第113話、それは異世界にて、良くある心躍るシステム
SIDE:ローサ
「ようこそ、ヴォクージュ召喚センターへ! 従霊道士の方三名でよろしいでしょうか。それでは早速召喚獣の方、お預かりします!」
「あ、やっぱり。ええっと、それじゃあ」
「ちょっと待って下さいラル様。……すいません、『ロエンティ』の冒険者ギルド所属のリーヴァと申します。一週間前ほどに、こちらへ連絡した者なのですが……」
「ロエンティ、ですか? ……ええと、少々お待ちください」
正しく、ここと似たような場所に来たことがある、とばかりに。
ラルさまが、どこからともなく黒色と黄色の模様が美しい宝珠。
それは魔精球と言うらしく、契約した魔精霊、魔物さんたちをすぐに呼び出せる待機場でもあり。
体の大きな存在も余裕で入れる、内なる世界が広がっているとのことで。
ラルさま曰く、召喚契約した魔物魔精霊と言う訳ではないのですが、リルさんたちラルさまの分身とも言うべき彼彼女らが現在そこに待機しているようで。
宝珠の状態のままそのまま提出せんとするのを、慌てて止めるリーヴァさん。
そして、リーヴァ名乗りとここへ来た理由を述べると、それまで笑顔を浮かべていた受付嬢さんは、困惑した表情を浮かべていて。
何やら帳簿めいたものを確認していました。
「ええと、『ロエンティ』のセンターでよろしかったでしょうか?」
「いえ、『ロエンティ』の冒険者ギルドです。念話魔法や伝書魔法にて、何度か連絡をさせていただいたのですが」
「……ああ、なるほど。『連絡機』ではなく魔法でのご連絡だったのですね。実は、魔法での連絡は、召喚魔法に悪影響があるとのことで、今は行っていないんです。在は、魔導機械の一種である『連絡機』を各センターに配置して、連絡報告を行っている状態ですね」
「魔導機械……」
「その名の通り、離れた所同士で連絡する魔導機械だね。この世界にもあったんだ」
「ふうん。でしたらその旨を周辺各国に周知すべきではありませんか?」
「申し訳ございません。大陸外……他国の事となるとこちらとしても把握しきれていないものでして。この『ノード』大陸内でしたらどの街、どのセンターにも『連絡機』配置してあるのでお互いに連絡が取れるのですが……」
わたくしとしましては、ごく当たり前の事を口にしたわけですが。
どうも失念していたといいますか、そう言う考えにすら至らなかった様子で。
やはり、召喚魔法中心で他はおざなりというのは、事実だったのでしょう。
わたくしは憮然としつつ言葉を続けます。
「連絡がうまくできなかった理由はとりあえずのところは理解しました。それでは今、直接ご報告を」
「水の都『ブラシュ』と獣人の国『フーデ』、二ヶ国の代表としてこちらに伺っております。改めまして『ロエンティ』冒険者ギルド所属のリーヴァ・リヴァです。先の二ヶ国にて、『ヴォクージュ』出身の召喚術師により、誘拐拉致から始まって、人類の脅威となる存在の召喚……『キヨウグ』世界法に反した数々の行いに対する抗議の声明が上がっていることをお伝えしに参りました」
「はっ……え、ええっ!? しし少々お待ちくださいませっ。上のものを呼んでまいります!」
何やら面倒ごとを避けたいというより、マニュアル通り召喚センターとしての仕事をまっとうしたい雰囲気を感じましたので。
意識して話題を変えるといいますか、きつめに強く発言しますと、営業スマイルを浮かべていた受付嬢さんは、はっと我に返ったように飛び上がります。
その様子ですと、外国……大陸外のことはとんと耳に入ってきてはいなかったのでしょう。
国ぐるみでの他国への侵略、悪巧みの線は薄れましたが。
そうは思いつつも、彼女の言葉通り上のものがやってくるのを待つことにして。
「おーい、ここのギルド? の依頼、獣型の魔物魔精霊に関係しているものばかりだったよ!」
「わたし、モンスターさんの赤ちゃん育てたいな。たまごがあるんだって」
そんな風にピリッとした空気が流れかけていた時。
当の被害を被った国出身の二人が、朗らかな様子で掲示板の方から戻ってくる。
その嬉しげで楽しげな様子に。
気張っていたわたくしたちははっとなって、少しばかり冷静になって。
わたくしたちと受付にいたけれど、会話には特に参加していなかった……そこらじゅうを見回してわくわくにこにこであったラルさまが、
そんな張り詰めた空気など気付かなかった、無かったとばかりにそんな二人に対します。
「おおぅ、やっぱり。それじゃあ獣型の可愛い子をテイムする依頼とかそういうものはあった?」
「うん、あったよ~」
「あと、うちの闘技場みたいに召喚獣同士を戦わせる大会とかもあるみたい」
「あー、それもいいねえ。『フーデ』ではコロシアムにお邪魔できなかったからなあ」
「……ふむ。やはりといいますか。一連の件は国ぐるみというわけではなさそうですわね」
「知りませんでした、ではすまされないのですけれど。受付嬢さんの様子を鑑みますと……」
この『ヴォクージュ』王国を含めた今いる大陸ですべてが完結しているかのような。
外国など存在していないかのような感じに見えてしまって。
それでも物語にありがちな、魔の軍のような人族に敵対している国家……最悪な状況でなかっただけよかったとも言えますが。
ある意味それより厄介かもしれない、とも言えて。
「お、お待たせいたしましたリーヴァ様とその御一行様っ。センター長がお話をお伺いいたします! こちらへどうぞ!」
そんな事を考えていると。慌てふためいたままな受付嬢さんが、恐縮した様子で頭を下げてきました。
「ああ、すみません。訂正させていただきます。私たちはこちらにおわすラル様が率いしパーティー、『救世ちゅ』と申します。今後はそう呼んでいただけると助かりますね」
「は、はいぃっ。ラル様率いる救世ちゅ様方ですね! 申し訳ございませんが、二階の方へ御足労いただけるとっ」
まるで、こうして外国の者がやってきて抗議してくることが初めてであるかのようなリアクション。
やはり思っていた通りなのでしょうか、などと思いつつ受付嬢さんにみんなでついていったら、何やらラル様が困惑した様子でいて。
「キューセイチューは響きが可愛いけど、それの前にお……私の名前いるかな?」
今更そのあたりを気にかけるのですか。
もしかしなくても未だ皆の中心、リーダーである自覚がおありではないのでしょうか。
なんてツッコミを兄さまならばしていたのかもしれませんが。
そう言って首をかしげつつも、仮面越しからでも伝わってくる、わくわくの高揚と。
何があっても救ってみせようといった、揺るぎない自信。
故にこそ、ツッコミなど野暮でしょう、なんて思ったわけです。
「「「いります」」よ」
パーティー名は救世主云々ではなく『救世ちゅ』なのですが(後出しですが、実はみんなで考えました)。
ラルさまが勘違いなされたように、『ちゅ』のところに突っ込まれなくてよかったです、なんて思いつつ。
改めて受付嬢さんを追って二階へと向かいます。
そんな、ラルさまのリアクションなどを鑑みるに。
やはりこの場所は冒険者ギルド……わたくしたちが今までお邪魔していたところとは違う場所なのでしょう。
『ヴォクージュ召喚獣センター』と言うのが正式名称であるらしいこの場所の二階には。
ギルド長に抜擢されるまで冒険者として活躍していた筋骨隆々なオヤジさま……ではなく。
王城の文官めいた、一見すると悪事に加担しているようには見えない、細身な青年がいらっしゃいました。
ギルド長ではなく、センター長であるらしいその人に出迎えられてやってきたのは。
そのままセンター長室の隣にある会議室……話し合いなどに使われるという大きな部屋でした。
「これはこれは。遠路はるばる『ヴォクージュ』へようこそいらっしゃいました。
ソフィア……貴女方を担当した受付嬢にお話は伺っております。『救世ちゅ』様方の故郷にて、『闇の一族』を名乗る者たちに多大な迷惑を被った、と言う事でよろしいでしょうか?」
「はい。水の都『ブラシュ』でも獣人の国『フーデ』でも、召喚のための生贄として多くのものたちが被害を受けております。その件につきましては、何度かこちらにも連絡させていただきましたが、お返事がなかったのでこうして直接出向いた次第です」
ソフィアと呼ばれていた受付嬢さんによってお茶菓子が運ばれてきましたが。
『ヴォクージュ』のセンター長であるミスミさんは、上のものにありがちな、曖昧にぼかす物言いではぐらかすようなこともなく。
すぐに本題に入ってくださいました。
代表してリーヴァさんが応じると。
それまでにこやかな笑みを浮かべていたミスミさんの顔が引き締まっていって……。
(第114話につづく)




