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マインドウォーカー  作者: ラーメン
襲撃編
11/35

八話・抵抗は希望で

【洋館・中庭にて】


辺りは暗く、夕方に差し掛かり、雪はゆらゆらと踊り舞うように降る。


(…ぶち上げるとは言ったものの、犬山さんが作ったこの<高出力ブースター>の一発を耐えてやがるのか…。)


壁をも突き破ったあの威力で倒れこまずに立っている。

そんなホーライを城戸は不思議そうに見ていると、ホーライが口を開く。



「…読みは外れましたが…軽傷でよかったです…。」

「はッ…?」


───城戸は目を疑った。

ホーライの横腹をかすっているだけで、ほとんど命中していなかったのである。


(…いや、確かにあの時中心を貫いて…まさか…こいつ、当たる直前に避けてやがったのか?)


とてつもない危機回避力、手から発する炎。

そして能力の奪取。


これに対抗する術が…城戸には思い浮かばなかった。


「危なかったですよ…本当に。」

ホーライは偽りの笑顔で城戸を挑発する。




──その時、城戸は後ろに気配を感じる。


(くそ、ホーライに後ろを取られちまっ…違う。これは…もう一体のロスト…!?)


咄嗟に後ろを振り向くと、そこには細長く、手が槍のような構造の黒いロストだった。

それは顔と思し部分が変曲し、不気味にニヤリと笑ったように城戸を見下ろす。


だがそのロストは一瞬で姿を消す。最初から何もいなかったかのように。


(瞬間移動のロスト!?まさか…。)


そこで城戸は加賀や竜崎と話していた事を思い出す。


─────


『…実は、博士にも言っていないことがある。』


影山を救出した時、加賀に言われた一言だった。


『ホーライに瞬間移動のロストを回収されちまった。俺らは逃げるのに必死だった…。』


────


マインドウォーカーとは、人の闇から生まれる【ロスト】を討伐し、鍵穴に手元の鍵【リベラ・キー】を使って完全に消す、というのが使命としてある。


その使命を果たさず、放置された鍵穴が現れたロストはどうなるのか。


「瞬間移動のロスト…英ちゃんが回収し損ねて復活されたパターンか…。」


(…ん?確か…)


そして討伐され、鍵穴が現れたロストを復活出来るのは、知性と自我を持った【エゴロスト】のみである。


「…お、お前まさか…。」

「えぇ…一度消えかけたロストを元に戻しただけです。」


───ホーライは偽りの笑顔でそう語った。


(………。)

(ちッ!?また回り込まれ…ッ畜生…イチかバチかだァ…ッ)


城戸は足に力を入れながら足踏みをすると超高速で回転数が上がっていく。

一秒間に10回、100回、1000回と──。

その足元にある草が足踏みで摩擦が起き、火種となって城戸の足元がほのかに燃えていく。


(よっしゃぁ!当たりッ)

「【速脚・暴】ッ!!」


城戸はその足で高速でその場からすぐさま離れ、ロストの手にある槍での攻撃をかわす。


「ただ避けるだけだと思うなよ…!」


それと同時に攻撃した直後のロストの背中目掛け、ジャンプする───。


「俺の派生能力ッ『火炎大車輪』ッ!」


ジャンプした城戸は、体全体を回転させるようにうねり、ロストに向け、蹴りを三回食らわせる。

一発目はロストの頭、二発目は背中、三発目は更に力を籠め、同じく背中へ───。


ロストは前方にいるホーライの方に吹っ飛んでいき、体からは鍵穴が現れる。


(よしッ…。このままホーライ自身にも追い打ちをかけられる。)


城戸はこの戦闘で分かったことが確実に一つだけあった。

それは…ホーライの能力奪取は()()()、だという事。

そのことを踏まえ、城戸は討伐に自信を持っていた。


「ふふふッ…。なるほど。」


だが───ホーライの思考はその一歩先を行っていた。


前方から蹴られ投げられた瞬間移動のロストが向かっているのに対し、ホーライはコートのポケットに左手を入れたまま、向かって来ているロストに向け右手の掌を広げ前に出す。


「【奪取】…。」


()()()()()()でその言葉を口にする。


「ホーライッ…()()の速さでぶっ飛ばしてやるぜぇ!なんてなッ!」


城戸は吹っ飛ばしたロストがホーライに降りかかる直前を見計らい、一瞬の間で後ろに回り込む。


だが、ホーライの背中はそこには無かった。


目の前に向かって来ているのはただ、鍵穴が開いたロストの亡骸だけだった───。


(げッ…嘘だろ…ッ!)

その刹那、またまた後ろに気配を感じた。


背中に痛覚──。

蹴られていた、背中が捻じ曲がるほどの痛さだ。

気までは失わなかったが、城戸が吹っ飛ばしたロストの亡骸とぶつかり合い、反対方向にある庭の壁に激しく追突してしまう。


ホーライはゆっくりと足音をたて、うつ伏せに倒れている城戸の所まで歩く。


城戸は立とうとする。

しかし両足は完全に動かない。

感覚は無く、もう手でどうにも出来ない。


「…貴方の敗北の原因、分かりますか?」


ホーライは小さく語り掛ける。


「…あぁ。」


◆◇◆


俺は分かっていた。


『城戸、あとは…お前に…託す…。』


特殊局の崩壊。

それによって俺は順位的に隊長を任され、どのマインドウォーカーにも尊敬されるような、あこがれる存在になっていった。


ロストを討伐する度に賞賛され、それによる報酬もそこそこあった。


だが、それらの事が日々続く中で、元々浮浪者だった俺が感じた事はただ一つ。

───『慢心』、だった。


俺自身は恵まれていて、才能もある。だから《死ぬ気》で本気で戦ったこともない。

その自信過剰さが、俺を負けに導いたんだと今確信している。


◆◇◆


「やっぱりあの速さでまだ、本気で戦っていなかったんですね。」

「……あぁ。」


城戸は強がった様に言った。

まだ、本気で戦ったこともないのに──。


「そうですか…。ならば…」


その直後、ホーライは思いもよらぬ一言で城戸を驚かせた。


“…その才能を、こちら(教会)で生かせませんか?”


「あなたのその強靭な能力、こちらで相当活躍出来ますよ…?」

「嫌だね。」


城戸は拒否をし、もう一言付け加えるように言う。


「知ってるか?才能ばっかり語ってると…()()に見えるんだぜ。」

「ふふふッ……そうですか。」


城戸はこの時点で死を感じていた。

だが城戸は、絶対に<絶望>だけはしないと心に決めている。


城戸は崩壊の()()()約束したのだ。

特殊局隊長【真道(しんどう)】と─。


「…意志を持った【管理者】はいりません。処分、致しますね…。」


ホーライは城戸の前でしゃがみ、顔の前まで右手を近づける。

その右手は赤く燃え始め、顔に熱を感じてくる。


『城戸、あとは…お前に…託す…。だが…忘れないでくれ。何があっても絶望はするな…。絶対に、マインドウォーカーが助けに…希望を注いでくるから。』


耳に何度もこびり付いた声が鮮明に聞こえた気がした。

城戸はその言葉を信じ、ゆっくりと目を閉じる。


手が迫る。

顔だけでなく、体全体が熱を帯びたように震えだす。

これは死への恐怖なのか、それとも炎の熱なのか定かではなかった。






そして一人の人生がここで幕閉じようとしていた───










はずだった。










『ホ、ホーライッ!』

「何ですか…アルゼルさん。こんないい時にお得意のサイコパワーで私にテレパシーを送って何のつもりでしょうか?いまから殺処分を──」


『ち、違うんだよッ。あ、あの影山ってヤツがゼノンに抵抗してるらしくて、そ、それで金崎ってやつも【影の世界】で(あらが)ってて…そ、それで…ホロス様が緊急会議があるからホーライを、そ、その強制ワープさせろって…。』


「…なるほど。ホロス様が言うなら…分かりました。」

『でも…そ、その男はどうするの?』


ホーライは気を失ってしまった城戸を見る。


「絶望心で埋め尽くされてから…確実に処分致しますよ。」


そう言うと、ホーライの足元から薄暗く(よど)んだ黄色の円型のゲートが現れ、黒い液体があふれ出し、ホーライの体を包み込み、その黒い液体とともにその場から消えていった。


◆◇◆

【T市・洋館─数分前─】


「──私が相手だ。」


博士が呟いたその言葉は実にか細く、焦りが見える。


「うぅ…。」

「博士ッ!だからダメだとッ」


博士は腹を押さえ、息苦しそうに息を整える。

犬山は博士の肩を抱え、やめるように促す、だが博士は聞く耳を持たなかった。


「私は…マインドウォーカーだ…この意味が…分かる…かね?」

「博士ッもう話さないでください…博士は一年前のあの時の能力の使い過ぎで…体に支障が。」


「希望を…注ぐ者…それが…」


「『マインドウォーカー』」

「博士ッ話を聞いてください…!」


『ハハハッ滑稽だな…死せよッ…ハハハ…。』


僕の方を向いていた巨蛇は、急に博士の方へ向き、大きな口を開け襲い掛かる。

その直後、体が軽くなったように感じた。


(標的が変わった途端…体が軽くなった…?)


(いや…そんな事より…ッ)


その状況下で、僕の体は勝手に()()動いていた。


「…ッ」


食らいつこうとする巨蛇の大きな首に飛び乗るように、持っていた<斬撃型>で刃先を合わせ、力一杯振り絞り首を切り落とそうと試みる。


突発的に動いたのはなぜだか分からない。だけど…僕が今すべきことは、皆に…。


影山は無意識に口を開き、声に出す。


「…ッ!!ゼノンッ…!俺がすべきことは…お前をッ!」

『…なッ…貴様ッ』


──力を込める。

体の底から湧き上がる力を糧に思いきり。


「ぶっ潰すッ!!!(希望を注ぐことだ)」






『ゼ、ゼノンッ!ごめん強制ワープッ!』


しかし、目を逸らした瞬間、『誰かの声』と同時に影に隠れているゼノンの元に薄気味悪いゲートが現れ、巨蛇と共に一瞬のうちに消え去ってしまっていた。


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