第107話、うしろ髪ならぬしっぽを引かれながら、新たなる地へ
SIDE:ラル
「あ~あ。オ、私も闘技場、行って見たかったなぁ」
ラルたち一行は、イゼリの家族、獣人族に見送られて。
『フーデ』の国を出発していた。
レミラたちの故郷、魔法学園によって借り受けた(ラルはそう思っている)魔導船に乗り込んで。
一路『闇の一族』が母国とする『ボクージュ』へと向かったまでは良かったのだが。
どうやらそれぞれの獣耳を可愛いローサとリーヴァ、ルキアの三人でもふもふな獣人族の皆が多く出場する、魔法もありな格闘大会が行なわれるというコロシアムの方へ向かっていたようで。
ラル自身ももふもふを堪能……見に行きたかったのだが。
ちょうどそのタイミングで、『金』の『ロボット』などと呼ばれることもある類の魔物魔精霊たちと触れ合っていたこともあって、共に行くことはままならなかった。
ラルが、格闘大会などに興味がないだろうと思っていた、などといった三人のいいわけと。
何やら次の『事件』が起こってしまう前に、『ボクージュ』の国へ向かわなければいけないといった、やるべきこと。
それが上手く解決できなのならばまた見に来ればいい。
何でも大きな大会が後々にあるということで、ラルは渋々ながらも折れることにしたわけだが。
「お姉ちゃんたちは、なにを見に行ってたの~?」
「あ、それは私も気になりますぅ。ルーちゃんがわたしを置いていくだなんて珍しいしぃ」
まさかダメだって言っていたのにも関わらずやっぱりもふもふを堪能しに行っていたのか。
アイやウルルと一緒になって問い詰めると。
三人は少しだけ顔を見合わせた後、ローサが代表して口を開く。
「ラルさまが捕らえた『闇の一族』の方々がいたでしょう? この国で悪事を働いたものには、獣人族の闘士たちの対戦相手になるというのが、与えられし罰であり、償いのためのお仕事であると聞いたんです。『闇の一族』が本拠地としている『ボクージュ』の動向が知りたかったので、面会をしに行っていたんです。お相手の方がどのような状況かもわかりませんでしたし、あまり大人数で向かうのもと思いまして」
もうこうなったら、別に隠すことでもなし、洗いざらいといった様子のローサ。
相変わらず口調がどこか不安定で、他人行儀な部分も垣間見えてはいたが、発せられるそのセリフに嘘は感じられない。
別にラルを置いておいてもふもふを堪能しにいったわけではないことが分かって。
そうだったのかぁと、アイと一緒に頷く中、ウルルだけが未だ少し拗ねていた。
ウルルからすれば別にそれ、私がついて行っても良かったじゃなぁい、と言うことなのだろう。
それに対してのルキアは、ウルルには妹であるアイのお世話があるだろうと主張していて。
そんな言葉内には、恥ずかしがっている部分もあったけれど、ウルルのことを心配しているのも良く分かって。
ウルルはウルルで、ルキアにそんな風に甘えているのだと気づいてからはラルとしても仮面があるなしにも関わらずニヨニヨが止まらなくなっていて。
「ふうん? それじゃあこれから、『ボクージュ』の国の王様に会いに行くんだね」
「はい。表向きには観光、こちらのギルドで依頼を受けてやってきた冒険者として行動する予定なのですが、『ボクージュ』支部のギルドは形骸化しているといいますか、召喚魔法にかまけているからなのか、連絡がつかないのでそれでもアポなしで上陸するに等しくなってしまうのが悩みどころなのです」
「つまり? 取り敢えずは行ってみないと何とも言えないけど、『ボクージュ』国ではとにかく召喚魔法が使えないと始まらないってことですか」
「ラルさまのあの火の魔法? の、リムさんたちならいけますかね?」
「んー。どうなんだろう。実は召喚魔法自体は使えるんだけど、リムたちは召喚魔法じゃないからなあ」
「そうなのですか? 私にはほとんど区別がつきませんでしたが」
「もう、ルーちゃんってば。後で理由をじっくり聞かせてもらいますからねぇ。……って、ラルさま召喚魔法も使えるんですかぁ? 水の神さまとは別の使い魔さん、やっぱり炎の神さまなんですかねぇ」
「あ、ううん。使えるってだけで今は契約していないっていうか、契約切れているっていうか、新しく契約する必要があるんだよね」
「あぁ、従霊道士の契約ですね。せっかくだから私たち、契約しておきますか?」
「え? 召喚契約って魔物や魔精霊に限られるのでは?」
「あ、そうでした。よくよく考えてみればこの世界の召喚魔法とラルさまのものは違うのかも。
それでも『ボクージュ』国で受け入れてもらえそうですかね?」
「それは……はい。もしかしたらそれこそが、『ボクージュ』の王が求めていたものかもしれませんから」
どうやらリーヴァも、あるいはローサと同じように『ボクージュ』にこそ救世主たるラルにとっての、この世界へ降り立った目的であろうと、何とはなしに予想しているようで。
その自覚が、あるいは意味を理解していないのは。
やはり当の本人であるラルだけなのかもしれなくて。
「おーいみんな~、ラルさま~。あさごはんだよ~。今日はノアレねぇが当番だよ~」
故にこそ、目的を果たし帰る云々が、もうあまり関係なくなっていることなどとは気づけるはずもなく。
どこかへ行ってしまったかと思ったら、そんなお知らせをするために戻ってきたらしいアイのそんな呼び声がしたことで、出航一日目が始まるのであった……。
(第108話につづく)




