第60話、変わる理由は、存外お気に入りなのだと知っていたから
SIDE:ラル
魔王的存在らしくものごと、リルまで消し去るように還してしまったから。
本心としては、その後どうなったのか今すぐにでも確認しにいきたいラルであったが。
故郷や自身のことよりも、黙って無茶した二人の事を心配していたアイのためにと。
ローサ(inサーロ)と一緒になって、『ブラシュ』での冒険譚をお互いの視点をもって語っていたら。
いよいよもって陽が昇って朝を迎えてしまったこともあり、とりあえず状態も状態であるのでしばらく惰眠を貪りたいと主張するローサを引っ張って、取り急ぎ他のメンバーとも情報を共有せんと、朝食の準備がなされているであろう、グレアム邸自慢の会食の場へ向かう事にしたわけだが。
「……あっ、おっはよー! アイちゃんにラル様~っ、って。ええと、どなた?」
タイミングよく部屋を飛び出してきたイゼリが、案の定こうなると思ってたんだよなぁ、なんてぼやいていたローサに目ざとく気づき、首を傾げる。
ローサは確かにサーロらしい苦笑を浮かべつつ。
それでも泊まらせてもらっているだけでなく、三色食事付きの大歓迎を受けているからして、自身がサーロであることの説明は必要だろうと、一息吐いてそれに答える事にして。
「あー、うん。そのさ、サーロです。いつぞやのイゼリちゃんにお願いした時のように、調子こいて変身したらあれだ、戻れなくなっちゃってさ。何ぶん初めてのことなもので、いつ戻れるかもはっきりしないから、一応その事を頭に入れてもらった上で、この姿の時は『ローサ』と呼んでもらえると助かりますよ」
「えっ? 戻れないの……ですか? ああ、そう言えば彼の一族には時折そんな状況になる事があるんでしたっけ」
何ぶん不可抗力というか、まさかこんな事になるなどとは思いもよらなかったサーロである。
こうして一人一人にいちいち説明するのもそれこそ面倒くさいし、もうこの際朝食の場でまとめたいと思っていたら、その言葉に真っ先に反応したのはイゼリではなくラルの方であった。
「あ、ごめん。そう言えばラルさまにも細かいことは説明してませんでした」
「いえ、レスト族の種族特性ですよね。事情はある程度は理解しているつもりです。ずっとそのままって事はないでしょうから、せっかくですし、今のこの状況を楽しむべきじゃないですかね」
かと思ったら、どう見てもサーロでそこにいる事よりも、ローサとしてそこに在る方が自分が楽しいとでも言わんばかりなラルのセリフ。
薄々そんな気はしていたというか、確かにこの女性ばかりの救世主さまと愉快仲間たちの中でも浮かずに馴染めるだろうと思えば、そんなラルの提案に、より一層苦い笑みを深めて頷くしかないローサがそこにいて。
「ふーん? ラルさまが大好きになっちゃってついてくることになっちゃった子がまた増えたのかと思ったらなんだ、サロにぃかぁ。言われなきゃわかんないよね、変身の魔法? マジックアイテムだっけ? どう見ても可愛い女の子にしか見えないじゃん」
「だ、大好き!? って、そんなっ」
「って、おいぃっ。やめろって、いきなり抱きつくなっ、無造作に触り倒すんじゃないっ!」
たとえ仮面をつけようとも、生来の『人たらし』である自覚がまったくもってないのか。
急にそんなこと言われて、面白いぐらいにあたふたしているラルを脇目に。
どこからともなくラルに捕まっちゃった、知らない人ではなく、中身がサーロであるとそう言いながらも確信を持てる部分があったのだろう。
それでもいつもにもましてスキンシップ過剰にベタベタぺたぺたしてくるイゼリに。
結局中の人はヘタレなサーロであるからして、たじたじの辟易でされるがままになっていると。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、リーヴァやノアレまでもがやってきて。
「……何だか昨日からずっと騒がしかったですけれど、何事です? おや、新顔さんですか?」
「ウーン、アレは見たことのある魔法構成デスね。見事な変わり身っぷりでスガ、十中八九サーロ氏が化けたモノナノでしょう」
「ふむ、これは新たな強力ライバルが現れたのだと、判断するべきなのかどうか、迷いますわね」
語る間もなく、その騒ぎの中心にサーロが、あるいはラルがいることに気づいたらしい。
そのまま囲まれるように、食堂へ向かうことになって。
結局いつもと変わらず、連行されている気分になりつつも。
今まで確かに浮いているような気がしなくもなかったから。
ラルの言う通りに。
せっかくだから、今この瞬間を楽しむべきなのだろうと。
再度大きく息を吐いて、自身を納得させている風のローサがそこにいて……。
SIDEOUT
(第61話につづく)
次回は、4月12日更新予定です。




