第115話、それに浸る機会などいくらでもあったかと思いきや、届かなかったもの
SIDE:ラル
こことは違う、別の世界、故郷とも違う場所で。
ラルはモンスターや魔精霊たちと召喚契約を行い。
パートナーとして冒険したり、召喚者同士の試合を楽しんだりする世界へと迷い込んだことがあった。
ラルにとってみれば、切なくものっぴきらない理由があって、その世界に長居はできなかったが。
印象的なこともあって、よくよく覚えていて。
恐らく、この『ヴォクージュ』を開国し、召喚者を集め召喚センターなどのシステムを作り上げたの者は。
そんな世界からやってきたのだろう。
『闇の一族』(どうやら、その召喚魔法とモンスターのあふれる世界にもいた、『悪役』を負う者達の集まりらしい)の件もあることであるし、『ヴォクージュ』」の王さまに会ってみたい気持ちはあったが、それより何よりも。
数多ある世界線でも相棒的存在はいても、所謂テイムモンスター、それに類する者たちと、とんと縁のなかった(リルたちは、分身扱いなので、ラルの中ではノーカウント)、ついに触れ合うことができるかもしれないのだ。
獣人族のみなさんのもふもふもいいものだが。
テイムモンスターたちと、じっくりしっかりふれあいもふりあいたい。
あわよくば、できなかったあこがれの召喚契約をしてみたい。
その足がかりとして、ラルが受け入れてもらえるかどうかの試金石。
そんな事をラルが内心考えているなどとは皆は知る由もない事だろう。
あるいはローサならばいつだって自身の欲に忠実なラルに気づいていたかもしれないが……。
「ここなら良いでしょう。私の従魔も、ソフィアの相棒もそれほど大きい種ではないのでね」
「あ、そう言えばうちの子って種族としては何になるんでしたっけ。妖精さんですかね。まぁ、大抵どこの支部にも受付嬢の補佐でついているくらいなので、珍しくはないと思いますが……キミリス! ちょっとでてきてもらえますか~」
「我が従魔、シアンよ。我らが契約の元、顕現を許可します」
わくわく度合ならば、イゼリやアイにも負けていなかっただろう。
それは仮面越しでも分かってしまうくらいに、ラルのテンションが上がっていく中、
全身桜色の大きな大きな鞠めいた、初めて相まみえるはずなのに確かに見覚えがあるような気がする、キミリスと呼ばれたモンスター……召喚者と。
生成り色の中型肉食獣……イゼリの猫モードよりも一回りも二回りも大きい、シアンと呼ばれた召喚獣が現れる。
「やはりいつみても召喚魔法と言うのは不思議ですね。【時】魔法が深く関係している事はわかるのですが」
みんなでおお、と感嘆の声を上げる中。
ひとりリーヴァは違う視点で感心している様子だった。
「……ぴ」
「ええと、わたしの契約者のキミリスです。回復魔法や解毒魔法、軽いものなら呪いの解除などもできますよ」
「種族名は『フェアヒラ・ピアド』我が国ができてから最古参の、比較的多くいる種ですね。そして、こちらは『イシュテイル・ピューマ』のシアンです。【地】の宝石乙女の名を冠するだけあって、胸元にあるこの青い宝石が特徴です」
「ぐるっ」
回復、補助魔法扱いし妖精種。
能力だけならばリルにも似ているが、何故か侍女服を身にまとっていて。
もふもふしているどころか、その桜色の肌はつるりとした卵のようで。
その服のせいなのか、大分人族めいていて。
さっそくもふもふさせてくださいとは言いづらい雰囲気である。
しかし一方の、ミスミの召喚獣は、実にもふもふしがいのありそうな見た目をしていた。
「わあ、えっと。その、まずはシアンさん。少し触れてもいいですか?」
イゼリとアイの姫さまコンビが気を使ってなのか、アイドルにサインを求める勢いでキミリスと呼ばれた召喚獣の方へと向かっていったのをいいことに。
ラルは思い切ってミスミではなく、シアン本人にそう伺ってみる。
「ぐるぅっ!?」
すると、大型の肉食獣めいたシアンと呼ばれた召喚獣は。
そのふわふわの毛を少しばかり膨らませて、ラルとミスミを交互に伺う仕草をしてみせる。
「もちろんです。シアン、その場にて待機」
「ぐる……」
ミスミのそんな言葉を聞いて。
絶望に打ちひしがれたかのように、耳をぺたんとしつつもその場に伏せたのは気のせいではないのだろう。
「あら? 何だかあの子……」
怯え逃げ出したいのに、命令を受けたからには動けない、そんな風に見えてしまう仕草である。
少しずつ近づきながらも、その事に気づいたラルは。
やっぱり無理を言っているのではと。
この世界でもラルは魔物や魔精霊たちと触れ合うことができないのではないかと。
仮面の内でへこんでいると、肩にぽんと、柔らかな手のひらが触れる感覚。
「ラルさま、ここはひとつ隠れんぼしてみるのはいかがでしょう。魔物や魔精霊と接する時は、そこにいるとわかっていてもその気配を消してゆっくりじっくり近づくのが吉ですよ」
「シアンさま、こんにちは。風のローサです。その美しき一張羅に触れさせていただいてもよろしいですか?」
「……ぐるっ」
リーヴァの初めて耳にするアドバイス。
そして、それを実行するように。
そこに確かに存在しているのに、気配が風にとけるように希薄になったローサが。
お座りの体勢を取っているシアンにそう問いかける。
気配薄くとも、そこにいるのは分かっている、とばかりにローサのことをじーっと見つめた後。
許可すると、頷くように声を上げるシアン。
「では、失礼しまして」
ローサは、シアンに合わせてしゃがみ込み、そっと背中からしっぽ近くまでを撫ぜる。
喉を鳴らし、あくびまでしているさまは、本当に大きな猫のようで。
「さあ、ラルさま。どうぞ。……って、わ、すごい。後ろが透けて見えるようですわ」
「う、うん」
「これは……やはり、神型の……」
しばらく堪能した後のローサのそんな言葉に、押されるようにして。
改めて気配を世界と同化する勢いで薄めつつローサに続かんとする。
その時、そんなラルを見て今度は何やらミスミセンター長の方がうろたえているようにも見えたけれど。
「ぐる」
次、来るなら来い、とばかりに短く鳴いて見つめられたので。
そう言えば魔物や魔精霊と視線が合うような事もほとんどなかった(あるとすれば幼い頃の怪我などの治療のために保護され、檻に入れられていた子たちくらいであろう)と。
二人はやっぱりすごいなぁと感心しつつ。
ラルは更に気配を殺し、恐る恐る一際もふもふしている胸毛のあたりに手を潜り込ませてみる。
「ぐるっ……ごろごろごろ」
「わぁっ」
正にもふもふ長毛種の猫。
一方で【水】の回復魔法談義に花を咲かせているアイと。
キミリスと呼ばれた妖精種との間には入れずわたわたしているイゼリにもモフモフさせてくれる権を賜ってはいるものの、イゼリの事をよく知っているからこそいざもふもふをしようとしても恥ずかしくなってしまってできないでいたから。
触れる度にぷるぷるしている事に申し訳なく思いつつも。
これは病みつきになる、はまってしまいそうだと思わずにはいられないラルがそこにいて……。
(第116話につづく)




