第66話、結構買い被られているどころか、きっと勘違いされている
SIDE:ラル
サーロが突然【風】の魔精霊の少女、ローサになってしまうだなんてある意味何ともご都合主義な奇跡がなかったとしても。
こんな事もあろうかと皆の制服を用意しておりました、なんてリーヴァのセリフからも分かるように。
どうやら学園都市【ヴァレンティア】は。
いや、厳密に言えば【ブラシュ】へ向かう事のできる『ヴァレス山』を管轄するのが、魔法を扱う少女達……いわゆる魔法少女たちの育成を主にしているという【ティア】学園であるため、基本的には女性しか入れないという事になっているようで。
いよいよ学園の敷地へと足を踏み入れて、すぐさまその事実に気づく事となったローサの百面相がなんだかおかしかったけれど。
内心でラルは、このような事態を見越してサーロは彼女と入れ替わったのかと、感心しきりであったのは確かであった。
故郷でなくとも様々な異世界における彼は、事前に異世界へ冒険しに行くと告げてもいないのに、まるで先見の明でもあるかのように先回りして……色々とフォローしてくれることが多かったのだ。
きっと今回も、学園へ向かうために必要であったという第一の理由はもちろんのこと、傍にいることには慣れたというか納得していても、故郷であった事を思えば、近くで顔を合わせていると逃げ出したくなってしまうラルの習性というか、心理を読んでいてくれているに違いなくて。
そんな気遣いが嬉しいからこそ、かえってローサから目を離せないというか、引かれて避けられそうになるくらいにはくっつきたくなってしまうラルがそこにいるわけだが。
そう言う時に限って、実は恥ずかしい名前がついているだなんて知る由もない仮面が仕事をして。
ある意味本当のラルらしいそんな様子も、正しくは伝わってはいないようで。
よくは分からないけれど、ローサになった途端随分と過保護になったような……過剰なスキンシップが正直堪らないんですけど、我慢するしかないのか。
これで最悪のタイミング……男子禁制の学園にて元に戻ったりなんかしたら、目も当てられないどころか死ぬるな、などと思われている事にも気づく事はなく。
そんなこんなで、馬車を【ティア】学園敷地外の守衛室に留めおいて。
グレアムの通行手形というか連絡が効いているらしく、問題なく皆が連れ立って案内されたのは、『職員室』と呼ばれる場所であった。
かつて学園に通っていて、こういった独特な空気感のある場所に慣れている部分のあったラルは。
失礼しますと一声かけてから、一番に入室していく。
グレアムの妻であるという取次相手……教師をやっているという彼女は、どこにいるのだろう。
さすがに、教師も女性ばかり、というわけではなさそうで。
老若男女、様々な種族の者達が、仮面にマント姿に加えてその一声と存在感がダダ漏れなラルに何事かと注目される中。
そう言えばそんな彼女の名前も顔も知らないんだったと内心で途方に暮れていると。
続いて入ってきた仲間たち……その中に当然ノアレの姿もあって。
ノアレ自身は、生まれたばかりかつ休眠状態であったため彼女の姿を見たことがなかったわけだが。
当然、彼女の方は未だ目覚めずその時を待っていたノアレの姿を目にした事があったらしい。
「あ、娘ちゃんにみんな~。こっちよ、こっち~!」
一児……いや、二人の娘の母、教師にしては随分と若く溌剌とした、栗色ショートボブの女性が。
こっちよ、とばかりにぶんぶんと大仰に手を振っているのが分かって。
「……印象としては少しバカリ意外ではありマスが。彼女が御母様で間違いないヨウですね」
無表情ながらも、何だか苦みばしった笑みを浮かべているノアレに従うように。
ラルたちは、招かれるままにそちらへ向かって行くのだった……。
SIDEOUT
(第67話につづく)
次回は、5月1日更新予定です。




