第112話、いつか夢かうつつかで見て体験したかのような箱庭の世界へ
SIDE:ラル
こうして、改めて新しき仲間にして、末っ子のかわいいローズが加わって。
いざ冒険に出る時にともに行動できるような装備……抱っこひもなどはウルル主導でみんなで作ったりしつつも。
やがて魔導船は、『闇の一族』が暮らすという国、『ヴォクージュ』であろう大陸が見えてくる場所までやってくる。
「もう半刻ほどでしょうか。到着までにいろいろつめておかなければいけませんね」
「だぁだっ、きゃっきゃっ」
到着前に一旦みんなで集まったのは、船上デッキ……海景色が良く見える作戦会議室。
ローサとローズの言葉を皮切りに(ちなみにローズは今、ローサの胸に抱かれている)始まる冒険……その出発前の話し合い。
「ふむ。まずは『ヴォクージュ』の国ってどんな国なのかな。『闇の一族』」の人たちが暮らしているのは聞いているけど。レミラさんたちエクゼリオの一族とは違うのでしょう?」
いつもと言うか、今までであったら謎の水先案内人兼従者モードでラルはいくのだが。
もうすっかり気のおけない間柄……身内には素でいいじゃないか、と思ったのもそうだが。
アイと初めて会った時にイメージが固定されてしまったらしく。
セリフめいた口調がとけないままでいると、アイが女神さまと呼ぶことでローズまで真似してママ女神さまと呼ばれることに、恥ずかしさがないでもなかったけれど。
アイにとってみればラルが【火】の女神さまであることに変わりはないので。
たとえ口調を変えたとしても焼け石に水であろうことは気づかないふりをしつつ、ラルは手始めにずっと気になっていた事を口にする。
「うむ。前にも話したかもしれないが、われらは闇の根源を祖に持つ一族である。しかし、『ヴォクージュ』にて棲まう者達は、かつてはここではない別の世界にて暮らしておった闇に生きる者達……闇人、などと呼ばれるものの末裔らしいの」
「同じ闇を冠するからって、レミちゃんってば気になって色々調べたんだよね」
「ワタシも手伝いマシタ。どうやらカラダを構成する魔力が【闇】と言うよりは、闇の中で過ごすコトを好む種でアッタようですネ」
仮にも闇を名乗るのならば。
来歴を追っていけば元は同じ穴の狢であるその可能性を憂慮して。
色々と調べていたらしいことをセラノに詳らかにされて、皆まで言うでないと恥ずかしそうにしているレミラ(姉さま)可愛いと持て囃される中。
同様に、『ヴォクージュ』のことを調べていたらしいルキアたちが話題をつなげていく。
「ふむ。異世界からの旅人の子孫、か。つまりは現在『ヴォクージュ』と呼ばれる国が、召喚魔法に溢れ、召喚魔法なしでは成り立たないという噂が立っているのは、そんな彼らがこの世界へ呼ばれた手法が召喚魔法であった証左だね」
「召喚魔法? それってラルさまが呼んだら出てきてくれるリルさんたちのこと?」
「あー、リルたちは厳密に言えばその都度呼び出しているわけじゃないんだよ。【火】の魔力に命を吹き込む……そんな感じかな」
「恐らくですが、水の都に呼び出されかけた魔王のように、一般的に想起させる召喚魔法だと思いますわ~」
「あ、そっちかぁ。なるほどー」
「つまるところ……かつて召喚された人たちが、今同じように召喚魔法を扱っている、ということになるわけですね」
「だーう?」
彼らが召喚魔法に生き、日頃から使っているのは。
そんな同族、仲間たちを呼び出したかったのか。
はたまた召喚に贄を必要としていることから、呼び出されたこの世界そのものに思うところがあるのか。
それにしても、わざわざ生贄を必要としているというのは何故なのだろう。
リルたちとは当然違うのだろうが、自身の魔力を使って呼び出したり、契約をしていることにより、
そもそも代価を必要としない召喚魔法だってあるはずなのに。
そんな風にラルが疑問に思っていると。
みんなの意見をまとめるような形で、リーヴァが口を開いた。
「実は、『ヴォクージュ』に向かうとのことで、『ヴォクージュ』の冒険者ギルドに連絡をしたのです。
連絡はついた……ギルドは存在していたのですが、なんて言えばいいのでしょうか。本当に一応『連絡機』が置いてあるだけといいますか、まともに運営しているのかも怪しい感じだったのです。その事にずっと疑問を抱いていたのですが、答えは出ましたね。恐らく、『ヴォクージュ』という国は、召喚魔法が全てなのでしょう。他のことは最低限で、何より召喚魔法を優先しているのだと思われます」
「水の都、おうちがお水大好きなのと同じ?」
「フーデなら身ひとつでのバトルになるのかなぁ」
「ええ、まぁ。そのような認識で大きく外れてはいないかと。どうも国をあげて召喚魔法を推奨しているようですので」
「ああ、それは少々私も耳に挟んだな。もしかしたら水の都にも現れた魔王がそうだったのもしれんが、
それこそ大きな代償を必要とするような何かを呼び出したいらしい」
「なるほど、そうか。元よりちゃんと契約した相手じゃない誰かを求めているのか」
「ええ、それがどのような存在かまでは分かりませんでしたが」
「その辺りは実際に行って調べて、目にして判断しましょうか」
当然、水の都の転覆を目論見、魔王なる存在を召喚せんとしたことを、『ヴォクージュ』に直接抗議したのだが。その反応すら芳しくなく。
『フーデ』における子供達の誘拐事件に対しても同じで。
それら犯罪を日常的に国ぐるみで行っている、悪徳集団なのではないかと。
そんな『ヴォクージュ』へと上陸するからにはひと悶着もふた悶着もあるかと思いきやそんな事もなく。
それでも船が港へ着港するため湾に入った際には、魔導船に同じくらいの大きさの海洋生物……恐らく彼らも召喚された魔物、あるいは魔精霊だったのだろう。
遠目で囲むように浮かんではいたものの、危惧していた戦いに……進行を妨げるようなことはなく。
その中でも、とりわけ大きな海色の体躯を持つ子の、そのつぶらなに過ぎる瞳と前かきばしゃばしゃにやられてしまって。
あの子の背中に乗りたいとだだをこねる救世ちゅ……もとい者がいたくらいで。
特段問題なく入港することができていて。
いきなり戦いになるようなことがなかったのは良かったが。
それも召喚魔法が『ヴォクージュ』にとって全てであるということを鑑みると。
『ヴォクージュ』へとやってきた目的、他国への迷惑行為、被害を止めるといった交渉事も一筋縄では行かなそうで。
そんなわけで、ラルたち一行は。
まずは偵察だとばかりに今回も二手に分かれることにした。
と言うか、ラルとしてはローズを背負うなりしてみんなで行っても、とは思っていたのだが。
『ヴォクージュ』国内の情勢、状況がまだ分からないからと。
船番と言う名のお留守番班と偵察班に分かれることとなって……。
※
「ふふふ。さいしょのパーティーメンバーだね~」
「と言っても約一名いないけどね」
「あら。なんだかんだでわたくしの存在を認めてくださったのですね」
「むむっ。ローサちゃんってば言うようになったじゃないの。だってしょうがないじゃないかぁ。
サーロがローサちゃんのふりをしていたのかと思ってたんだから」
「ふっ。本当にふりだったのかもしれねぇよ?」
「わっ。サーロにぃだ!」
「ふえっ? ちょ、ちょっと待って」
「慌てふためくラル様尊いです。……こほん。そんな事に魔法使ってないで警戒してください、ローサさん」
「はーい。了解しましたわ」
「あ、ローサちゃんに戻ってる! なんだ、音系魔法かぁ」
「ローサねぇ、すごーい」
アイが口にしたように、偵察メンバーは。
ラルがこの世界へやってきたばかりの頃の初期メンバーでもある5人と相成った。
リーヴァは、『ヴォクージュ』の冒険者ギルドと何とか繋ぎ取るために。
イゼリとアイは、『ヴォクージュ』所属の『闇の一族』へ迷惑を被った国の代表として。
ローサは冒険したいと言って飛び出してしまいかねないラルのお目付役で。
そんな個人的感情はともかくとして、パーティーの代表者であるラルがいる。
ローサとしては、ローズの面倒を見ていたいと言う気持ちもあったが。
ラルを含めた始まりのメンバーが全員出ると言うのならば出ないわけにもいかないのだろう。
と言うか、その理屈で言えばローサではなくサーロが出てきて同行すべきなのだが、
ラルの様子を見ている限り、まだまだサーロの出番はなさそうで。
「そ、それじゃあ、行こうか」
「はい。まずは冒険者ギルドに向かいましょう」
ある意味、敵本陣へのカチコミであるのに。
入港、入国もおざなりでフリーパスであったことに。
本当に召喚魔法ばかりにかまけているからなのか、そんな警戒をせずともいいくらいの戦力があるのか、判断がつかないままに。
それらを確かめる意味も含めて、ラルたちは手始めに、そんなローサの言葉通り、冒険者ギルドらしきものを探し求めて向かうことにしたのだった……。
SIDEOUT
※ ※ ※
SIDE:ローサ
もうそろそろほとぼりが冷めた頃でしょうかと。
初期のパーティーメンバーという事で。
兄さまが僅かばかり顔を出しかけましたが。
どうも兄さまに対するラルさまの怒り? あるいは忌避感は根が深いようで。
わたくしが目覚める前は、ある程度ラルさまと兄さまがともに行動することもあったと思うのですが。
どうもその時よりお互いの溝は深くなっているご様子。
こう言う時に、この世界へと切り離されたわたくしとしましては。
本体……オリジナルの兄さまと情報共有できないのは厳しいですね。
わたくしたちの一族、『レスト族』としてのレベルが上がれば、兄さまとは意思疎通、会話もできるようになる、とのことなので。
そういった機会があれば逃さずにいましょう、なんて内心考えつつもやってきました『ヴォクージュ』の国。
一見すると他国と雰囲気は変わらないようにも見えますが。
『ヴォクージュ』の国のみなさんが、召喚魔法に傾倒していると言うのは確かであるのか。
それほど賑わっているというわけでもありませんが。
人族とその契約者らしき魔物魔精霊さんたちが、ともに行動しているのが見えるとともに。
空いているお店も、召喚魔法や召喚獣、契約者の装備品に関する類のものが多いように思えます。
契約した魔物や魔精霊の住まいとなる『魔精球』や傷薬、魔物魔精霊用の食料などが売っている、マジックアイテム屋さんに。
当然のようにふらふらとひかれて寄っていってしまいそうになるラルさまに。
お楽しみは後にしましょうと、いわゆるところの猫持ちポイントをつまみ上げ引っ張っていく勢いでたどり着いたのは冒険者ギルド、らしき建物です。
それこそ、『フーデ』の冒険者ギルドに比べると、大分雰囲気が違って見えましたが。
閑古鳥が鳴いている、といった感じでもなさそうで。
その割に、冒険者ギルドを通して連絡しても返事がなかったのですよね、と。
訝しげなリーヴァさんを先頭に中へと入ります。
「わあ、いろんなモンスターさんたちがいるね」
「う~ん。ギルド? なのかな。どこかで見たことがある気がするんだけど」
ギルドの中は思ったより広くて。
街中、通りよりも賑わっているようにも思えました。
ラルさまは首をかしげていましたが、正面にはギルドの受付めいたカウンターがあって。
3人ほどの、ほとんど同じような見た目の、白を基調とした制服を着た女性が対応しています。
どの人にも、同じくらい……それなりの人と魔物魔精霊さんたちが並んでいました。
とりあえず、とばかりに真ん中に並びつつざっと辺りを見回します。
受付のすぐ隣には、カフェめいた広場があって。
その反対側には依頼表らしき紙の束がたくさん貼ってある掲示板が見えて。
「みんなで並んでいるのもあれだし、ちょっと見てくるよ。アイちゃん。行こっ」
「うんっ」
同じように受付の列に並ぶ者とは別に掲示板に注目している者もいて。
他国の冒険者と言わずとも、どこからどう見ても目立つ少女たちがやってきたというのに。
あまり注目されていていないのは。
恐らくきっとラルさまが冒険を楽しみたいモードで、その有り余る存在感を極力抑えているせいもあるのでしょう。
故にこそその恩恵を受けつつイゼリさんとアイさんが掲示板の方を見に行ってくれたわけですが。
しかし、二人が列を離れてすぐ。
回転が結構早かったようで。
当然二人が戻ってくる前に、わたくしたちの番が回ってきてしまって……。
(第113話につづく)




