第108話、文字通り世界の危機未遂にちょっとだけお邪魔する
SIDE:ラル
ラルから見れば、一度は手に入れて、操縦したり中身を調べ触ってみたりしたかった憧れの大型魔導機械である、『ヴァレンティア』から借り受けた魔導船。
通常船とは異なり、専属の航海士や操縦士が必要であるものの、その速度は群を抜いていて。
『フーデ』から『ボクージュ』、七日ほどかかる行程が、半分ほどで済むらしい。
ノアレの作った朝食を頂いた後。
(メンバーの中では実はトップクラスを誇る料理のうまさで。数々の世界を冒険してきて、ある程度料理ができるようになったラルもうなるほどの腕前であった)
そんなノアレと、アイ、ローサとともにラルは。
操縦席にあるという魔導船の下層にやってきていた。
魔導機械らしく動力は魔力がメイン、とのことであるので、有り余っている魔力が燃料の足しになれば……ついでに色々見学させてもらおうといった算段ももちろんあって。
「……む。ラルどのに妹たちよ。こんなところにどうしたのだ? われと違って太陽と潮の香りが苦手というわけでもあるまいに」
「あ、さては見学ですか? マジックアイテムって言っていいのかどうかもわかりませんけど、すごいですもんねぇ、ここ」
「うん。実はその通りなんだ。どうやって動いているのかなぁって見てみたくなって。後、涼める場所を求めてね。二人は? ここで何かしていたの?」
「ああ、父上にも申し付けられていての。いずれはわれらが操縦できるように、色々と勉強中なのじゃ」
「運航するのに、燃料もですけど、魔力も必要なのでわたしはレミのお手伝いです」
「おぉ、それはちょうど良かった。お、私の魔力、有り余ってるよ!」
当初出会った頃の水先案内人、慇懃な従者的仮面(美しすぎて周りに影響を与えてしまうのを防ぐための仮面はつけているけれど)は、すっかり剥がれ落ちてしまっていて。
魔導機械……魔導船にわくどきを止められない子供のようなラルに、思わず顔を見合わせるレミラとセラノ。
「あら、さすがのお二人もラルさまの揺るぎない可愛さにうろたえるばかりのようですね」
「ですね~」
「ナルホド。これがギャップ萌え、あるいはあざと可愛さデスカ。勉強になります」
「もう、何なのみんなでよってたかって! そんな持ち上げても何もできないよっ」
繰り返しになるが。
やはり問題であるのは、ラル自身が皆の語る真実を信じようとしないことだろう。
そのかたくなさに、やはり何かあるのではないかと。
不安と心配が同時に襲いつつも、何とかふたりは言葉を返す。
「いやの、ラルどのをお見受けするかぎり【火】や【闇】の魔力に明るそうじゃのと思っての」
「ええと、そのですね。魔導船に主に必要な魔力は【水】と【風】なんです。
燃料も使うみたいなのですが、そっちは火の魔石を使うみたいで」
「はいはーい。水のまほうはちょっと得意だよ~」
「お、私も水は……いえ、風の魔法、魔力は大好きです!」
「……ぐふっ」
「ローササン? しっかりしてくだサイ」
レミラの言う通り、ラルの主力となる魔力は闇と火ではあるのだが。
実際のところ、有り余りすぎてラル本人も自覚はないのだが、水や風、相反属性のあたる魔力でも、魔導船の動力『程度』ならば補えるのだが。
何せ自覚がないので好き嫌いで咄嗟に答えてしまうあたり、確かにローサが尊死しかける程にはあざと可愛くて。
「それならみんなで向かいましょうか。エンジンルーム。とりあえず見学の許可はいただいていますので」
「ふむ。ちょうど良い。妹よ、いずれはわれが船長となり副船長としてわれを支えるのだから、しっかと見学してゆくがよいぞ」
「ハイ! 見て学んで覚えマスよ~」
「きゃうっ」
「わわっ」
あるいはラルと同じように水が苦手なレミラの、そんな目標、夢とも言えるセリフ。
そんな姉の言葉を信じて疑わないノアレの、元気いっぱいな返事の際に、抱えられていたローサが落っこちそうになったが。
何とかアイが支えることで事なきを得て。
改めて見学ツアーのためにと、今いる場所からさらに地下……
位置的には完全に海水に浸かっているであろう最下層にあるエンジンルームへと向かったわけだが。
「おや? レミラお嬢様。救世の乙女の皆様も。お話は伺っていますよ。狭いところではありますが、どうぞこちらへ!」
ノックして、エンジンルームにつき関係者立ち入り禁止の看板が立てかけてある金属扉の前でしばらく待っていると。
いつもそこに詰めていると言うよりは、予め話が通っていて、待機してくれていたのだろう。
乗船する前に挨拶していた船長の他に航海士、操縦士らしき人物が数名見えて。
お邪魔しますと声を揃えて中へ入ると。
確かにそれほど広さはないが、エンジンルームの全容が見えてくる。
大型の魔導機械、主要地点、大陸同士を結ぶ、『キマグレイン』……列車ならば乗せてもらったことはあったが。
御多分に漏れずエンジンルームは、操縦席と一体になっているようで。
壁一面は、雑多なボタンやスイッチ、12色の斑な光に彩られていた。
狭いところ、とは言われていたが、思っていたより狭いとは感じられなかった。
それは、周りの装飾もそうだが、その中央にある円筒型の、天井から地面まで覆われたガラスの台座めいたものが鎮座していたからだろうか。
どうやらそれこそが、このエンジンルームの肝となる動力コアらしい。
確かに言われてみると、その内には『風』や『水』の魔力が多く揺蕩っていたが。
「……えっ?」
ローサが、小さな声上げで驚いていたように。
水色と緑色の魔力の流れの中には、眠っているのか目をつむっているのだけなのか。
胎児のように身体を丸めてたゆたっている、オレンジ色ばかりな特徴を持った、幼女ともつかぬ幼子の姿があって。
思い出すのは、ノアレが目覚めを待っていたシチュエーション。
そして、故郷の……オリジナルと言えるラル自身のことであった。
世界の均衡を守るため、世界の礎となり故郷の大地遥か下、12色の氷山の中で眠り続けるラル。
よくよくみればそこにいる橙色の幼女が、あるいはラルのように、この世界の礎となることにプレッシャーを感じていると言うよりは。
ゆらゆらと、何かの夢を見ているだけであることに気づけたはずであったが。
そんな使命を置いて『おぷしょん』として外の世界へ出てきてしまっている後ろめたさが。
少なからずあったラルは。
気がつけばそんなガラスなどゼリーか何かのように溶け落ちていくであろう炎の、純粋なる魔力の塊を。
その小さきにすぎる手のひらの上に浮かべていて。
「駄目だラルっ! そんなもの放ったらそこにいる魔精霊の娘どころか船ごと無くなちゃうって!」
「サーロお兄ちゃん?」
「……っ!」
そこにいるという幼子……魔精霊は恐らく生まれたてで。
然と見えているのは魔力に明るいラルか、それこそサーロくらいで。
ラルのように封ぜられ、閉じ込められている訳ではなく。
幼子な魔精霊の終の棲み家である『器』こそが、この魔導船で。
そんな、地獄の業火もかくやといったものが一度着弾したのならば。
ラル以外の船どころか周りの海一体が攫われ消えていくことだろう。
それら全てを伝えるには余りにも時間がなくて。
故にローサはこのエンジンルームへとやってきてオレンジ色の魔力の塊が。
まるで捕らえられているかのように見えたその瞬間。
それまで奥でずっと寝こけていたはずの兄、サーロが起き出してきて変わる意思を伝えてきたから。
従うがままに変わったわけですが。
息を呑むように、はっとなって。
確かにサーロを認識したラル。
発せられた言葉を理解し、問題なくラルがその炎を消し引っ込めるものと思われたが。
「わわぁっ」
久方ぶりにローサにあまり見せたくない部分を見せてしまった事への動揺か。
少しばかり焦ったかのようなラルの声がして。
七色の炎はそのまま消えることなくまっすぐにエンジンの中枢へと向かっていって……。
(第109話につづく)




