第119話、【時(リヴァ)】の予言書の真実、勘違いしていたこと
SIDE:ローサ
一方その頃。
わたくしがルキアさん、イゼリさんともに宛てがわれし部屋にて就寝の準備をしていた時のことでした。
「大変ですっ! 私、大きな間違いを、いえ、気づいてしまいました!」
あまりリーヴァさんらしくない興奮した様子で私たちの部屋へと駆け込んできます。
「ど、どしたのリーヴァ、そんなに慌てて?」
「ローズ嬢がお喋りを始めた、とかかな? あるいはラル嬢が夜だからこそと抜け出したとか」
何気なく呟いたルキアさんの言葉は。
かなり的を射ていたわけですが。
リーヴァさんがそんなふたこと以外でテンションが上がることがもう一つあったようで。
「え? そうなのですか!? ちょっと後で確認を……じゃなくてですね、【時】の書の件です! 救世主さまの元に集いし11人の乙女たちについての記述なのですが、解釈を間違えて……大きな勘違いをしていたようなのです!」
「リヴァの書、ですか。ええと、その。11人の乙女と救世ちゅと言うのは耳にしましたが」
「あ、あれでしょ? リーヴァがよく読んでる予言書! ラルちゃんを助ける女の子たちの居場所がわかるって言ってたよね。始めはそこにサーロまで混じっちゃってたからちがうんじゃんって思ってたけど、実際ローサちゃん出てきたしねぇ」
「そう言えばリーヴァさんのその御本のおかげで兄さまとわたくしが違うと証明されたのですよね」
「ほう、なるほど。【時】の魔道書と言うよりは、【時】魔法そのもの、過去視や未来視ができる、と?」
「ああ、いえ。未来の、ごく限定的で抽象的な未来だけが分かるものなのですが、先程も言いました通り、解釈違いをしていたようなのです」
言われてみますと、結構曖昧なところがあるようで。
あえてみなさんの前でリーヴァさんが話題に上げるような事はなかったかもしれません。
それでも今こうして語ろうとしているのは。
相当な発見があったと言う事なのでしょう。
「今の今まで私は救世主さまを含めた属性の数と同じ12人の無垢なる乙女たちが集うことにより、この世界に訪れようとしている滅亡の危機を防ぐのだ、と判断していたのですが。12人目である【雷】属性に愛されし乙女であるソフィアさんについての記述を、調べ読み解いていくうちに気づかされたのです。私たち12人の乙女が滅び、危機を防ぐのではなく、世界そのものである12の属性に選ばれたものとして、滅びと危機をもたらすのだと」
リーヴァさんがそう口にした瞬間、しんとなるその場。
冗談か、あるいはそれこそ解読がうまくいかなかったのではないか。
そんな言葉を返したかったのですが。
リーヴァさんが、真剣な表情のままであったので。
すぐに言葉が出てきません。
でも、そんなはずはないとそこで真っ先に声を上げたのはイゼリさんでした。
「ちょっ、ちょっと待って! それじゃあボクたちが、世界を支配しちゃったりする魔王的な存在みたいじゃん!」
「確かに少々荒唐無稽にすぎる、かな。こう見えても私は悪役を演じたこともないんだけれど」
それに、芝居がかった様子で追随するルキアさん。
私も、同じように否定したかったのですが、リーヴァさんも言葉が足りていないと思ったようで。
これはあくまでもあったかもしれない可能性のことなのですと前置きしつつ続き答えます。
「例えば、私事になりますが、それこそ未来が分かる予言書を手に入れたことで私は助長するようになっていきます。ある種の万能感をもって、ギルドの受付嬢をしながら世界を裏で支配する……とまではいかないかもしれませんが、世界は自分で守るんだなんて思い込んで、ギルドに入ってくる厄介そうな依頼をこっそり自分ひとりで解決していたりしていました。それこそ、そんな私の目を覚まさせてくれる冒険者が、助長しすぎてぶくぶくに膨れ上がっていった私を止めてくれる事となる救世主さまを連れてやってくるまでは」
それは、恐らく兄さまとラル様の事なのでしょう。
助長しすぎてしまったリーヴァさんが、その後どうなってしまうのか。
リーヴァさんの言う『時』の予言書には。
未来視、可能性のひとつとしてそれが記されているようで。
「救世主様と出会わなかった私は、こっそり行っていた依頼の最中、恐らくダンジョンだと思われるのですが、そこで過ぎた力を手に入れてしまうようなのです。その過ぎたる力を行使すること、その欲に抗えなくなった私は、その身を滅ぼすだけでなく、世界に滅びをもたらそうとしていて……」
リーヴァさんのその言葉は。
正しく見てきたかのように真に迫っていました。
後にその【時】の予言書を拝見させていただいたところ、曖昧で抽象的ではあったものの、むしろリーヴァさんが聞くみんなにショックを与えないように抑えてくれていた事がよく分かってしまって。
「ええっ、それこそリーヴァ姉がそんな風になるなんて思えないけど」
「それは同意だね。……まぁ、そこまで言われると自身のものが気になるけれど」
「はい、それはもっともですね。まずはイゼリさんですが」
「ぼ、ボクっ!? ボクに魔王になっちゃうようなきっかけなんてあるのかなぁ」
「そうですね、記述を精査しますと、イゼリさんの場合、正確にはイゼリさん自身が、と言う訳ではないようです」
―――冒険者として独り立ちせんと、故郷を飛び出した【月】に愛されし少女は。
ある時ダンジョンアタックにて大きな怪我を負った。
彼女は冒険者として立ち行かなくなり、失意の中儚くなって。
その一報を知った獣王国は、最愛の娘を失ったことにより、そんな世界を滅さんと侵攻を開始する……。
「え? ダンジョン? あ、それって……えと、うん。何だかんだで父ちゃんたちならそう言う事するかも?」
ダンジョンの部分でイゼリさんはわたくしの方を見てきましたので。
察するところ、そのダンジョンアタックの際に助けてくれたのは、ラルさまではなく兄さまだったのかもしれません。
どうやら恥ずかしがってそれを認める訳にはいかないご様子。
誤魔化してそんな言い訳をするイゼリさんの何と可愛らしい事。
世界を滅びを誘うきっかけを無かった事にしたのが。
ラルさまでなく兄さまと言う事になってしまって。
そもそものリーヴァさんの改めて気づかされた予言書の真実が破綻してしまいそうであるからこそ。
そんな可愛らしいイゼリさんに。
そこにいる一同、一様にほっこりさせていただいていて……。
(第120話につづく)




