4月2日(月) ま3
いよいよ予算会議が始まった。今日は最終会議とのことで九割方はまとまっているとは言え、最終承認がされてなければ予算は執行できない。ここで話がまとまらなければ、明日から取引はおろか、取材すらも行くことができない。
まあ、さすがにそんなことはないだろうけど、予算承認されてないと言うことはそのようなことも起こりえると会計担当者なら当然考えなければいけない。
会議には七島社長、瀬々串専務、学習教材担当の河浦、営業担当の尾辻、取材班主任の猿渡、編集班主任の大畑の六名と、総務主任として紫が参加する。社長と専務は紫と同じく予算を編成する側であり、残りの四人がそれぞれの現場の担当者として予算要求する側となる。
「それでは定刻となりましたので、予算案承認会議を始めたいとおもいます。既にご承知と思いますが、本来でしたら、三月中に行わなければいけない会議です。しかし、今年度は会計担当者の交代により、本日の開催となりましたことを専務としてお詫び申し上げます」
瀬々串専務がいつになく真面目な口調で開会宣言したので、専務が頭を下げるのに合わせて、紫も思わず頭を下げてしまった。そんなことなら、もう少し早く福岡入りすることもできたのに…。実を言うと内心ちょっと不満すら感じている。
「専務も仰っているように現場の皆様にはご迷惑をおかけします。私からも会社の責任者として、お詫び申し上げます。それでは早速、予算案の承認に移りたいと思います。専務、進行をお願いします」
「それではさっそく各部署からの質問や意見をふまえた上で最終案を作成しましたので、目を通して下さい。なお、すでにこれまでの会議で何回も調整した内容ですので、この案を根底からひっくり返すような意見を言うのはご遠慮ください」
専務がそう言うと、紫は専務から渡された資料を各担当者に配った。各担当者は食い入るように最終案に目を通している。
「それでは各部署から最終意見をお願いします。まずは営業担当から」
「はい、営業担当からですけど、これまでの会議で要求した増額が認められていましたので、問題ありません。これで福岡はもとより佐賀県や熊本県北部への月刊HAKATAを置いてもらえるように営業をかけていきたいと思います」
河浦がそう言うと、社長も専務も頷いていた。紫は思わず拍子抜けした。これなら十分で終わるだろう。しかし、予算総額は前年度とほぼ同じである。予算を増やされた部署があれば、当然減らされた部署もある。
「次は学習教材担当」
「はい、学習教材担当からです。昨今の原料費高騰を受けまして、九教研(九州教育研究会)さんへの教材開発費を十%から八%への値下げに成功致しました。値下げに浮いた分は教材作成費に充てて、教材予算で赤字がでないようにして頂きましたので、問題ありません。また、一方で九教研が九教研の教材を使う学校を増やすように働きかけたため、学習教材を使う総数が増える予定ですので、九教研さんへ支払う教材開発費は結果としては前年度同じようになるよう調整して頂きましたので、九教研さんもうちも損しないように致しました。あと、営業地域が拡大しましたので、補助要員のバイト一人の人件費の確保もして頂きましたので、何も問題ありません」
尾辻のやり手ぶりに、思わず参加者から拍手がわき起こった。実はビオランテ出版の収入の半分が学習教材部門である。一方で支出は全体の五%である。仮にバイトの人件費を予算に計上しても全体の一割に満たない。実に優秀な部署である。




