12 星の真実
研究室の中を疾走しながら、トーマは混乱していた。ミトは確かに慌てているようだったが、その様子は今まで見たことがないくらいの狼狽ぶりだった。
「ねえ、何があったの」
彼はいったい、何を見つけてしまったのだろう。
ミトは答えずにラボを飛び出した。来るときに使った駅を通り過ぎ、そのまま裏通りへと進む。
「いいか」
走りながら、ミトがやっと口を開いた。
「もう公共の乗り物は使えない。俺たちはこの星から追われる身になっちまった」
「なんで、ねえ、うわっっ」
目の前からまた、ガラクタの寄せ集めのような機械の人形が現れた。
「俺たちはこの星の救世主なんかじゃない、むしろ逆だ」
路地を曲がって逃げながら、ミトは自分が見たものを説明しようとした。
「この星の地上が滅びたのは隕石や噴火なんかの自然災害のせいじゃない。戦争だ。それも、仕掛け人は俺たちの星だ」
「僕たちの星が、この星を滅ぼしたってこと?」
「そうだ、俺たちの星はこの星を占領して、今も支配下に置いている。この星の地上を人が住めないほど破壊して、地下でアンドロイドの研究をさせている。俺たちの星に技術を送り込むために、だ」
「そんなことしたら、この星の人たちも黙ってないでしょ、何処かからでも情報が洩れれば、それこそこの星の技術力で何とでもできるよ、輸出したアンドロイドにクーデターを起こさせるとか…あ!」
トーマは気づいた。
「そうだ、そのためのマザーコンピュータだ。全く大したセキュリティ技術だよ、この情報を引き出した時、トラップに掛かって見つかっちまった」
そこまで言ったところで、行き止まりになってしまった。引き返そうにも今にも追手がその角を曲がって二人に追いつくところだ。袋小路の終点でミトは頭を巡らせた。トーマだけ、運動神経の抜群なトーマだけなら、この壁もあるいは…
「掴まって!」
ミトが見上げていたその壁に開いた窓から、結び合わせた長いカーテンが伸びてきた。
「で、どういうことなの」
テンネは二人が部屋の中に上がったのを見てから、小声ですごんだ。
「おばさんの宿に警察が来たわ。密入国の侵入者が二人、身分を偽ってここに潜伏してるって。隠しだてすると私たちだって無事じゃないって言われたわ」
テンネがトーマのGPSを頼りに見学しているラボを探し当て、近くまで来てみたら案の定、大騒ぎになっていたということだ。税関では15歳で登録してあるから、トーマにGPSが付いているとは警察も思わなかったらしい。
「失敬な。密入国はしてない。ちゃんと空港を通して正式に入国している。もっとも、その記録はもう抹消されているんだろうがな」
ミトは皮肉っぽく笑った。二人の荷物は、宿の鍵付きクローゼットごと警察に差し押さえられているらしい。とっさにラボからこのコンピュータを持ってきておいて良かったと、ミトは変なところで安心した。
「本当に、どういうことなんだよ、ミト。僕たちはどうなっちゃうの」
トーマは途方に暮れて言った。
ミトは、テンネに向かってことの顛末を隠さず順に説明した。
「…それが本当なら」
テンネは重たげに口を開いた。
「あなたたち二人は、私たちの敵ってこと?地上も、空も、朝も夕方も、私たちから奪ったのはあなたたちの星ってこと?」
「…そうなるな」
「私たちはあなたたちの星を恩人だと思ってきたわ。それは嘘で、むしろ敵で、自分たちのアンドロイド技術の向上のために私たちを利用してたってこと?」
「マザーコンピュータの中の機密情報では、そういうことになっている。ここは、母星エイデンが高性能で従順なアンドロイドを使うために侵略して占領している、マザーコンピュータで統制されたいわば巨大な一つのラボだ」
「ふざけないでよ!」
テンネは叫んだ。
「嘘よそンなの、だって、そンなの、この星の誰も知らないわ!そンなことってある?いくら強大な他星に制圧されたからって、歴史を改ざんされたって、親から子に伝えていくことは可能だわ。いいえ、むしろ伝わってないはずがない!こンなことをこの星の住民が忘れるはずがない!」
「でも事実だ、そうでないと説明がつかない!」
ミトも声を荒げた。
「この星の急成長を誰もおかしいと思わなかったのか?壊滅状態で科学者も大量死して、あっという間にこの科学水準に上り詰めるなんて、やっぱり裏があったんだ。俺たちの星はこの星を攻撃した後、征服してアンドロイドの情報を与え、生き残った研究者に研究させた。俺たちの星は隣人を救った善意の星じゃない、侵略の事実を隠そうと情報操作をしてただけだ、これが俺たちの星の隠したがっていた過去なのか?」
「ミト!もういい加減にしなよ!」
トーマが叫ぶと、騒がしかった部屋は水を打ったように静かになった。
「テンネ、ごめんね。どうやら君たちの星をぼろぼろにしてしまったのは、僕たちの星みたいだ。朝も夕方も星空も、君たちから全部奪ってしまった。本当に、ごめんなさい。それから、さっきは助けてくれてありがとう」
「…そんなの、あなたに謝られても仕方のないことだわ。私にとっては、二人は宿のお客さんなだけだし」
「ミト。ここから早く出よう。錆びた古い金属の匂いが増えてきた。もうじき追ってがここに気づくよ。それで、これが僕たちの探していた過去なのだと思う?」
「…いや、これはまだ一部で、もっと知らなければならないことがある、と思う」
「それは、君の勘?」
「いや、確信だ。星ひとつ侵略してまで得たかったものが、アンドロイドを使った便利で豊かな生活だけであるはずがない。何か、他に目的があるはずだ」
「じゃあ、探しに行かなくちゃ。どのみち、もうここにはいられないのだから」
トーマの耳には、接続の悪い機械のガチャガチャという音が届き始めていた。




