第111話、まったくもって見えそうもない未来を夢想して、今は疑似体験を
SIDE:ローサ
そんな感じで、みなさん総動員でローズちゃんを可愛がっていましたが。
お乳を飲むために目を覚ます必要がなかったからなのか、メンバー全員で触れ合っていても、多少むずがる程度で、目を覚ますこともありませんでした。
魔精霊とはいえ、赤ちゃんとはこんなにも眠るものなのでしょうかと、心配になりましたが。
これだけ多くの女性がいても育児の経験がある人がいるはずもなく……かと思いきや。
未来の話かそんな世界線もあったのか、ラルさまによれば赤ちゃんは、特に魔精霊はよくよく眠るものなんだよ、とのことで。
ママな救世ちゅさまもありですわ、などと身悶えつつも。
アイさんと相部屋なラルさま(実は部屋選びの際、相部屋であるのならばわたくしを、とのご指名があったのです。
なんでも、仲間たち……みんなの中でも同性なのはオレ……私たちだけだから、とのことで。
その時の私の……兄さまとしては今になって少年ムーブするのですかと驚きとどまるばかりで。
何故か故郷で『オレは男だ』といって憚らなかったとは聞いていましたが。
もしかしたら、男友達的な感覚で、仲違い? している兄さまと仲直りしたかったのかもしれません。
とはいえ、今は不意に出てきてしまったのを反省しているらしく。
兄さまは結構内なる世界の奥の方へと引っ込んでしまっている旨をお伝えしたところ、何とか一人部屋をいただくことができまして。
ローズちゃんのことは、アイさんと、ラルさまにお願いしていたわけですが。
「ぱぱ~」
「えぇっ!? そっ、そんないきなり大きく……わぶふっ」
人型になりたての魔精霊らしく。
伝説の12柱の使徒であるとうたわれる(主にリーヴァさんの言ではありますが)乙女たちの、潤沢な魔力とともにスキンシップをたっぷりと受けて、すくすくと成長していって、やがて神型と至るかもしれない、とのことで。
ある程度は予想はしていましたが、これほどまでに魔精霊さんの成長とは早いものなのですかと驚くばかりで。
たった一日でアイさん……とまではさすがにいきませんが、もう普通に歩けるようですし、魔精霊さんであるからしてふわりと浮かんで飛ぶ方が楽なのかもしれません。
加えておしゃべりの方も徐々にはっきりされてきているようで。
「おはようございます。わたくしはローサと申します。かわいいかわいい【地】の魔精霊のあなたのお名前は?」
「ろ~? ろ~、おじ。ろ~ずはろ~ず!」
きゃっきゃっと。
抱きとめたことで浮いたおみ足をばたばたとさせつつ、満面の笑みで喜びを表現するローズちゃん。
やはり生まれたばかりの時は名前がなかったようで。
そう名付けられたからこそ、こうしてすくすく成長なさったのか、
ローズちゃんは自身が『ローズ』であることをそのまま受け入れている様子でした。
パパと認識されてはいますが、私や兄さまが似ているのは、茶色みがかった黒曜石の瞳でしょうか。
属性、その魔力を表す髪は、様々な色が混じった亜麻色をしています。
伸びすぎてしまったのか、ふわふわのその髪はしっかり後ろ手にまとめられていて。
「ふふ。よろしくお願いしますねローズちゃん」
「よぉ~、ぱぱ~! ママ?」
至近距離での改めてのご挨拶。
どうやらローズちゃんはちゃんと私を認識してもらえたようで。
確かに成長は早いようですが、それでも簡単に私が抱き上げられるくらいにはちっちゃくて可愛くて。
そのままぎゅっと抱きしめると、甘いミルクの香りがしました。
わたくしも、いつの日かローズちゃんみたいな可愛らしい子を抱き上げる時が来るのでしょうか。
今までずっと兄さまと一緒にいたので実感がわきません。
といいますか、わたくしだけでなくラルさまの元に集まったみなさんがみなさん男性っ気がないのですよね。
レミラさんやノアレさんのお父様くらいでしょうか。
成る程、ラルさまやルキアさんが、男役をかって出ているのはそんな理由があったのですね。
それは兄さまも引っ張りだこになるわけです。
……そんな、今のところ全くもって見えそうもない未来のことを考えつつ。
ローズちゃんをしっかり抱き直して揺りかごのように動き回っていると。
そこに一番面倒をよく見てもらっていたアイさんとラルさまがやってきました。
「ローサねぇ、おはようございますっ。ローズちゃんいました!」
「おはよう、ローサさん。実はね、ローズちゃんのごはん、どうしようかなって思って。魔力だけでもいいんだろうけれど、やっぱり赤ちゃんにはお乳が必要かなって。この身体じゃ出ないし、料理魔法でどうにかならないかなって考えてたんだけど」
「ああ、そうですね。料理魔法だと魔力を与えるのと変わらないですものね。船員さんたちに伺ってみましょうか」
「まんま、ねーね!」
「おはようローズちゃん、ねぇねだよ」
「にっ……ううん、ま、ママですよ~……って言われてみればそうかあ。お母さんが乗ってなくても、哺乳瓶とかはあるよね」
となると、ローズちゃんからしたミルクの匂いは元々の、ローズちゃんのものなのでしょうか。
それとも、わたくしがイメージ、思い込みとして感じ取った幻か。
などと考えている間にも、ほとんど無意識のまま、そのようなつもりもないまま、ラルさまの逃げ道を塞いだアイさん。
それでも一瞬だけ、お父さんというかお兄さんに逃げそうな雰囲気はありましたが。
一度『ママ』と覚えられてしまった以上、今更変えることなどできないだろうと。
そんな言い訳をして、じゃれあう三人に家族を感じてほっこりしつつ。
こうやってミルクをあげる時間もそう長くはないのでしょう、なんて思ったりしていて……。
SIDEOUT
※ ※ ※
SIDE:ラル
実のところ、ラル自身もたくさんいる『おぷしょん』のひとりが独立したようなもので。
本体からしてみれば子供のようなものではあるのだが。
そんな本体や他の『おぷしょん』たちの記憶、夢の残滓のようなもの中に、母としてあるものもあったわけだが。
ローズのような乳飲み子のお世話をしっかりこなした記憶はなくて。
寝かしつけることすら、アイが一緒に寝てくれなければ大変であったのは確かであったが。
その一方でローサは、ローズのもうひとりのママとして実に手馴れていて。
ラルに比べたら正に姉妹……いや、親子のようであった。
しかし、同じくもうひとりの母であるはずのラルにとってみれば。
そこにアイが加わることでいつまでも微笑ましく見守っていたい、三人がふれあいじゃれあっている隣でによによしていたい。
マイナスの感情など少しもなく、ラルはそう思えていて。
「お~い、おはようみんな~! ローズちゃんのこと連絡してきたよーっ!」
「おはようございます。……はぁ、尊いですね。ローズちゃんを11人目の無垢なる乙女とすること、私の目に狂いはなかったようです」
と、そんな風にローズを囲んでほっこりしていると。
ここのところ共に行動していることが多いイゼリとリーヴァが朝の挨拶がてらやってくる。
あるいはもしかしたら、魔導船に乗りこまんとしていたラルたちに惹かれるようにして船のエンジンルームに入り込んでしまったローズは。
『フーデ』で生まれた【地】の魔精霊で。
案の定、『フーデ』には本来の親である【地】の魔精霊、その代表がいて。
ローズがローズと名づけされ、ラルたちとともにあることは既にイゼリとリーヴァが伝えてくれたようで。
「いじぇね、りーね! きゃふふっ」
「このボクを姉と呼んでくれるのローズちゃん! くうぅっ、とってもうれしー! うちでは末っ子だからさぁ!」
「くっ。なんと絵になるのでしょう。私などがその輪に入っていていいのでしょうかっ」
「イゼリねえ、リーヴァねぇ、おはようです。ローズちゃんのだっこお願いできますか?」
そんな、功労者な二人のことも、ローズはしっかり認識しているようで。
ほっこりの輪がさらに広がっていく中、アイがローズを一旦イゼリに預けると。
その間にローサがミルクを頂けるかどうかを聞いてきますと席を外していって。
「それで、ええと。【地】の代表さんは、なんて?」
「あ、はい。ロアさんという神型の魔精霊様なのですが、伝言を預かっています。……『大事至らず、無事に見つけてくださってありがとうございます。加えて新しき子に【火】の女神様から名を賜り、祝福を与えていただいたこと、至上の喜びと感謝を。……ローズは、生まれたその瞬間から幸せに溢れていること、遠くからでも感じられます。彼女が大きくなって、『フーデ』へと凱旋する日を心待ちにしております……』
「ばぁば! ばぶ、きゃうっ!」
「わ、リーヴァねえ、すごい」
「相変わらずリーヴァは多彩だなぁ。ほらっ、たかいたかーい!」
「【時】魔法、ですね。確かにすごい。伝説の音魔法みたい」
流れるように、【時】魔法を使ってみせて、【地】の神型魔精霊であるロアそのものの声を運んでくるリーヴァ。
すれはすなわち、一度『フーデ』から船で離れてしまったこともあるだろうが。
ロアは大事な娘であるローズを、故郷へ凱旋するその時までラルたちに託した、ということで。
これがラルだけであったのならば、自信はあまり持てそうもなかったが。
ラルの周りには頼もしい仲間が、家族がいる。
今はもう、ふりをする必要なんてどこにもないと言うのに。
呼ばれるのならばお兄ちゃんが良かったなぁ、などとは言葉にせず。
家族なみんなで一緒にローズを愛し育て上げながら、楽しくこの世界を冒険しよう、なんて思っていて……。
(第112話につづく)




