第110話、もう完全にみんなの娘扱いで、出されていた依頼を刹那に完遂する
SIDE:ローサ
「ふむ。名前とな。確か妹よ。父上に名を与えられたその時に、確たる自我が芽生えたと言っておったな?」
「エエ、そうですね、ワタシのメモリーの始まりは、『ノアレ』と名付けられた時から始まっていマス」
「【地】の子だからそれっぽい名前がいいよねぇ。この子の髪色に合わせて、オレンジ色の輝石とか」
一応、船に異常がないか確認してみるということで。
一旦甲板まで戻ってきていた船底見学の面々は。
船底にあったコアルームにて新たに得た仲間である【地】の落とし子な彼女の名前を付ける気満々で。
「ええと、あのさ。ちょっと考えていた名前があるんだけど、私が決めちゃ、ダメかなあ」
特にラルさまは顕著で。
完全にお昼寝モードに小さな彼女が入ってしまったのをいいことに。
私にも抱かせて欲しいとせがむラルさまからお母さんオーラを感じるほどでした。
一見すると、世界の礎となるべく宿命を負ったラルさまからは想像しにくいかと思いきや、そうでもないようで。
いずれ我が子を抱く未来がやってくるのだと、信じてやまない様子に。
願わくはその近くにいられればいいなと思いつつ、そっとラルさまに彼女を預けると。
愛おしそうに幸せそうに優しく抱き抱える様が見えて。
「……ローズちゃん。ローズ・カム……じゃなかったガイアットちゃんはどうかな?」
「ぬっ。おおう。それは……」
「とっても良い響きデスね!」
「バラ系統の輝石かあ。……うん、私もいいと思います」
確信犯なのでしょうか。
……いや、まさか。
そこまであからさまでありなら、無意識に名づけたのだというのはありえるのでしょうか。
一瞬息をのんだレミラさんもそれにすぐに気づいてニヤニヤと。
ノアレさんは純粋に感心した様子で。
セラノさんはその流れで違う名前がいいですなんて言えないよね、なんて頷いていて。
「……ええと。その、一応本人に聞いてみて、気に入ってもらえたのなら良いのではないでしょうか」
「あ、そうか。魔精霊さんだもんね。これだけ魔力の多いところなら、すぐにおっきくなっちゃうのか」
名づけによって魂が定着するという魔導人形なノアレさんとは少々異なり。
ある意味で魂そのものである魔精霊のみなさんに元々名前があるのかどうかといったむつかしい問題。
ただ、魔精霊さんたちが『獣型』から『人型』への進化する条件が名づけであるという説もあるようなので。
わたくしたちがそうでるように。
はじめから名前を持っている、と言う訳ではないのかもしれません。
わたくしは、どうしようもない恥ずかしさを誤魔化すようにして、そんなむつかしい事を考えつつ。
取り敢えずは本人にも聞いてみましょうと。
転ばぬ先の杖なセリフを口にするのでした……。
※ ※ ※
「うわあ、かわいい……っ」
「『地』の魔精霊さんですか? こんな海の上にもいるものなんですね」
「……いや、恐らくだがイゼリさんの故郷におったのが、ラル様の……妾たちの魔力に惹かれたんだろうよ」
「ぱぱ~」
「ぱっ!? ローサ嬢まさか一人二役? う、産んでっ!?」
「ふふ。可愛いでしょう。ローズちゃん。娘ちゃんがいたらこんな感じなのかなあ」
「む、むすっ!? ら、ラル嬢何だか妙に実感こもってますね」
「もう、ルキアさんってば。たった今レミラさんが説明してくれたでしょう?ローズちゃんはみんなの娘なのです。……そう言うことですからルキアさんも抱っこしてみますか?」
「うぇっ!? い、いいのかい?」
もちろん、いいですよね、と。
ラルさまに視線で伺うと、仮面越しでも分かる、満面の笑みからのオーケーのサイン。
「小さい子の面倒は見たことがあるけれど、こんなにも小さい子は初めてだよ。うわあ。わわっ、小さいっ。柔らか~」
「みゃむ……」
抱っこする相手が変わったことで目を覚ましてしまうかと思いきや。
遠くない未来大物になるようで、特段むずがることなくそのまま眠っていて。
「恐らくこうやって抱っこできる時間はそう長くないと思いますよ」
「あ、そうですか。魔精霊さんですものね」
「ここは特にラルさまとみなさんのが常にいて、豊富な魔力がありますカラね」
「ほぼほぼ父上の魔力だけで妹はわれをも超えたのだ。この子がすくすく育つのも道理だの」
「ローズちゃん、ここにいる誰より大きくなっちゃったりして」
「どうかなあ? うちは代々、あんまりおっきくならないからなあ」
もはやすっかりみんなの娘というか、ラルさまなどは名づけ(まだ本人に確認していないので確定とはいきませんが)をしたせいなのか、ほとんどもうお母さん的思考になってしまっているようで。
そんなわけでみんなの母性が刺激されたのか。
次は私です私だからが続き、ローズちゃんの大人気っぷりがいかん無く発揮されていましたが。
「あ、みんなこんなところに! 実は少したってとーちゃん、ううん。フーデ王から連絡があったんだけど……って! なになに? どうしたの、めっちゃかわいい~っ!!」
「あら、そんな予感はしていましたが、これで運命に導かれし乙女、11人目ですね」
本気なのか冗談なのか判断のつかないリーヴァさんのもはやお馴染みめいたセリフと。
何か言いかけて案の定ローズちゃんのプリティさにやられてしまったイゼリさんがそこにいて。
「イゼリさん? フーデ王がどうかしましたか?」
「かわゆ……って、はっ。そうなんだ。とーちゃんから連絡があって、地下のダンジョンは【地】と【金】の魔精霊さんたちが管理してくれることになったんだけど、そのどさくさにまぎれて、大地の……ガイアットの、最近生まれたばかりの子どもが行方不明になったって……って、いたあっ!? この子じゃん! ガイアットの魔力もバッチリ感じるし、絶対この子だよね!?」
「……はっ。ええ、そうですね。実はギルドにも依頼が来ていまして、確かに特徴と一致しますね。少しばかり大きくなってはいますが」
「実はラルさまがこの魔導船のコアに入り込んでいた彼女を見つけてくれたのです。ほどんど海の下にある船のコアを終の棲家である『器』とするには尚早ということでした」
「成る程。依頼を受けた時は雲をも掴むような難題だと思いましたが、流石はラル様です。依頼が通ったその瞬間には依頼を達成してしまわれていたのですから」
そんな、リーヴァさんの続く感心しきりな言葉は。
今度ばかりはあながち大げさ、というわけでもないのでしょう。
救世主たるラルさまには、そういった世界が救世を必要としているものを感知しているのかもしれません。
とは言いつつも。
当のラルさまは仮面越しでも分かってしまうほどに。
「え、わたし何かやっちゃいましたか」、とでも言いたげに小首を傾げていましたが……。
(第111話につづく)