九話・守護者
マインドウォーカーは突如作戦会議中に現れた、【教会】の二人との戦闘に巻き込まれた。
一人はホーライという表情の種類の少ないエゴロスト。
戦闘では、現時点マインドウォーカー最強の男、城戸を自身の能力と判断力で圧倒した。
二人目はゼノンという二メートル近くある鬼のような仮面を付けたエゴロスト。
同じく戦闘では、ロストに対する耐久力に優れている加賀に対して多数打撃を加え、重傷を負わせた。
その中で…影山はゼノンとの戦闘で呼び覚ますのであった。
◆◇◆
【T市・洋館─午前0時─】
「か、影山クン…!大丈夫かい!?」
「…え?今僕…。」
僕は自ら斬撃型を握り、ゼノンに立ち向かっていた。
…やっぱり僕の体は覚えている。
ロストが近づく危機感、瞬間的な回避、斬撃型の使い方…これらすべて含めてもまるで別の人生を今まで歩んできたかのように感じる。
いや、実際そうなんだけど…。
「…影山クン…君はやっぱり…。」
「は、はい…?」
博士は僕を見た。
その顔は安心しているような、そんな顔に見えた…。
「いや、何でもない…。城戸クンの様子を見てきてくれるかい。」
「わ、分かりました。」
影山はそう答え、中庭まで走っていく。
博士はそれを見送った後、犬山に重傷化している加賀を任せ、竜崎のもとへ歩いていく。
竜崎は下を向いたまま、考えている様子だった。
「竜崎ク──」
博士はそんな竜崎に声をかけようとすると、玄関の方からインターホンの音が聞こえた。
「…ん?こんな時間に誰かね…?」
「もしかして弱っている俺らを狙って、また新たにロストが…?」
竜崎はそう答えると、その時こちらに歩いてくる音がしてくる。
ゆっくりと、踏みしめるように。
「…竜崎クン、すまないが戦闘態勢になりそうだ。」
竜崎が頷くと、ゆっくりと同時にドアが開く。
「──よぉ、助けに来たぞ。あれ…?もう皆お疲れか?」
「なんで君が…?」
そこにはポケットに手を突っ込み、ガムを噛む青色の瞳のオールバックの男が立っていた。
博士が驚く理由、それは
──行方不明になっていたはずの特殊局隊員『神代 大和』が立っていたからであった。
◆◇◆
【同時刻】
一方そのころ、金崎は薄暗い世界に閉じ込められていた。
「……。」
空気が歪み、現実味を帯びないその灰色世界に目を奪われている金崎は言葉を失う。
立ち並ぶビル、歩く人々、そして──
(…俺の…家…だ。)
金崎の目から水滴が流れ落ちる。
感情が溢れそうになるのを抑え、家に向かって走り出そうとする。
手を掴まれる。
──進めない。
ぬかるみに突っかかったように手を引っ張られて進めないのだ。
(行かせてくれ。俺の家に──)
「…だ──」
(声が聞こえる…でも行かなきゃ…)
(親父、母さん…今度は…)
「…だめッ!行っちゃだめだからッ。」
「……。」
「マサの過去は…分かってる。でも飲まれちゃだめ。」
金崎の手を掴んで進ませようとしない主は、同じサポート課の柴野 霊歌であった。
強く握りしめ、「お願いだから」とせがむように手を掴み続ける。
「マサッ!」
金崎は前を向き、ひたすらに進もうとする。
「俺は…家に…」
「…マサッ…そこには何もないよ…。」
柴野は手を引っ張りながら、金崎が指し示す方向を見ると、金崎が見えているような世界は無く、ただ平坦で薄暗い、ひどく空間が歪んだ世界が広がっていた。
『…あひゃひゃひゃ!いいカンジに育ってきたねェ!』
「…え?」
後ろに声を感じ、柴野は後ろを向く。
「…ッ!?」
そこには騎士の様な合計五体の大量の【ロスト】と、声を発した、黒いコートを着ている緑色の髪をした八重歯が特徴的な【ロスト?】の一体が居た。
(確か…声を発するロストは自我と知性を持つロストは【エゴロスト】って博士から習って…)
「あひゃひゃ!ボクちんの名前は【メーア】!!」
奇声をあげ、話す姿はまるで常軌を逸した子供の様な狂人である。
「…あなたが、エゴロストなのね…。」
柴野は恐怖した。
博士が言うには、エゴロストは他のロストと比べ戦闘能力、思考力があるらしく、
そんなものを相手を出来るのは戦闘局の上位層か特殊局しか歯が立たないというのだ。
メーアと称する男は金崎を指さしながら、はしゃぎだす。
「生まれたー!!!あひゃひゃ!かっこいいッ!!ボクちんのおかげだね!」
「え…?」
柴野は思わず金崎の方を向くと、人型で全身に鎧をまとったような黒い何かが金崎の近くに立っていた。
「…ッ!」
柴野は咄嗟にポケットにしまっていたピストルほどの小型のロスト排除装置<放出型>を取り出し、光弾を放つ。
だが───
「な、なんで…?」
全くと言っていい程、効いていなかった。
「あひゃひゃ!すっごいなぁ…装甲のロストだぁ…!」
「よーし!試しに殺してみてよッ!その子をッ!」
メーアはこちらに指を指すと装甲のロストと騎士のロストがこちらに距離を詰めてくる。
柴野は自衛のため、放出型で何度も撃つ。
だが、のけぞるどころかズンズンとこちらの方に迫ってくる。
───その刹那、柴野が掴んでいる気を失ったように動かなくなった金崎の手がピクッと動いたような気がした。
◆◇◆
“俺は昔から為りたかったものがあった。”
「…母さん、俺警察になろうと思ってるんだ。」
「あんた、この前は自衛官って言ってなかった?まあ、マサが為りたいものになれるなら私はこれ以上幸せなことはないよ。」
警察だった俺の親父は中学二年生の頃に殉職し、母は女手一つで俺を育ててくれた。
───だが二年前のある雨の日、そんな母を亡くした。
その日は家に帰った途端、いつもにぎやかな家が静寂が訪れていた。
いつもは家に帰ると「お帰り」と声をかける母と愛犬が居るのに、
その日は…。
「…母さ…」
「あぁ?」
リビングに入ると、肉片と化した何かと血だまりであふれていた。
そしてその傍らには薄黄色の髪をした黒いコートの男が居たのが今でも頭から離れない。
俺がもっと早く家についていれば。
《お前の…母さん…最後までくだらねぇことばっか言ってたぞ…》
《『マサには手を出さないで』ってな。》
《下らない愛情は嫌いなんだよ…糞がッ。復讐するなら来いよ、俺様の名前は──》
《──アルゼル。》
俺はこの日から、守れなかった罪悪感が心のどこかでさまよって離れない。
…今だから言える。
“俺が為りたかった”のは──ホントは…警察でも自衛官でもない。
『大切な人を守る力を持つ人』だったんだ。母さん。
◆◇◆
「あぁもうじれったいッ!装甲のロストォ!やっちゃえー!」
装甲のロストは号令の通り、突進するように走り出すと、鎧のついた大きな拳を柴野の目の前まで振りかぶる。
(ッ…!誰か…助けて…!)
もう止められない。
死のカウントダウンは始まっていた。
拳が柴野の顔を圧し潰す──
──ことを拒む者が一人いた。
「…【心壁・庸】」
柴野の顔の前に光輝く壁が現れ、ロストの拳からの攻撃を遮断する。
「…は、はぁぁぁぁぁ!?なんでなんで!?!?」
金崎はメーアに対して背中を向けたまま、こういった。
「ヘーワかメーアか知らないっスけど…これだけは言えるっスよ。」
「───俺は絶対に守る。って事っスね。」
「……つまんない。」
他の五体の騎士のロストは後ずさりをすると、メーアは不服そうに金崎を睨みつけた。




