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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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第61話、救世ちゅ、当初の目論見通りタダでゲットする



SIDE:ローサ(inサーロ)


 

そんなこんなで、短いようで長かった、いろんな意味で波乱万丈な一夜が明けて。

旅立ち前の、高貴なるヴァンパイア一家の、アンニュイながらも大層な歓待を受けた後。


救世主なラル様と愉快な仲間たちは、取り急ぎ元々向かう予定であった、魔法学園都市『ヴァレンティア』へ向かう事となった。


ラルちゃんの本音と言うか本当の所は。

『ブラシュ』にてなした救世について、その後どうなったのか確認できていなかったから、今すぐそちらへ飛んでいきたいはずなのだが。


ラルちゃんの一番のしもべにして歌って踊れもすると言う、とっても優秀な使い魔にして癒し手なリルさんは。

ラルちゃんの、力の加減が分からず勢い余ったすべてを断罪する一撃の余波を受け消えて……どこへともなく還ってしまったため、しばらくは呼び出せない、とのことで。



そんな何だか切なくて苦労性な感じがしなくもないリルさんと共に行動した俺、ではなく。

ヴァーレスト】の魔精霊な少女の姿をとっているらしいローサが、お馴染みの便利な移動魔法、【リィリ・スローディン】を使って一足先に見てくるなり、みんなをまとめて運んだりできれば話は簡単だったのだけれど。


一人もしくはほとんどあってないようなリルさん程度ならば移動できても、みんなを纏めてというのは中々きついらしく発動しなかったというか、そもそもそれ以前に今のこの姿で調子に乗ってしまった無理がたたったのか、しばらくはろくに魔法も使えない……それこそ、リルさんみたいに(残念ながら耳にしたことはないけれど)歌うくらいしかできないぽんこつ状態になってしまっていて。



そんな状況の俺……ではなくローサ(おねえちゃん)さんを一人で『ブラシュ』に向かわせるわけにはいかない、と。

ラルちゃんとアイちゃんに心配げにすがられてしまえば、一人勝手に飛び出すことなんでできるはずもなく。



その結果、俺たちは今、グレアムさん達のお見送り御一行を引き連れて。

随分と長いこといた気がしなくもない、『ウエンピ』の町を出る事となったわけだけど。




「……むむむぅっ、ラル殿がかの魔王様の系譜であらせられ、道行きを憂う事など無礼なことは重々承知しておりますがね。この我輩を共にとはもう言うませぬが、我のホムンクルスどもを共に付けてはもらえませぬか? 馬車馬でも、肉壁でも、如何様にも使っていただいてかまいませんが……」

「「「……」」」


思えば初めてこの街に来た時、やっぱり調子に乗ってイゼリちゃんに化けたままでいた俺を、無表情で追い掛け回していた屈強な男たちを。

ずずいと前に並べ、その鋭い爪を隠して懇願する勢いでそんな事を言うグレアムさん。



「共のモノはいりませんといっているデショウ、お父様。花も恥じらうマスターのパーティに男性は必要ナイのデス。メイド長のタナカサンならば大歓迎ですケレド」

「……お嬢様が私めを共にとおっしゃるなら従いますよ。準備はできております」

「おおぃっ、そんな事駄目に決まっておるだろうがっ、タナカなくしてどうやってこの町を回す気かっ!」


グレアムさんとしては、ラルちゃんと言うよりも、生まれたて目覚めたて契約したてのノアレさんが心配でならなくてついていきたい所なのだろう。

しかし、当のノアレさんはそんな親心にも気づかないふりをして随分とつれない感じで。

それに合わせるようにタナカさんがどこからともなく四角くて大きな旅行かばんを掲げるものだから。

目覚しい発展を遂げているこの『ウエンピ』を牛耳っているのは、グレアムさんではなく実はタナカさんだった。

だなんて町の入口にて町民の視線のある中、晒されてしまったわけだが。




「ふふ。縁あって契約までしたんです、責任をもってお守りしますから大丈夫ですよ」

「まぁ、もしかしなくてもこの世で一番安全な場所かもしれませんね。それこそ、魔王クラスの輩に襲われない限りは」

「えー、メイド長さんついてくるの~? まぁ、それならそれで別にいいけどさ。ボクは過去は振り返らない女だからね」

「いえ、お言葉は嬉しいですが。主の言う通りこの町が立ちいかなくなったら奥様に申し訳がたちませんので」



タナカさんの言葉に、あからさまにホッとした表情を浮かべるグレアムさん。

どうやら、無表情なタナカさんの、彼女なりの冗談のようなものだったらしい。

掲げた旅行かばんを、そのままノアレさんに手渡して。

僅かばかり表情を崩し笑みを浮かべ、しずしずとグレアムさんの背後に屈強なホムンクルス達を引き連れ下がっていって。



「ぐぅ、そこまでおっしゃるのならば。お任せいたしますが……はっ。そうでした。であるならばせめて、我が一族謹製のマジックポーションを、旅のお供にどうでしょう?」

「……っ、そうですねっ。備えあれば憂いなしです。旅の必需品は多くあってもいいと思います。いただきましょう!」



実は密かに、ただでお高いマジックポーションをもらっちゃうのを願ってましたと言わんばかりの。

隠しきれぬ意気込みようを見せるラルちゃん。


しかもラルちゃんが狙っていたという、いわゆる最大HPが増えるらしいマジックポーションも、しっかりその中に入っていたようで。

何とも言えぬ、ほくほくで素敵な笑顔が、仮面越しにもよくわかって。



結局、みんなしてほんわかした気分になったのは。

何だか素敵な旅立ちの瞬間を迎えられたのは。


正に、その瞬間で……。



      (第62話につづく)









次回は、4月15日更新予定です。

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