13 旅の理由
「さて、どうするか」
ミトは物陰から自分の船を眺めながら、腕組みをした。すでに船の周囲はたくさんの、さっきまでの追手と同じような機械たちで固められている。
「ここまではテンネの案内でなんとか辿り着いたけど、船はな、予想通りだ」
地上に着陸した船は、コンテナによって地下の格納庫まで降ろされていた。船の真上は開閉式の天井になっていて、そこが開けばすぐにでも出られそうだ。
「どうしよう、さすがに二人であの人数をくぐって飛び立つのは無理があるね。下手したら燃料も抜かれているかもしれない」
「いいえ、燃料はたぶん大丈夫よ。この星は地下だから、ガスや火事には細心の注意を払ってる。あなたたちが指名手配されたのはついさっきだから、まだ不審飛行物としての燃料の検分も済んでないでしょう。あのアンドロイドたちは得体のしれない燃料をほいほい外に出したりできないのよ。法律で決まってるって、そうプログラミングされてるから」
テンネが口をはさんだ。
「なるほど。では船までたどり着ければ問題ないわけだ」
ミトはますます眉間にしわを寄せた。
「天井のハッチは、多分このパソコンで侵入して開けられる。問題はあのアンドロイドだ。あいつらをいっぺんにハッキングすることなんてできるのか?一時的に動きを止めるだけでも。あいつらの弱点はなんなんだ…」
「ねえ、こういうときって、案外原始的な方法が有効だったりするよね?」
こんな状況だというのに、トーマはいたずらを思いついた子どものような顔をして言った。
「動くな!この女の子がどうなってもいいのか!」
トーマは小型のジャックナイフをテンネに突きつけながら、アンドロイドたちの前に躍り出た。
「作戦はこうだよ。まず、僕が囮で前に出る。その隙にミトはパソコンで天井のハッチのロックを解除して、いつでも開閉可能な状態にしておいて。時間は、一瞬でいいんだ。今僕らの前には機械しか出てきていないけど、きっとどこか安全な場所から人間が僕らのことを見ているはずだ。その人たちに届けばいい」
「駄目だ、これだけの機械の前だぞ、危険すぎる。どうしてもというなら、囮なら俺がやる」
「ダメだよ、ミトはハッキングに集中して。あの天井が開か投げれば、どのみち僕らはこの地下から逃げられないんだから。それに囮は素早く動ける僕の方が絶対に向いてるよ」
「駄目だ。俺がハッキングしながら囮もするから、お前はまだここに隠れて…」
「もう、いい加減にしなさいよ!トーマも作戦としては詰めが甘いし、ミトに至っては、もう自分が何言ってるかわかってんの?て感じ」
テンネが見かねて声を上げた。
「あのね、囮作戦は賛成よ。囮役はトーマでね。睨まないでよミト。トーマは安全なンだから。作戦ってのはね、こういう風に口裏を合わせて立てるのよ」
トーマはテンネの言うとおり、まずはテンネを盾にして周囲の注目を集めた。その隙にミトは大急ぎでハッチのロックを解除する。
「あの、聞いて。僕たちはウエストラボのコンピュータからこの星のマザーコンピュータに侵入しました。ごめんなさい。でも、おかげで重要なことがわかったんだ。これは僕らの星が内緒にしてたことなんだけど、でも絶対に知らせなきゃいけないことなんだ」
トーマは、自分たちがマザーコンピュータから得た情報をできるだけ順序良くわかりやすく述べた。指示を出す人間が聞き入っているせいか、機械たちは動こうとしない。トーマの額に、汗が滲んだ。お願い、まだ誰も動かないで。
「ごめんなさい。みなさんから空と地面を奪ったのは、僕たちの星です。人をたくさん殺して、今もこの星を利用し続けています。これがこの星に隠された、僕たちの星が隠した、真実です」
「よし、ロック解除だ、もういつでも開けられるぞ」
ミトが小声でトーマに囁いた。
「みなさん、お願いです。僕たちは、僕たちの星の過去を探す旅をしています。僕たちを憎く思う気持ちも当然です。でも、僕たちは旅を続けたいです。この星のような、隠された真実を、暴いていきたいです。お願いします、僕たちに、旅を続けさせてください」
トーマの声は、遠く響いて静寂に飲まれた。そのまま、三人はゆっくり歩きはじめる。動かない機械たちの奥で、人の話すひそひそとしたざわめきが聞こえた。歩く三人を見つめる機械の複数の眼が、戸惑うように、カメラのピントを合わせるような収縮を繰り返す。あと、10メートル。トーマは船までの距離を測りながら、一歩一歩進んだ。
「止めろ、殺せ!」
三人の後ろで、大きな声がした。振り返ると、あのラボで二人の案内したあごひげの研究者が指を指していた。
「何をやってるんだ、こいつらはスパイのハッカーだ。小娘も仲間だ、全員、この場で殺せ!」
「ちょっと、おじさん!?」
テンネは思わず抗議の声を上げた。
「走れ!」
機械たちの動くガチャガチャという音が聞こえてくる前に、ミトは叫んだ。
機械の腕をかいくぐりながら、何とか船までたどり着いた三人は急いで船のロックを外す。
「テンネ、本当にありがとう。でももう行って。今ならまだ君は被害者として扱われるから、きっとひどい目にもあわされないよ。迷惑をかけてごめんね」
トーマは船にかかったロックを解きながら言った。
「何言ってんのよ、ここで釈放したらますます仲間だって言ってるようなもんじゃない。人質としてもう少し付き合うわよ、このアンドロイドを追っ払うくらいならできるわ。どうせこいつら、あたしにやられたかあなたたちにやられたかなんて、報告するだけの知能なンかないわよ」
そう言うと、テンネは這い登ってきた機械たちの横っ面を勢いよく蹴とばした。
「本当にすまない。お前にも、ポルおばさんにも迷惑をかけた」
ミトがパソコンを操作すると、ハッチはゆっくり開き始めた。
「行くぞ、トーマ、乗れ!」
「了解!」
トーマは前方の運転席に飛び乗ると、すぐにエンジンやバッテリーの確認をした。
「ねえ、何だかにおわない?」
テンネが不安そうにミトに言った。
「エンジンのにおいだろう、久しぶりに動かしたから、焼けるようなにおいがするんだ」
「違う!見て!」
テンネの指差す先には、ほの暗い灯りが見えた。それはどんどんと勢いを増し、三人の周りを取り囲んでいく。
「信じらンない!あのジジイ、火を放ったんだわ、燃料を積んだ船が山ほど停まってる、このコンテナに!」
「どうあっても俺たちを逃がさない気だな。他の船が燃えたってかまわないってことか」
「何言ってンのよミト!この星じゃ放火なんて死刑よ!なンてことなの、なりふり構わないのにもほどがあるわ!」
ぼんっと音がして、火が一段と高く上った。どこかの船の燃料に引火したらしい。
「とにかく、乗れ!」
ミトはテンネを後部の指令席に引っ張り込んだ。荷物を宿屋に置きっぱなしの分余裕ができていたスペースに、テンネは頭から転がり込む。
「これは予備の防護服だ、これを着ていったん地上に出よう。ここにお前を残しておくことはできない」
ミトは自分も防護服を着ながら、トーマに出発の合図をした。
船はゆっくりと浮かび上がる。何とかしがみつこうとする機械たちを振り切って、地上へ向かって上昇した。下には、火にあぶられて崩れていく機械の姿がかすかに見えた。




