第114話、この世に遣わされた意味を知るよりも、目の前の至福のもふもふ
SIDE:ローサ
「まずは、連絡頂いたのにも関わらず対応出来なかった事を謝罪いたします。この『ヴォクージュ』国を含めた『ノード』大陸一円で、新たな連絡機構を作り上げたことで、外国への連絡手段がおざなりになってしまっていたのは事実です。少なくとも『闇の一族』については、『ノード』大陸外のみなさんにも周知すべきであったのに」
そう言って、深く頭を下げるミスミさん。
その、真摯で実直な様子を見るに、嘘をついているようには思えませんでした。
「それらを含めて、改めて謝罪と賠償を、と思っておりますが。まずは『闇の一族』について、我が国の見解を述べさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
その賠償には、『闇の一族』についての被害に対してだけでなく、連絡が取れなかったことについても含まれているのでしょうか。
リーヴァさんは当然です、といった顔をしていましたけれど。
この国での『闇の一族』の立ち位置も気になったので、ミスミさんの言葉に頷いて続きをお願いすることにします。
「『闇の一族』は、召喚魔法、あるいは召喚獣を使ってこの国を、召喚術師たちの平和を脅かす悪の組織、集団なのです。非正規の召喚魔法、その生贄のための誘拐、召喚獣の強奪、違法とされる高位魔精霊の捕獲など。ありとあらゆる悪事を行っています。このセンターの一階の掲示板には貼られ表示されてはいませんが、マスタークラスの召喚術師のみなさんには、彼らを捕縛する依頼があることも事実です。彼ら『闇の一族』の事も含めて、すぐに情報が入ってくるようにと新しき情報体系を取るようになりましたが、まさか外国にまで手を広げているとは思わず。……全てはこちらの落ち度でございます」
知らぬ存ぜぬ、と突っぱねられると思っていたこともあって。
全面的にこちらが悪い、などと言われるとは少々意外でもありました。
しかし、その話を聞くに、『闇の一族』は『ヴォクージュ』の国と関わっているわけではなく。
同じ被害者であるという事を主張したいようで。
どうして、そのような悪の組織をのさばらせているのか。
あるいは、それほどまでに規模が大きい組織であるのか。
なにか理由があるのでしょうかと、伺うよりも早く。
不思議そうに首を傾げていたラルさまが口を開きます。
「う~ん。『闇の一族』のみんなって、どうしてそんな、わざわざ悪い役をかって出ているのかな。見た感じ、この大陸の召喚士としてやっていくなら、困ることはないと思うのだけど。……たとえば、いけにえとか。そんな事しなくても召喚はできるでしょう? この世界に暮らす子たちなら、そんな代償がなくても応えてくれると思うのだけど。やっぱり異世界の存在を呼び出す理由があったりするのかな」
「……っ」
そう長い間対した訳でもなかったのに。
『闇の一族』の男たちを『役』を背負っていると。
何やら使命があるのではと、ここまでの話題をどこかへやってしまって真意を問うラルさま。
それまで流暢だったミスミさんも、思わず言葉を失うくらいで。
やっぱり関係が無いなんて言うのは嘘で。
本当は何か関わりがあるのかと問えば。
ミスミさんは一層の渋面を浮かべてみせて。
「……そうですね。元はと言えば『闇の一族』のはじまりは、私たちの王の願いを叶えようとする者達だったのです。この『ヴォクージュ』を建国した王は、才覚溢れる召喚術士で、私たちの祖先、異なる世界にて肩身の狭い思いをしていた者たちを呼び集め、国をつくりました。そんな初代亡き今は、この国で召喚魔法に最も長けた者が王となる習わしとなっています。今代の王も、『ヴォクージュ』の王として召喚魔法の才能に恵まれ、ここ『召喚センター本部』を含めた、『ノード』大陸の召喚魔法を中心としたシステム、ルールをお作りになられたお方ではあるのですが……」
ミスミセンター長は、そこまで言い切った後、何処かへと視線を向けていました。
恐らく、その視線の先にその王たる人物がいらっしゃるのかもしれません。
心配しているようにも、憂いているようにも、慮っているようにも見える仕草。
ミスミさんのそんな内心にある複雑な感情。
見た目通りの方ではないのかも、と思いつつも。
言葉の続きを待ちます。
「王は、究極にして最高の召喚者を追い求めているのです。この世界を終わらせることのできる力を持った、神にも等しい存在を」
「はいっ。そのお触れ……依頼は、すべてのセンターに周知されていました。報酬も莫大ですが、召喚契約を成功させたものに次代の王の座を約束されたことで、依頼が出たばかりの頃は随分と盛り上がっていましたね」
差し出がましく口を挟んでしまってすみません、とばかりにソフィアさんが、何やら悩み込んでいるミスミセンター長をフォローしていて。
「ですけど、それって結局、『天下一召喚王大会』で優勝するのと同じだって気づいて下火になっていきましたね。その、世界を終わらせるなんて部分もはっきりしていなくて、曖昧でしたし」
「……すると、『闇の一族』と言うのは」
「はい。元々は正規のルートで王を目指せぬ者達の集まりでした。法を犯し……彼らを罰したのは私たちですが、究極の召喚者を追い求めて大陸外へ向かう事を止められなかったのは、私どもの落ち度と言えるでしょう」
水の都『ブラシュ』から獣人の国『フーデ』に移送された『闇の一族』の部隊のリーダーのひとりハーゲンは。
その後の取り調べにおいてもすべての犯行は自分自身の意思で行ったとの一点張りであったと言う。
初めは国を、王を庇っているのかと思われましたが。
もしかすると、その言葉に嘘はなかったのかもしれません。
何故ならば、更に続く言葉には、『この世に生を受けてからの使命は成った』と。
どこか達成感、満足げな様子で。
いち召喚術士として、罪を償い続けていると聞かされたからです。
ハーゲンさんたちが求めていたもの。
あるいは、改心した理由。
何とはなしに、私には等号で結ばれているような気がしてしまって。
まさか、とは思いつつも。
紙一重の表裏一体、そのような可能性もあったのかもしれない、なんて思ってしまうと。
私も懊悩せずにはいられませんでしたが。
私の思考がそんな風に逸れている間にも、大人の……国家間のお話し合いに入っていて。
『闇の一族』からの被害を被った国の代表二人は、取り返しがつかなくなる前にそんな救世主さまに救われ出会えたのだから。
そこまでの厳罰は求めてはいなかったわけですが。
それはそれ、『水の都・ブラシュ』と獣人族の国『フーデ』には、少なくない賠償金と。
情報、知識の共有(この大陸を網羅する連絡システムなど)、そして、未だ残っていると言う『闇の一族』の捕縛を。
国を挙げて行う、と言う事で落ち着きました。
これで、私たち『救世ちゅ』が、『ヴォクージュ』へやって来た理由は一旦のところ果たされた事になるわけですが。
用事は終わった、目的は果たしたので帰還する……どうやらそう思っていたのは私だけのようで。
「それでその、ええと。ミスミさんとソフィアさんは召喚術士、なんですよね?よろしければ契約済の召喚者さんたちに会わせてもらえたりしませんでしょうかっ」
面会できるのならば、『ヴォクージュ』の王にお目通りするべきであると。
そのための足がかりになるかどうかはラルさまのみぞ知る、といったところでしょうか。
うずうず、わくわくした様子でラルさまがそう聞いたので。
アイさんもイゼリさんもそれに追随します。
「え? わたしもですかっ!? ええと、すぐにここに来られる子は……」
「ふむ。それも知識の共有に含まれるということですかね。了解いたしました。ここでは手狭なので、修練ルームの方へと向かいましょう」
披露するだけなら問題ないというか、術士としてむしろ歓迎します、といった雰囲気。
当然わっと盛り上がるこちら側。
リーヴァさんは、姫さまたちのお心のままにとばかりに頷いてみせたので。
わたくしたちは、そのまま修練ルームと呼ばれるらしい場所へと向かう事にしたのでした……。
SIDEOUT
(第115話につづく)