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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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第68話、異世界冒険者は、ズボラな研究者気質なお母さん



SIDE:ローサ(inサーロ)



待機中、準備中の先生たちが待機するといった場所も場所であるし、そんな先生たちが、不意に現れた大所帯に注目している状況であったから。

エイミさんの一声で一旦、エイミさん専用に宛てがわれていると言う研究室ラボへ招かれることとなったわけだけど。


そんなエイミさん専用のラボは。

魔法を扱うための触媒などがある一方で、やはり『健康診断』と言う言葉を知っていて、それをこの世界に広めようとしていただけあって、仮面越しながらラルちゃんが興味津々で目移りしてしまうくらいには、この世界だけでなくラルちゃんの故郷ですら中々にお目にかかれなさそうな物で溢れていた。




「うわ。何だか見たことがないものでいっぱいだね。熟練冒険者なボクでもお目にかかったことのないもの結構ある感じ?」

「……そうか。あのグレアム邸にあった画期的な魔道機械も確かエイミさんの肝入りでしたっけ。これは興味深い。時間があればいろいろ聞いてみたい所ですね」

「いやぁ、散らかっててごめんなさいね。今ちょっと片付けるから」



何故だか偉そう(だけど可愛い)に胸を反らしているイゼリちゃんはともかくとして。

案の定、ラルちゃんはここへ来た目的も忘れそうになるくらいに、未知なるものに興奮している風なのが見て取れて。


同じくそれに気づいたエイミさんが、少しばかり気まずそうな苦笑を浮かべつつも慣れた様子でさささっと散乱している……主に電気、この世界で言うのならば【ガイゼル】の魔力を素に扱うであろう細かな道具たちを移動させ、皆が座れる程のスペースを作ってくれた。



「ふぅむ。ワタシは機械仕掛けと言うわけでもナイはずデスが。秘めた魔力のせいですカネ。やはり母様はワタシの母様ナノですね」

「ちょっとぉ、それってズボラな片付けられない所見て言ってるでしょう」

「フフ、どうですかね?」


あれよあれよという間に雑多な、いかにも研究室っぽい場所が、そんな母娘なやりとりをしつつもテキパキとした動きで綺麗になって。

やんごとなきラルちゃんを迎えるにふさわしいサロン……と言うには大げさかもしれないが、とりあえず体裁は整ったようで。

その様子をお客さんの前で見せてしまう事がなければ完璧だったのになぁ、なんてのは当然口には出さなかった。


そんなやりとりで判断したわけではないが。

やはりエイミさんはラルちゃんの故郷ともまた違う異世界の住人なんだなぁって気づかされてしまった。

ラルちゃんが、その世界へ冒険しに行った事はなさそうな感じだけれど。


恐らくは魔法ではなく、科学が。

あるいは、魔法とはまた違った不思議な力が蔓延る世界のどこかの出身者だと言えるだろう。


当然、俺の分け身、もうひとりの自分とも言える存在がそこにもいるはずで。

もしかしたら、どこかでエイミさんと顔を合わせた事もあるかもしれないが、今となっては別人に変わり果てているためにそれもままならず。


そんな事を考えている間にも、別にメイドさんとかではないはずなのに、タナカさんとの出会いに感化されたのか、御者も率先してかって出てくれていたリーヴァさんが、いつの間にやらそこにあったテーブルの上に匂い立つお茶などを用意しだして。


それにエイミさんは、ごめんなさいねぇ、なんて。

存外に慣れた様子で一声添えて。

ラルちゃん……正確には同じ席に一緒になって座る(体格が同じくらいなので抱えて座る事ができないのが素敵なところ)アイちゃんを中心に。

なんて言うかようやく本題……俺たちがここに来た理由、その先へ向かう話題に移ることとなる。





「……ああ、そうだったのね。ダーリンがくれぐれも丁重にお迎えしなさいってしつこいくらいだったのは、ラルちゃんだけじゃなく、あなたのこともあったからなのね、アイちゃん」

「……え? ええと。すみません。のあさんのお母さん。わたし、どこかであったことありますか?」

「ええ、『ブラシュ』の王城でね。こちらから一方的にお見かけしただけだけれど、確か水の都の末姫様……だったかしら」

「っ!」

「ええっ? アイちゃんてお姫様だったの? あ、でも言われてみればそんな感じはするよね。ラルさまと一緒にいても年の近い姉妹みたいだって思ってたもん」

「って、あらら。これって言っちゃまずかったみたい?」

「お母様……空気の読めないお父様じゃナイんですカラ」

「うわぁ、そう言う言い方されるとぐさぁってくるわね。致命傷よぉ」



ある意味本人の口からでない、衝撃の事実。

反応は様々だったけど、『ブラシュ』で起こった件に顔を突っ込んだことで、なんとなくそうじゃないかなぁって思っていたのは俺だけじゃなかったらしい。

話してなくてごめんなさいと、縮こまって恐縮しているアイちゃんを、ラルちゃんはわかっていましたよ、とばかりに優しく抱きしめているのが分かって。



「そう言う事で、今回こちらに伺ったのは、『ヴァレス』と言う山越えのための許可をいただきたかったからなんです」

「あ、そう言うこと。だったらちょうどよかったわ。ちょうど『レミラ』ちゃんの学年で、山での実地体験学習が行われるところなのよ」



私の権限をもって、みんなを特別に体験学習の参加者としてねじ込んじゃいましょうと。

ついさっきまでのことも忘れて胸を張ってエイミさんがそう言ってくれたから。


いよいよもって、事態が動きそうだなぁとしみじみと思う俺がそこにいて……。




     (第69話につづく)









次回は、5月4日更新予定です。

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