに現れ出す。
「……。」
「これが…装碗…。」
『装填準備完了しました、攻撃を開始します。』
装碗は機械音でそう鳴ると、青い光が銃口に収束し始める。
「っさて、久しぶりの戦闘…!さて早速発動させちゃうかもなぁ…僕の【止眼・暴】を。」
◇◆◇
【─影の世界─】
メーアは、つまらなそうな顔で金崎に言った。
「でもさ…このじょーきょー、どうするの?」
「……。」
(確かにそうだ…俺の敵はエゴロストのメーアを合わせて…七人。)
金崎は手を引っ張る柴野を見て、思考を巡らす。
柴野は顔をしかめて不安そうにしている。
(そして俺とシノンは、管理者の中でもサポート系で戦闘向きじゃない…。柴野は【治癒・庸】でこの二人でどうにか出来る問題じゃない。これは───)
「はいッ!これでおしまーいッ!」
メーアはそう言いって手を挙げるそぶりをすると、五体の騎士ロストは徐々に距離を詰めてくる。
「あひゃひゃ!じゃあさ!降伏するかていこーするか!どっちにする?」
緑髪のメーアは目を見開き、手を広げ、狂気じみてそう言った。
「───そんなの。」
「抵抗するに決まって──」
その時、身体中に痛覚で一杯になった。
骨が折れる音、そして痛覚は右腕に集中する。
「ッ…!」
「マ、マサ!」
目の前には右手を振り下ろした装甲のロストが目の前に立っていた。
「いつのまに…ッ!」
その一瞬の隙をついた装甲のロストは更に左手で右腹目掛けて拳を振り始める。
「心…壁ッ!」
かろうじてその攻撃は防ぐものの、連撃を何度も何度もロストは行う。
(守るッ!守…るッ!)
(俺は…守れれば…それで…。)
「マサッ!!あぶないッ!!!」
絶望か、。
俺は…少しでも絶望してしまったから…ロストを生み出してしまったのかもしれない。
(親父、お袋…ごめん。俺には何も守れなかった…。)
◆◇◆
【影の世界】─数分前─
一人、眠るように倒れていた。
虹色のフードを被った男、九鬼光之助が。
「…あれッ、人間?珍しいなぁ…。ダイジョブか?」
その傍らには、黄色の髪に顔に大きな傷おったエゴロスト【ライザ】が九鬼の顔を伺っていた。




